連載講座:グラフでみるビジネス情勢 第2回
「バイト時給は上がったけれど 〜人出不足と景気〜」 御園謙吉

職探しに良い環境

 最近、アルバイト募集の時給が良くなっていると思いませんか? 大学生の就職率も24年ぶりの高水準になっています。今回は、「グラフでみるビジネス情勢」第2回として労働関係のデータをみます。前回の「短観:略称が超有名な統計」でみた通り、人出不足感が強まっています。ということは、働く側から見れば都合が良いはず。図表1をみましょう。まず、正社員の求人倍率(赤い線)−仕事を探している人1人当たり何件の求人があるか−の最新データ(2017年7月末に発表された6月のデータ) は、統計を取り始めた2004年以来初めて1を超え、1.01となりました。仕事を選ばなければ、すべての人が正社員になれるのです。
 2009年8〜10月は0.25、つまり、4人に1人しか正社員になれなかったわけですから、求職者にとってはとても都合が良い状況になったと言えます。パートも含む求人倍率(青い線)は1.51で、バブル経済期で最も高かった1990年7月の1.46を超えました。また、失業率(緑の線)も、1994年6月以来13年ぶりの低い水準です。

 ちなみに図表2で職業別に求人倍率を見ると、どの職種も増え続けて5年前の倍くらいになっていますが、特に保安、建設・採掘が高いことがわかります。

アルバイト時給も上がる

 図表2で建設が上位になっていましたが、東京商工リサーチという調査会社の発表によれば、2017年3月期決算の上場企業2,172社の平均年間給与は628万円で、業種別では、建設業が唯一700万円を超えました(711.8万円;)。また、日本経済新聞社の「専門店調査(2016年度)」によれば、パート・アルバイト時給が上がったと答えた企業の割合が、67.6%に達しました(日経MJ2017.7.17)。そこで、リクルートジョブズの調査でパート・アルバイト時給について、まず、図表3で大まかに見ましょう。
 このデータは、求人情報メディア『TOWNWORK』、『TOWNWORK社員』、『fromA navi』に掲載された求人情報から「アルバイト・パート」募集の求人情報を抽出し、募集時平均時給を集計したもので、大きく6部門、細かくは58職種に分けてあります。ここでは関西の最新データ(2017年7月発表)を1年前と比べました。細かく職種を分けたものは、いくつかを抜粋しました。
 販売・サービス系とフード系は相対的に安いようですが、たいてい昨年より上がっています。図表4で販売・サービス系とフード系のいくつかについて、ここ1年半の動きを見ましょう。どれも徐々に上がっています。チラシ配布は、変動は大きいのですが高くなっています。この中で次に高いカラオケスタッフは、再び1000円を超えるかどうかです。

人出不足で倒産

 このような折に、人出不足によって倒産する会社が増える事態が起こっています。帝国データバンクという最大手の調査会社によれば、図表5の通り、2017年上半期(1〜6月)に件数も負債金額も跳ね上がっています。
 このように、人出不足、つまり仕事が・注文が・要請が多くあるから、多く作る・売る・提供するために人出が必要になるるが、条件を良くしないと思うように集まらないので賃金を上げるが、それでも十分には人が集まらない場合もあり、倒産という事態に至ることもあるわけです。

賃金上昇は部分的

 ただ、バイト・パート時給の上がり方は関西全体としてはこの1年で2%に過ぎませんし(例えば900円が918円に)、経済全体から考えた場合は部分的なこととも考えられます。2017年7月21日に内閣府が発表した『経済財政白書』では、過去の人出不足の時と比較して、賃金の伸びは緩やかなものにとどまっていることなどをふまえて、労使のリスク回避的な姿勢が賃金引上げを抑制している可能性がある、と指摘しています。

 以上のように、少子高齢化の中で人出不足が顕著に現れている現在、経済、経営に様々な影響が出てきています。経営情報学部では、労働、経営、景気に関する様々なデータにあたってそれらを検討し、いろいろな側面から現状を分析することができるような授業を設定しています。