インタープレイと、クリエイティブ・コミュニケーション
対立と調和のバランス
ラゼギ(2008)によると、西洋の創意性は、個人の自由に基づくものであり、東洋の創意性は調和を基礎としています。米国人は、開拓者として生きながら限界に挑戦してチャンスを逃さない人を尊敬し、目的に関しては個人の自由とBHAG(big hairy audacious goals;大きく、難しく、大胆な目標)の達成を可能にすることを選好します。日本人の場合、開拓的な人になるよりは、「いい子」になることを最高の徳目としており、調和を増進し、大衆を困らせない幅広い解釈を認定する目標を選好します。従って、欧米人は群衆のなかで眼立つ存在になることを夢見ていて、瞬発力のある創意性が奨励されますが、日本では、ユニークなアイデアを持つ創作者はよく無視され、疑われ、馬鹿にされます。皆さんはこのようなラゼギの話に共感するのでしょうか。
経営の現場で個人と集団の調和問題は、洋の東西を問わず何時も注意すべき古くて新しい課題です。多くの人たちは個人の自由と集団の調和は同時に達成できないと言います。集団の調和を確保するためには否応なしに個人の自由に対する抑圧が前提であると言います。しかし、今日の創造経営の観点からみると、個人の自由度と集団の調和は両方ともに諦められない非常に重要なバリューになります。アイデアを出す個人としての創意性も大事ですが、企業組織の中で多様な実行プロセスを経て結果的に生産性を向上させる組織創意性を引き出すことも大事です。ITの発展により、時空間を超えてビジネスとコミュニケーションが可能になったメガ・コンペティションのグローバル社会になった現在、我々は個人か組織かを分けて考える必要もないし、東洋・西洋の文化の差異などを挙げながら自ら制約をかける必要もありません。
松下幸之助は「宇宙のあらゆるものは対立しながら調和をしている」という話を残しました。それぞれ個性という特徴をもって自己主張をするのが対立なので、月と太陽、山と川、男と女も対立していますが、対立しているばかりではなく、お互いに調和をし、大自然と人間社会の秩序を構成していますので、対立と調和は1つの自然の原理であり、社会の望ましい姿であるという話です(PHP研究所、2001)。しかし、大洪水や地震により、山や川の構図が変わることと同じく、このような対立と調和も崩れながら進化していく部分もあります。ジャズ音楽がスウィングミュージック時代を経て、ビバップ、ハードバップの時代に発展したことも、このような対立と調和のバランスが崩れて新たに進化した結果であると考えられます。
経営の現場で個人と集団の調和問題は、洋の東西を問わず何時も注意すべき古くて新しい課題です。多くの人たちは個人の自由と集団の調和は同時に達成できないと言います。集団の調和を確保するためには否応なしに個人の自由に対する抑圧が前提であると言います。しかし、今日の創造経営の観点からみると、個人の自由度と集団の調和は両方ともに諦められない非常に重要なバリューになります。アイデアを出す個人としての創意性も大事ですが、企業組織の中で多様な実行プロセスを経て結果的に生産性を向上させる組織創意性を引き出すことも大事です。ITの発展により、時空間を超えてビジネスとコミュニケーションが可能になったメガ・コンペティションのグローバル社会になった現在、我々は個人か組織かを分けて考える必要もないし、東洋・西洋の文化の差異などを挙げながら自ら制約をかける必要もありません。
松下幸之助は「宇宙のあらゆるものは対立しながら調和をしている」という話を残しました。それぞれ個性という特徴をもって自己主張をするのが対立なので、月と太陽、山と川、男と女も対立していますが、対立しているばかりではなく、お互いに調和をし、大自然と人間社会の秩序を構成していますので、対立と調和は1つの自然の原理であり、社会の望ましい姿であるという話です(PHP研究所、2001)。しかし、大洪水や地震により、山や川の構図が変わることと同じく、このような対立と調和も崩れながら進化していく部分もあります。ジャズ音楽がスウィングミュージック時代を経て、ビバップ、ハードバップの時代に発展したことも、このような対立と調和のバランスが崩れて新たに進化した結果であると考えられます。
ジャズ・ミュージシャンの創意性
モダン・ジャズの始まりだと言われているビバップを代表するジャズコンボのように、個人と集団の情緒が共存する他のジャンルの演奏はそんなに多くないと言われています。一般的なジャズコンボの演奏は、トランペットなどの管楽器によるメロディーラインの演奏、ベースなどのリズム・セクション、そして、音楽の全般的な雰囲気を壊さない範囲の自由なインプロビゼーションを特徴とします。このように、個人と集団の調和で引き出される創意的なアウトプットとしてのジャズは、既存の観点をひっくり返したり、他のミュージシャンたちとの差別化を図るために様々な探求を重ねたりして発展してきました。
ジャズバンドに使用される楽器の役割変化に着目すると、ジャズ・ミュージシャンたちの創意性が見えてきます。元々、ベースは正確な時間厳守(time keeping)を通じて音楽の骨組みを維持してあげるのが伝統的な役割でした。しかし、ジャコ・パストリウス、チャールズ・ミンガスなどの優れた個人演奏者が登場することにより、ベースも徐々に多様なリズムを積極的に提示するようになりました。ドラムの場合、ベースが曲全体リズムの骨組みを担当しているうちにその曲に活力を与える役割を担当していました。しかし、ハイハット・シンバルがベース・ドラムに代わってドラムのリズムを刻むようになってからは、単純に拍子合わせや強弱調節という打楽器の範疇を超えてメロディー楽器のような効果を出すこともできるようになりました。いわゆるメロディック・ドラミングといわれるものですが、マックス・ローチなどがその代表的なドラマーとして知られています。ベースやドラムのようなリズム楽器がメロディー楽器としても機能するようになってから音楽的表現の可能性は大きく拡張されました。楽器の伝統的な役割概念を打破した結果得られた画期的な発展であると言っても過言ではありません。
しかし、全体的にみると、やはりリズム楽器の主たる役割はあくまでも音楽を安定的に支えることに変わりはありません。いくらリズム楽器群が多様な役割を消化できるといっても、その本質的な役割の重要性はそのままだからです。もし、リズム楽器がメロディー楽器としての副業に偏ってしまえば、その音楽は根っこから揺れていく可能性が高いでしょう。確かな役割をしてくれるリズム楽器群がなければ、演奏の途中にリズムが持続的に揺れてしまい、ソロだけではなくメンバー全体がそのリズムの脈をつかむことに忙しくなります。他の演奏者たちが予測できないミスを恐れたりすると、果敢に独創的な演奏にチャレンジできないのは言うまでもありません。
ジャズバンドに使用される楽器の役割変化に着目すると、ジャズ・ミュージシャンたちの創意性が見えてきます。元々、ベースは正確な時間厳守(time keeping)を通じて音楽の骨組みを維持してあげるのが伝統的な役割でした。しかし、ジャコ・パストリウス、チャールズ・ミンガスなどの優れた個人演奏者が登場することにより、ベースも徐々に多様なリズムを積極的に提示するようになりました。ドラムの場合、ベースが曲全体リズムの骨組みを担当しているうちにその曲に活力を与える役割を担当していました。しかし、ハイハット・シンバルがベース・ドラムに代わってドラムのリズムを刻むようになってからは、単純に拍子合わせや強弱調節という打楽器の範疇を超えてメロディー楽器のような効果を出すこともできるようになりました。いわゆるメロディック・ドラミングといわれるものですが、マックス・ローチなどがその代表的なドラマーとして知られています。ベースやドラムのようなリズム楽器がメロディー楽器としても機能するようになってから音楽的表現の可能性は大きく拡張されました。楽器の伝統的な役割概念を打破した結果得られた画期的な発展であると言っても過言ではありません。
しかし、全体的にみると、やはりリズム楽器の主たる役割はあくまでも音楽を安定的に支えることに変わりはありません。いくらリズム楽器群が多様な役割を消化できるといっても、その本質的な役割の重要性はそのままだからです。もし、リズム楽器がメロディー楽器としての副業に偏ってしまえば、その音楽は根っこから揺れていく可能性が高いでしょう。確かな役割をしてくれるリズム楽器群がなければ、演奏の途中にリズムが持続的に揺れてしまい、ソロだけではなくメンバー全体がそのリズムの脈をつかむことに忙しくなります。他の演奏者たちが予測できないミスを恐れたりすると、果敢に独創的な演奏にチャレンジできないのは言うまでもありません。
インタープレイとコミュニケーションの重要性
ジャズコンボで良いインタープレイが行われるためには、演奏者の間で内密な情緒の共感が必要です。友好的であれ敵対的であれ、お互いに緊密なコミュニケーションが行われるときに演奏の質は高くなると言われています。そのためには、まず、自分自身と自分が演奏する楽器をよく知っておくことが大事です。要するに、演奏者は、自分が担当している楽器のアイデンティティーを絶えず探求しながらより良い演奏ができるよう頑張らないといけないのです。「己を知り、敵を知れば百戦百勝」という孫子の話もありますが、自分自身を知ったうえで他人とコミュニケーションするときに真のコミュニケーションの意味があると言えるでしょう。これは、専門性のある人だけが他人の専門性を認識でき、交流できるという話と同じ脈絡の話です。専門性のある人が誰かとコミュニケーションしながら協業に至るプロセスは、その集団の凝集性と成果を高めることにおいて非常に重要な役割を果たします。ジャズバンドのメンバーたちも楽器パート間のコミュニケーションを通じて、知らなかった自分の強弱点を知り、他人の長所を学ぶことになります。従って、楽器の編成が大きくなると(組織の規模が大きくなると)コミュニケーションの重要性がますます高くなるのは当たり前です。
クリエイティブ・コミュニケーション
バーナード(1938)によると、組織は、相互に意欲を伝達できる人々があり、それらの人々は行為を貢献しようとする意欲をもって、共通目的の達成をめざすときに、成立します。したがって、組織の要素は、?伝達(コミュニケーション)、?貢献意欲、?共通目的であり、これらの要素は組織成立にあたって、必要にして十分な条件です。組織の構造、広さ、範囲は、ほとんどまったく伝達技術によって決定されるから、組織の理論をつきつめていけば、伝達が中心的地位を占めることになります。つまり、組織の中で一番大事なのがコミュニケーションであるということになりますが、現実的には多くの企業で組織診断を行うたびに必ず出てくるのがコミュニケーションの問題です。まさに、永遠の課題であるとも言えるでしょう。もっと厄介なのは、コミュニケーションの形が時代の変化に伴って次の<表1>のように変わっていく必要があるということです。
企業の中で問題視されるコミュニケーションは、実は様々な側面から語られるので、その本質を掴むことがなかなか難しいです。実話ですが、ある会社の組織診断結果、あるチームの評価が非常に悪く、その原因を探ってみると、コミュニケーションに問題があることがわかりました。しかし、そのチームのチーム長は部下社員たちとの私的な会話や「飲みにケーション」を大事にしており、他のチームに比べるとすごく良い組織雰囲気であると自負していたので納得ができないという反応でした。それで、部下たちに直接インタビューをしてみると、意外なことが明らかになりました。確かにそのチームは仲良しの仲間で、私的には何でも相談に乗ってくれる良い人間関係にあることは認めましたが、明確な目標の提示やフィードバックがないなど、日常業務の面でのコミュニケーションはあまりよくないということでした。つまり、ある組織の中でコミュニケーション問題が出ると、具体的にどのような内容のコミュニケーションに問題があるのか見極める必要があるという話です。企業の中で行われる様々なコミュニケーションについて、その中身を中心に分類すると次の<図1>のようになります。
ジャズのインタープレイと関連して注目したいのは、目標管理などの日常業務的なコミュニケーションでも、「飲みにケーション」みたいな情緒的コミュニケーションでもなく、革新と創意のクリエイティブ・コミュニケーションです。クリエイティブ・コミュニケーションとは、イノベーションの方向性を伝達するビジョンの提示や創意的アイデアの提案、知識の結合、協業など、革新的な課業の遂行と密接な関係があるコミュニケーションを言います。従って、クリエイティブ・コミュニケーションは、創造経営時代に必須不可欠なコアのコミュニケーションになりますが、多くの企業では様々な理由で上手くいかないのが現実です。日々大変忙しい仕事の中で日常的なコミュニケーションに追われがちなのが一番大きい理由でしょうが、それよりもっと根本的な理由は、コミュニケーションの当事者がインタープレイを行うジャズコンボのメンバーのような専門性を確保してないことにあるのではないでしょうか。せっかく創意的な良いアイデアが出ても他のメンバーが専門性をもって評価できる目をもってないと、そのアイデアは活かせないからです。