2016.8.22

連載講座「インターネットと経営」 IOT時代に求められる人材像

人事・組織マネジメントにおけるIoTのインパクト

IoT(Internet of Things、モノのインターネット)の進展は、すでに「第4次産業革命」といわれるほど業界を揺るがしており、スマホなどを通じて我々のライフ・スタイルにも大きな影響を与えています。当然ながら企業の人事・組織マネジメントにおいても大きなインパクトをもたらしていると思われます。以下では、そのなかでもまさにパラダイム転換と言えるほど根本的な思考転換が求められる重要な変化について、IoTの本質に照らして考えていきます。

(1)みなし同質集団管理から個別管理へ

IoTはRFID(電波でモノのIDを扱う技術)の利用から始まりました。従来であればある商品に同じバーコードが印刷され、同じ商品であることだけが識別できましたが、RFIDを使うと、皆さんが持っているある商品(モノ)と同じ型番の私の持っているモノを違う存在として特定できるようになります。このようなバーコードとRFIDの違いを人事・組織マネジメントの場面で考えるとどうなるのでしょうか。例えば、大卒新入社員の場合、従来であればみんな同じバーコードが付いているある種の商品みたいに、企業内等級制度によって同質集団とみなされ、同じ処遇を受けましたが、RFID式では、出身も、能力も、行動も、関心事も違う異質的な一個人として把握し、個別管理することができるようになります。

すでに既存のIDカード(社員証)をウェアラブルセンサーに変えて経営現場で活用している企業も登場しています。このウェアラブルセンサーを利用することにより、個人の身体運動の特徴パターン(人間行動のデータ)を取得し、組織の複数人で集計・平均することができるので、組織生産性の向上に関連のある行動の抽出が可能となっています。この結果をプロジェクトマネジメントやサービス業務の生産性向上、顧客満足度向上に活用することができるといわれています。結果的には個別管理も集団管理もヒューマン・ビッグデータを分析することにより精緻化されるということです。

(2)企業競争力の鍵になっていく関係性のマネジメント

オープン・イノベーションなど、外部との協力も重視してきた研究開発部門と違って、人事・組織マネジメントは概ね内部向けでした。つまり、主に従業員の人的特性に関心があり、その従業員が持っているネットワークまで管理しようとはしなかったわけです。しかし、今の時代は、モバイルワークも盛んに行われるようになり、社内ではなく社外で、自社の従業員ではなく他社の従業員とのコミュニケーションがもっと頻繁に行われる現象もみられます。有名なベル・スター研究(Kelly、1999)によると、高い成果を上げているスター研究者は仲間(専門家)と強い関係を結んでおり、彼らから迅速かつ有益な反応を得ることができ、無駄な時間を費やしたり、袋小路に迷い込んだりすることが少ないといいます。また、そのスター研究者のネットワークにはより多様な人々が含まれており、自分の観点以外にも、顧客、ライバル、マネージャーなどの観点から物事を考えることができ、問題に対してより優れた解決策を編み出すことができるという事実が判明しています。また、IoTの進化によって「モノたちのネットワーク」も広がっており、人工知能などの発達で、個人も組織も外部からさらに多くの情報を取り入れ、活用することができるようになりました。従って、組織内外における人間同士のネットワークはもちろんのこと、モノと人間、モノとモノのネットワークを如何にマネジメントするかが今後の企業の生産性を大きく左右することになるしょう。

これからの時代に求められる人材

それでは、このような大きな変革の時代に企業にはどのような人材が求められるのでしょうか。様々な議論がありそうですが、ここでは、愚見ながら次の3つの類型に整理してみました。

(1)ゲートキーパー型人材

あらゆるところから関係のある情報を読み取り、使用者の目的に合わせて情報処理をすることが可能な時代に企業が組織内の人的資源のみを活用することは時代遅れになります。MEMSやGeofencingなどの技術を活かした「センシング」、BeaconやIPv6技術などで広がる「ネットワーク」、Big DataやCloud Computing技術などを活用する「サービス・インターフェイス」から成り立つIoTの世界と同じく、企業においても組織内外を問わず様々な情報をセンシングし、組織内外に共有させ、問題解決など共同作業ができる人材が必要になります。要するに、組織や企業の境界を越えてその内部と外部を情報面からつなぎ合わせるゲートキーパー的な存在が求められるわけです。専門領域を持つ好奇心旺盛な知識のアーリーアダップターとして、コラボに長けている類型の人材であるとも言えるでしょう。

(2) 編集者型人材

インターネットの普及により誰でも簡単に様々な情報にアクセスできるようになったのは大変有用なことですが、残念ながらその反動として我々人間の「考える力」が弱まっていることも事実です。溢れる情報の中から取捨選択することがますます難しくなっているわけです。情報というのは、誰かの解釈を通じて意味付けられた刺激(Stimulus)であるといわれています。解釈は意味付けの行為なので、ある情報は他の情報と関連して説明されるのが一般的です。企業組織を含む多くの経済主体は競争相手と差別化を図るために新たな知識を求めていますが、知識(Knowledge)とは情報と情報の関係であるという議論からすると、「新たな知識」とは、「情報と情報の関係が変わる」ことを意味します。したがって、企業にも情報と情報の関係を見極める能力を備えた人材が必要になりますが、そういった能力は優れた編集者の能力にほかなりません。このような編集能力が、知識経済の時代に欠かせない人材の能力であります。

(3) サイボーグ型人材

人類の歴史は道具の発明と活用の歴史であるとも言われています。IoTの進化により道具が単純な道具に留まらず、他の「モノ」や「人間」とコミュニケーションを行う行為能力(Agency)を持つ存在(アクター)として活躍するようになった時代に、人間の肉体的・知的能力だけではなく、個人が駆使できる道具の能力が問われるのは当然のことです。すでに人工知能が作り出した絵、小説、音楽などが話題になっていますが、個人が人工知能を自由に使えると、そのクリエイティビティや生産性がどうなるかは言うまでもないはずです。ということで、これからの企業には、生命体(organ)と自動制御系の技術(cybernetic)を融合させたサイボーグ(Cyborg)のように、IoT関連道具を自分自身の身体のように自由に駆使できる人材が歓迎されるでしょう。

IoTの進化によって、仕事に取り組む個人の能力や自由度が無限に広がると予想されるこれからの時代には、如何にしてこういった人材を確保し、維持できるかが、企業の新たな課題になります。情報技術の進化により確かに便利な社会になりつつありますが、せっかく培ってきた能力がすぐに陳腐化してしまう状況のなか、企業も個人もますます頑張らなくてはいけなくなっていくことは、本当に我々の幸福につながるのでしょうか。

以上

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