2022.10.24

「ゲーム・eスポーツ・メタバース:デジタルコンテンツビジネスの進化と教育機関の関わり方について」参加報告

2022年10月20日オンライン実施された情報処理学会連続セミナー2022
第8回「ゲーム・eスポーツ・メタバース:デジタルコンテンツビジネスの進化と教育機関の関わり方について」に参加しました。

本連続セミナーは情報処理学会で研究者でも産業界でも人気コンテンツで、毎年最新のテーマや技術が取り上げられます。反対に言うと、ここでテーマに取り上げることが現在の注目テーマ、今後のトレンドになるということが予測できるというセミナーです。研究者としてとても興味があるセミナーです。

さらに、経営情報学部ではeスポーツ大会イベントを実践教育に取り入れて、学生の経営と情報に関する教育を実施しています。本学で着目したeスポーツを取り入れた教育のトレンドを知るために本セミナーに参加しました。
非常に興味深い内容、教育機関として重要な講演でしたので、その内容を報告させていただきます。

全体の結論を先に述べますと、「ビデオゲームで楽しく遊んで、深いテクノロジーの世界へ、深いコンテンツビジネスの世界へ」ということです。勉強の入り口やきっかけはゲームやeスポーツが若者にとっては有効です。そして、eスポーツ大会を開催するためには深いテクノロジーの知識と実践が必要となり、eスポーツ大会を世の中に広めるためには深いコンテンツビジネスの知識と実践が必要ということです。特にコンテンツビジネスは大学の経営学や大学院のMBAでしか学ぶことができず、大学の経営学の重要性を強調しておりました。現在、経営情報学部で実施しようとしているeスポーツ大会イベントを取り入れた実践的教育がまさにこの結論と一致し、阪南大学がeスポーツを取り入れた教育に着目したことは間違っていなかったことを再認識しました。
次に、講義の詳細を説明します。
3つのセッションに分かれており、それぞれを簡単に紹介します。

Session1

Session1は、上記のBaro Hyun(Founder/CEO of LunaTone Inc.)さんが「デジタルコンテンツビジネスの現状と専門ビジネス人材の必要性について」を講演しました。

まず最初に日本のデジタルコンテンツの代表であるゲームについてお話がありました。
簡単に言うと、ゲームにおいても携帯電話と同様の道をたどっており、ガラパゴス化が侵攻しています。
世界はチーム戦リアルタイム戦略オンラインゲームの方向に進んでいます。特にゲームメーカも積極的にeスポーツ大会化を推奨し、世界での人気と認知度を上げる方策をしています。一方、日本のゲーム業界は、従来どおりの個人戦中心ゲーム&プラットフォーム依存(Switchでしか動かない等)です。
また、日本ゲームメーカはeスポーツシーンの形成には投資せず、あくまでも個人で遊ぶ市場を目指しています。この点が大きく日本ゲーム市場と世界ゲーム市場の目指す方向がずれて、ガラパゴス化が進行しつつあります。携帯電話のようにいずれは世界のスマホメーカに駆逐され、気が付けば海外製のスマホで日本人が生活しているという同様なことがゲーム業界でも予測されます。私も実際にeスポーツ大会を企画する時に日本のゲームメーカに「eスポーツ大会は私共のゲームの主旨と相容れません」とことごとく断られました。
また、キャラクタの2次利用の厳しい制限等、「やっぱり、人気の日本ゲームではeスポーツ大会はできないんですね!」という結論でした。過去の携帯電話業界と同じ道をたどりそうな,現在のゲーム業界のガラパゴス化は個人的にも憂慮しべきことだと思いました。
以上は、すべてコンテンツビジネスに関する知識と研究成果です。

これらを若者に大学の経営学やMBAで学んでいただき、今後のコンテンツビジネスに携われる人材の育成が大事ということをおっしゃっていました。
経営情報学部の経営でもeスポーツ大会を通じてこのような教育ができればと考えております。

Session2

Session2は、ハワイ大学のNyle Sky Kauweloa(Director of University of Hawaii Esports)さんで、「北米大学eスポーツリーグの現状について」でした。

このセッションでは大学がeスポーツを取り入れた経緯を紹介しており、それが大変興味深かったので紹介します。
2015年ごろ地方の小規模大学でeスポーツをはじめて大学に取り入れるプログラムを実施しました。英語で「Program」と言っているのですが、たぶん制度や仕組みのことで学部とかカリキュラムではないと思います。きっかけは、「米国大学ではフットボールやベースボール等のスポーツは莫大な収入源である」ということで米国大規模大学では立派なスタジアムやスポーツ施設を作り、スター選手を育て大規模な大会を開いてチケット料金やテレビ放映権で潤うというビジネスモデルでした。しかし、地方の小規模大学では立派なスタジアムやスター選手を勧誘する資金力がなく、そこで着目したのがeスポーツでした。eスポーツなら数台のコンピュータ、コンピュータを設置する部屋を整備するだけで、仮想空間でどんなに豪華なスタジアムの施設も設置可能です。さらにスター選手も当時のeスポーツ界では「奨学金を支給」という手段で多く集まりました。そして、フットボールやベースボール以上に大学の収益を計上し、eスポーツを取り入れたビジネスモデルを初めて作った大学だそうです。英語での表現だったのでニュアンスがわからなかったのですが、eスポーツクラブ(部活?)やそのレベルであると思います。eスポーツを目指す学生が集まるにつれて、eスポーツにかかわるテクノロジー系の教育カリキュラムやコンテンツビジネスにかかわる教育カリキュラムが充実してきたということです。その成功を目の当たりにして、超有名大学であるカリフォルニア大学アーバイン校が本格的にeスポーツを取り入れた大学のビジネスモデルを開発したそうです。その際には元プロゲーマをそのビジネスモデル開発のために雇い入れ、その人中心にeスポーツプログラム開発を本格的にしました。大資本を元手に完全に整備されたeスポーツプログラムは、他大学にコピー(たぶん販売という意味かも)され、そのビジネスモデルを北米大学で多く取り入れました。したがって、共通の基盤のビジネスモデルでの北米大学間で容易にeスポーツ大会の開催ができるようになりました。つまり、大学間の細かな規制や通信の制約等も統一されているという意味なのかと理解しました。

北米のほとんどの大学にeスポーツが浸透しましたが、そのために個性を出す必要も生じてきました。どの大学へ行っても同じようなeスポーツであるとそれほど魅力を出せないからです。ということで、ハワイ大学は米国本国とアジアの中間にあるという地理的なメリットを利用して、ネットワークの遅延を解決した全米とアジアの世界大会を実施しました。本来、ハワイ大学は北米に設置されたサーバに距離的に遠くオンラインでの遅延が発生しハワイという立地はデメリットでしかありませんでした。そこを深くテクノロジーを追及し、アジアと北米の中間点にサーバー機を設置して遅延を究極まで排除するという高度な技術力の開発につながりました。

まとめると、大学経営においてのeスポーツはコンテンツビジネスとして重要な要素であったと同時に、eスポーツはテクノロジーとしても大きく発展させる要素となりえたという例でした。したがって、最初に述べたように「ビデオゲームで楽しく遊んで、深いテクノロジーの世界へ、深いコンテンツビジネスの世界へ」とつながりました。

Session3

Session3は、アフリカのDr.Laila Macharia(Chairman of Africa Digital Media Institute (ADMI))さんが「アフリカデジタルコンテンツ教育の未来」についてお話いただきました。

内容としては特に新しいことはなく、アフリカでもデジタルコンテンツ教育が進んでいるというようなお話でした。所属している会社の宣伝広告のようなイメージもありました。

最後にコーディネータのまとめでしたが、印象に残った内容を紹介します。
今回のセミナーの発表は皆さん、口頭でのスピーチでした。それは世界のトレンドとなっているようです。つまり、日本の大学の先生や講演者がほとんどスライド(PowerPoint)を使って説明していますが、それはどうも世界の流れから取り残されているようです。もし、使うのでしたら、スライドではなく映像でした。さらに口頭だけの話でも魅力ある内容は人をひきつけ、どのようにスピーチしたら人を説得できるかをもっと日本のプレゼンターも研究すべきだとおっしゃっておりました。なるほど、外人の妙に説得力のあるスピ—チ、その背景に流れる印象的な映像はとても価値あるプレゼン方法だと再認識しました。

経営情報学部で実施していますeスポーツを取りれた実践教育は上記のような経営学的な意味でもテクノロジー的な意味でもとても意味ある教育であること、世界の時流に乗っていること等が認識できました。
また、大学経営のビジネスモデルにeスポーツを取り入れるという発想もとても勉強になりました。