IoT(Internet of Things)とDeepLearningと,さらにCloudと現在のはやりのIT用語である.「今はIoTとDeepLearningの時代だ! さあ,IoTを使おう!」と意気込む経営者がいるが,その経営者はきっと失敗する.

 まず,はやりものの「IoT」「DeepLearning」「Cloud」をどれだけ理解しているのか? はやりものに飛びつけば,成功するというのはあまりにも安易な発想である.経営者が行う経営も,われわれ教員が行う研究も同様で,「XXXXという問題があるので,〇〇〇というアプローチを用いて解決する」という大前提がある.XXXXが現在の問題点である.これを探すのがまず大変である.研究も経営も同様であるが,「なんとなく,おかしい.」とか「うまくいかないなぁ..」と感じることが多々ある.

 しかし,そのとき何が原因であるかを分析し,追及しなくてはならない.もし,その原因追及が緩くなると,いわゆる「ピントのはずれた経営,研究」となる.現在の問題点を的確にとらえること,さらにその原因を明確にすることが最重要事項であり,かつ,最大に難しいことだ.研究でいうならば,その現在の問題点を的確につかめて,かつ,その原因が明確にできたら,ほぼ研究は成功したも同様である.

 経営分野においても同様である.企業やプロジェクトにおいて「なんとなく,うまくいかない」「売り上げが伸びない」の問題に関して,どれだけ真摯に真剣に原因追及しているだろうか?おそらく「XXXさんが悪いから,私のせいではない」のような子供のような発想がまかり通る場合も少なからず見受けられる.これでは,一向に原因が追究できないどころか,その問題を的確に取れることさえもできない.

 なにを長々と書いているかというと,もとにもどって,「XXXXという問題があるので,〇〇〇というアプローチを用いて解決する」のXXXXの部分が最重要点である,〇〇〇は付属物であるということだ.さらに「IoT」「DeepLearning」「Cloud」は明らかに〇〇〇である.単なる手段でしかない.それは代替可能な,どちらでもいいという程度の重要さでしかない.

 それを「今はIoTとDeepLearningの時代だ! さあ,IoTを使おう!」と経営者が発想する時点で,経営戦略は失敗している.進歩のスピードが速いIT技術や夢のようなとてつもないコンピュータ能力はとても魅力的なものであろう.もちろん,それを使いこなせなくては経営もなにも始まらない.

 ただ,ITはあくまでも問題を解決する手段であり,付属物である.IT導入を目的とした時点で,経営戦略の負けが決まったようなものである.

 私はソフトウェア工学研究者であり,システム開発が専門である.数多くのシステムを開発して,導入して運用してきた.そこから見えてきたものは「目的と手段」の明確な区別であり,もちろん目的が最重要であり,手段は付属物である.それを取り違えて開発されたコンピュータシステムは,ほぼ100%の確率で失敗プロジェクトとなっている.使われないシステムを高額な費用で開発した組織や企業も数限りない.経営的には大失敗である.

 研究においても経営においても,目的と手段を取り違えないように.きっと,学生指導においても同様のことが言えると思う.学生が成長することが目的でその手段として様々な教育を実施している.決して,教育することが目的ではない.常々,肝に銘じて研究,教育,システム開発に取り組みたいと思う.