|PROFILE
渡辺 和之 教授

2016年から阪南大学専任教員として従事し、観光文化を専門とし、人と自然、生き物との関わりや食文化など、多様な視点から観光を研究している。授業では学生に身近な事例を取り入れながら、観光を多角的に捉える視点を伝えている。

ネパールの牧畜研究から、食文化、観光、そして学生指導へ。
「観光文化」を担当する渡辺先生は、“観光はなんでも観光になりうる”と語る。

学生の興味や価値観に寄り添いながら、広い世界へと導いていく。その授業には、文化を“知識”ではなく、“体感”として届けようとする工夫が詰まっていた。

「観光は、何でも入る玉手箱なのです」

記者:
先生はもともと、ネパールの牧畜研究をされていたそうですね。

渡辺先生:
そうですね。ネパールで羊飼いが山の高い場所と低い場所を移動しながら暮らしていて、その生活文化を研究していました。
でも、人と自然、生き物の関わりって、実は全部観光につながるんですよ。今は「食」を通して学生に伝えることが多いですね。

記者:
“食”も観光資源になると。

渡辺先生:
はい。食って、農家の生産もあるし、流通もあるし、お土産もある。それが地域文化になって、観光につながっていく。
だから僕は、“なんでも観光”だと思っているんです。
文化を理解していると、「これって観光になるんだ」という視点が持てる。何が観光資源になるかなんて、本当に分からないんですよ。逆に言うと、どうして文化として重要なのかを理解できれば、それが観光資源としての価値になるのです。

"「説教より、“やらざるを得ない状況”をつくる」"

学生と関わる上で、大切にしていること

渡辺先生:
学生とかかわる上では距離感を大切にしていますね。学生によって全然違うので。
こちらから声をかけることもありますけど、無理に踏み込みすぎない。逆に、“やらざるを得ない状況”をつくることで、初めて心を開いてくれる学生もいるんです。

記者:
どういう瞬間に、学生の変化を感じますか?

渡辺先生:
卒論やレポート提出の直前とかですね(笑)。
「先生、試験前にどうにかしてください……!」って本気モードで来る瞬間。
あれ、結構好きなんですよ。
本気になった学生には、こちらも手助けしたくなるものです。本人が「勉強しよう」という気持ちになっているので、学習効果もものすごく高い。この機会を最大限にいかさないと、と思います。
いくら説教しても、そもそも聞く耳を持っていないこともありますからね。やはり本人が自分の置かれた状況を自覚し、「やらないと」とその気にならないことには、なかなか学習効果も上がらないものです。
でも、ついてきてくれた学生は、最後までなんとかなるんです。
2年間かけて、ようやく心を開いてくれた学生もいました。あれは嬉しかったですね。


阪南生の“のびしろ”

記者:
先生は他大学でも教えてこられましたが、阪南大学生らしさを感じることはありますか?

渡辺先生:
“のびしろ”ですね。
最初は知識がない状態なんです。でも、彼らが分かるように説明してあげると、みるみる吸収していく。
そこから「知ることって面白い」と気づいた学生は、本当に伸びるんですよ。

記者:
成長を感じる瞬間も多そうですね。

渡辺先生:
ありますね。
何年後かに再び授業を担当した時、質問の質が変わっていたり、コメントが本質を突いていたり。
「あの学生がここまで考えられるようになったんだ」と驚くことがあります。
1年生の時は生意気だった学生が、自分の観光観を持つようになったりとか(笑)。
最初は「観光で町おこししたい!」と言っていた学生が、最後には「その土地の文化が大事なんですよね」と戻ってきてくれると、すごく嬉しいです。文化って、基礎研究なのです。基礎があるから町おこしのような応用ができる。でも、基礎研究は地味だから学生にはわかりにくいのです。

“ヒマネタ”で、世界を広げる

記者:
授業で工夫していることはありますか?

渡辺先生:
文化の授業って、どうしても難しくなりやすいんです。
だから、学生が知っている文脈に変換するようにしています。
国際学への招待という授業で、私は山の話をしています。一般には、「山はしんどい」というイメージがあるじゃないですか。なので、逆に山は過ごしやすいという話をしています。南米のインカ帝国はマチュピチュという所に街を作りました。マチュピチュは標高が2400mもあるので、熱帯なのに涼しいのです。しかも熱帯では、平均気温が変わらないで山の上では一年中涼しいのです。
授業の最後には、“ヒマネタ”っていう時間も作っていて。

記者:
ヒマネタ?

渡辺先生:
授業内容を別角度から話す時間です。
例えば芸術なら、当時の音楽を流して、「この時代の人はどんな感覚だったんだろう」って想像してもらう。
教えるテーマに関係する曲をかけます。
知識だけじゃなくて、“空気”を感じてほしいんです。
芸術は、五感で感じることができるのです。
ガンダーラの話をした時には、昔の流行歌を流しました。今の若者に理解できるのかとも思ったのですが、意外といいという女子学生がいました。そういえば、当時の若い女性が騒いでいたわけですから、地域や時代を越えて理解できるものがあるのだなと思いました。

「問い方」はAIでは学べない

記者:
ゼミ指導では、先生の専門外のテーマも多いそうですね。

渡辺先生:
そうなんですよ(笑)。
ゼミではナスとかお茶の研究をしていたのに、学生はいざ卒論執筆の時になるとコスメブランドとか、たこ焼きとか持ってくるので。
結局、僕も調べることになる。学生に勉強させられています。
本業の研究、もっとしたいんですけどね(笑)。

でも、学生が「これをやりたい」と決めたなら、サポートもしますができるだけ最後までやらせます。自分で考えて、調べるのが研究ですから。

記者:
学生には、どんなことを伝えたいですか?

渡辺先生:
何かに興味を持ちなさい、とはずっと言っています。

そして、それを選択して、決めたなら突き詰めなさい、と。
別に観光じゃなくてもいいんです。
今の学生って、「これを学びたい!」と明確な目的を持って入学してくるわけではないので。

だからこそ、教員がいろんな視点を提供する。
狭い常識から一歩外へ連れ出す。
広い世界を見せる。

それが教員の役目であり、観光の持つ力だと思っています。
人々を旅に連れ出すのが観光ですし、フィールドワークで学ぶのが国際観光学科です。
彼らが選んだテーマは観光のどこかに収まります。観光の懐は広いですから。

AIは答えを出してくれるかもしれない。でも、“問い方”は教えてくれない。
「これすごい」「あれはすごい」「なるほど、そういうことなのか」という発見を現地で体感しながら学んでゆくのです。
考え方そのものを学んでほしいですね。

挑戦の現在地

記者:
先生にとって、今の「挑戦の現在地」とは?

渡辺先生:
シンプルですけど、“日々生きていくこと”ですね。
学生のこと、大学のこと、授業のこと。
年齢を重ねるほど、自分のためというより、人のために動くことが増えていく。
自分のことでいっぱいになるんじゃなくて、誰かのために尽くす、と格好よく言えればいいんですけどね(笑)。
でも実際は、自分のこともちゃんとできていないのに、他人のためにする仕事がどんどん増えている。それが問題なんです。
自分のことができない人間に、他人の世話はできませんから。だから毎日がサバイバルです(笑)。

まずは目の前にある仕事を一つずつ片付けて、その合間を見つけて自分の研究をする。そうやって少しずつ、自分が登りたい山を登っている感じですね。

研究も山登りと一緒だと思うんです。
すぐに頂上が見えるわけではないけれど、前にさえ進んでいれば、そのうち視界が広がってくる。
今は、それが自分にとっての挑戦なのかなと思っています。


Editor's Note

取材を通して印象的だったのは、渡辺先生の穏やかなお人柄でした。
こちらの話を急かすことなく、相づちを打ちながら最後まで耳を傾けてくださる。その姿勢は取材中だけでなく、日頃の学生との関わり方にも表れているのだと感じました。
インタビューの中では、「2年かけて心を開いてくれた学生がいた」というお話がありました。学生一人ひとりに合った距離感を探りながら向き合う姿勢は、一朝一夕でできるものではないと思います。なぜ学生たちが渡辺先生を頼り、困ったときに相談へ来るのか。取材を終える頃には、その理由が少し分かったような気がしました。
学生の可能性を信じ、その成長を見守り続ける。その温かさこそが、渡辺先生の大きな魅力なのかもしれません。