阪南大学国際学部国際観光学科和泉研究室は「地域の魅力を活かしたまちづくり(地域資源や人的ネットワークなどを活用しながら、まちづくりや観光振興のための新たなデザインを思考・提案し、地域の方々と共創的に実践する)」を研究テーマとしています。
 現在、研究室には2回生11名、3回生11名、4回生12名が所属し、2025年度においては、【表1】のような研究活動を展開しています。
ここでは、これらの概要について中間報告(2025.04~09)をさせていただきます。
  • 表1 和泉研究室における2025年度の受託研究一覧

【2回生】

□八尾市

 八尾市における観光者増や地域の活性化など、市の観光振興の展開に寄与することを目的とした活動で、観光魅力を「身近観光(みぢかんこう)」というフレーズにのせて広く発信するという前年度の八尾市地域連携負担金事業「八尾市における賑わい創出事業 —地域魅力の見える化の促進—」に継続する研究活動です。
 観光というコンテクストにおいて、八尾市における地域資源が中心となるテーマを設定し、そのテーマをもとに近鉄沿線の他自治体に所在する地域資源をつなげ、広域的に観光魅力をまとめて見せることで観光者増や地域の活性化への貢献を考えます。
 行政枠を越える広域性を意識した本研究活動が、各自治体単独で行われる観光に関する取り組みの付加策の1つとして機能することを意識しています。
*キックオフ・ミーティング(2025.07.16)
 研究活動のスタートに伴い、キックオフ・ミーティングを開催し、八尾市役所観光・文化財課、行政経営改革課、近畿日本鉄道、また、シェアサイクル事業を展開するオープンストリートさんに来学いただき、多くをご教示いただきました。
*フィールドワーク(2025.09.08)
 第1回目のフィールドワークは、八尾市を知ることを目的に実施しました。交通拠点となる近鉄八尾駅やJR八尾駅、久宝寺寺内町、アリオ八尾、安中新田会所跡旧植田家住宅、常光寺、ファミリーロード(商店街)などを実見しました。なお、二次交通の問題も考えるという観点から、レンタサイクルを利用して実施しました。

□大和郡山市

 大和郡山市には、天正8年(1580)に筒井順慶が築城に着手し、天正13年(1585)より豊臣秀吉の弟である秀長が居城とした郡山城とその城下町が所在するため、2026年の大河ドラマ「豊臣兄弟!」の放送に向けて、まちは活気づいています。そのような中、大和郡山市役所、秀長さんプロジェクト推進協議会から「城下町エリアにおける観光魅力の発掘とその発信・活用」についての研究活動をご依頼いただいたため、研究室では取り組みをスタートさせることにしました。
 現地調査に基づく城下町における事業者(飲食事業者を中心)の特性や市内産品の把握などを踏まえ、城下町の飲食店舗で提供するための新たなメニュー(スイーツ)の開発に取り組むとともに、観光というコンテクストにおける事業課題などを抽出し、大和郡山市への観光者誘致や史跡郡山城跡・大河関連施設などから城下町へと観光者を誘導するしくみについての提案や実践を進めていきます。

*デパ地下スイーツ調査(2025.08.28)
 郡山城下町の新しいスイーツ開発の参考にするために、あべのハルカス近鉄百貨店地下のスイーツ売り場で気になるスイーツを購入し、見た目や味などを検討しました。
*フィールドワーク(2025.09.09)
 第1回目のフィールドワークは、大和郡山市を知ること、とりわけ、史跡郡山城跡と広がる城下町、これから共創した取り組みを進めていくことになる飲食事業者のみなさんが店舗を構える柳町商店街を知ることを目的に実施しました。大和郡山市役所企画政策課、まちづくり戦略課のみなさんにご同行いただき、多くをご教示いただきました。

【3回生】

□富田林寺内町

 2021年度から、大阪府下で唯一の重要伝統的建造物群保存地区である富田林寺内町において、これまでまもり続けられてきた歴史的・学術的価値や魅力を多くの方々に知ってもらうために、未来へ伝え続けるために、公開施設である国登録有形文化財旧田中家住宅内に、サテライト・ラボ「じないまち地域・観光創造室」を設置し、市文化財課の協力を得ながら、商工観光課とともに、日常生活空間内における保存と活用双方のまなざしによる観光地域づくりを進め、「生活空間型観光」の取り組みとして発信しています。
 今年度においても、地域のこどもたちに寺内町という歴史的空間の中で楽しく遊んでもらう、身近に感じてもらうということを前提とするイベントを通じて、地域のこどもたちに寺内町に接する機会を提供し、ひいてはスタッフとして一緒に活動してくれる、寺内町を大切に想い、まもり伝えてくれる人材の育成に関する取り組みを進めていきます。

*イベント企画の提案(2025.06.30)
 8月実施に向けて、これまで検討してきたイベントのコンテンツ案を富田林市役所商工観光課に提案させていただきました。ここで多くのご教示をいただき、当日に向けてコンテンツのブラッシュアップを進めました。
 なお、イベントは、先輩達が企画・実施した、①「じないまちの素敵な夜に。つくる! あそぶ!」(2022.08.27)、②「はぴなん救出大作戦!inじないまち」(2023.01.09)、③「じないまちの素敵な夜に。つくる!遊ぶ!パシャる!」(2023.08.26)に続くもので、4回目の実施となります。
*イベント(2025.08.23)
 8月23日、第22回「じないまち四季物語「夏」富田林寺内町燈路」において、登録有形文化財である旧田中家住宅を会場に、「はぴなんのはぴはぴ祭り 暑い夏をお祭りで乗り越えよう」を実施しました。当日は、多くの地域のこどもたちが訪れ、楽しんでくれました。これから、地域のこどもたちなどに、少しずつスタッフとしての参加を募っていきたいと考えています。
 

□河南町

 2021年度から河南町において、日本遺産「「葛城修験」-里人とともに守り伝える修験道はじまりの地」をはじめ、町内に点在する文化遺産を活用した取り組み河南町役場のみなさんと共創的に進めています。
 今年度においては、文化遺産のみでなく、食魅力なども観光魅力として捉え、発信する取り組みを進めます。

*キックオフ・ミーティング(2025.05.12)
 今年度に関しては、河南町の観光魅力の発信について取り組みを進めていく予定にしています。研究活動のスタートに伴い、キックオフ・ミーティングを開催し、河南町役場、河南町教育委員会の方々に来学いただき、多くをご教示いただきました。

【4回生】

□太子町

 太子町(大阪府南河内郡)は、万葉集にも読まれ、石器材であるサヌカイト産出地としても周知される二上山、中国の敦煌莫高窟などを連想させる石窟寺院である国史跡鹿谷寺跡や国史跡岩屋、聖徳太子墓とその守護のために建立された叡福寺、「日出処天子」の国書を携え遣隋使として海を渡った小野妹子の墓、推古天皇・敏達天皇・用明天皇・孝徳天皇など教科書にも登場する誰もが知る著名な天皇の御陵、双方墳という極めて珍しい形状を呈する国史跡二子塚古墳、日本最古の国道である日本遺産「竹内街道」など、その文化遺産の豊さは全国屈指のレベルです。
 研究室では、これらを活かした文化観光を推進する取り組みを、太子町役場産業観光課のみなさんと2023年度から共創的に進めています。

2023年度 「太⼦町を知る。観光課題の発⾒」
 第15回⽵内街道灯路祭りにおいて、登録有形文化財である⼤道旧⼭本家住宅を活⽤したイベントを企画・実施し、地域について理解を深めながら、地域のみなさんとコミュニケーションを深めました。
 また、⽐較研究のために奈良県明⽇⾹村において現地調査を実施し、「⽂化遺産とともに食魅力(イチゴなど)に重きを置いた展開をしていること」を確認することができました。このことを踏まえて、太⼦町でも⽂化遺産とフルーツなどの⾷魅⼒を同時に発信していく観光振興の展開を実践的につくっていく方向性を確認しました。

2024年度 「⽂化遺産と⾷魅⼒の事業展開の準備」
 前年度に⾒出した⽅向性を検証するために、古刹、⻄⽅院のカフェを活⽤し、上ノ太⼦みかん園産のみかんを⽤いた「みかんパフェ」を提供する「もみじ珈琲」というイベントをパイロット的に実施しました。その結果、更なる創意⼯夫や多くの事業者の参画などによるプラットフォームの構築は必要ではありますが、太⼦町において「⽂化遺産×⾷魅⼒」という⽅向性を進めていく意義はあるのではないかと結論しました。

 今年度は、2025年1月に、地域の魅力向上や関係・交流人口の増加などを目的に太子町と包括連携協定を締結した「ボイトレVTuberみかん先生」との連携を考えています。
 具体的には、11月22日に開催されるイベントにおいて、「みかん先生」とコラボしながら町の文化遺産や食魅力の発信に取り組みたいと考えています。
 

□養父市

 この学年は、2023年度から、ハチ高原で取り組みを進めています。ハチ高原は、鉢伏山中腹に広がる標高800m前後の高原でスキー場として広く知られています。また、林間学校や合宿先としても広く知られており、多くの教育機関がこの地の豊かな自然環境の中で学んでいます。しかしながら、新学習指導要領の改正によるスキー実習の見直し、暖冬傾向による雪不足などから勘案すれば、これまで通りの展開を継続するだけでは、10年・20年先、現状を維持することは少し困難ではないかと想像されます。このような状況下、ハチ高原のみなさんの得意な「高原教育」をベースにしながら、無理のない、可能な範囲で、新たな取り組みを思考・実践することを考えてみても良いのではないかと考えるところです。
 このような思考のもとに、養父市商工会・ハチ高原観光協会のみなさんとスキー場(雪山)以外の高原の魅力を抽出・創造・発信する取り組みや新たな観光に関する取り組みなどを共創的に進めていますが、昨年度より、外国人観光者の誘客をテーマに取り組みを進め、今年度に関しては、ハチ高原に限定せずに市域全体における誘客にテーマを広げて、養父市商工会・養父市役所・養父市観光協会のみなさんと取り組みを進めています。
 2015年度からスタートしています。10年目となる今年度は一区切りの年となります。地域のみなさんこれからにつながるよう、一層、気を引き締めて取り組みたいと考えています。

*フィールドワーク(2025.07.18-19)
 第1回目のフィールドワークは、観光協会において観光に関する市域全体の概要をご教示いただくことからははじめて、大徳醤油、かいこの里、あゆ公園、明延鉱山などを実見し、多くをご教示いただきました。

□広域(富田林市・太子町・河南町・千早赤阪村)

 2023年9月、富田林市に本社を置く金剛自動車(金剛バス)が2023年12月20日の運行をもって路線バス事業を廃止されました。このことを受けて、2023年10月に「富田林市、太子町、河南町及び千早赤阪村地域公共交通活性化協議会」が設置され、現在、一部の路線や区間を除き引き継いだ形で、新たな公共交通「金剛ふるさとバス」が、協議会により運行されています。
 また、「金剛ふるさとバス」の利用促進に関する事項を専門的に検討することを目的として、協議会の下部組織として「金剛ふるさとバス利用促進検討分科会」が組織されましたが、この分科会に学識経験者として和泉が参画しています。
 このことから、研究室が「金剛ふるさとバス」の周知や観光者の利用促進などを考えるという観点から活動を展開することとなり、現在、4回生が研究活動の一環として学ばせていただきながら、取り組みを進めています。
 具体的には、今年度は、「金剛ふるさとバス」のその存在周知の一助になることを目的に「ミステリーツアーイベント」を提案し、イベント当日に向けて準備をしています。このバスを用いたイベントは、当日のくじ引きで、行き先・路線を決定するというもので、内容は当日まで謎だらけです。したがって、ここで詳細を記すことはできません。ごめんなさい。
 地域公共交通の問題という富田林市、太子町、河南町、千早赤阪村という4市町村にまたがる広域性のある地域課題へのアプローチに、阪南大学の教員、研究室にお声がけいただき、その研究活動に期待されるということに感謝しながら、取り組みを進めていきたいと考えています。

*キックオフ・ミーティング(2025.6.30)
 ミステリーツアーイベントのコンテンツ作りは、4回生を富田林市、太子町、河南町、千早赤阪村の4つのグループに分けて進めています。当日は、富田林市、太子町、河南町、千早赤阪村の交通担当部署や観光担当部署のみなさんにご参加いただき、多くをご教示いただきました。
 

□泉南市

 2025年度、泉南市では、泉南市観光協会・泉南市商工会・阪南大学・大阪第一交通株式会社と共に、泉南ぐるり観光商工プラットフォームを組織して、関西国際空港や鉄道駅から、タクシーと自転車を組み合わせるなど、泉南市における観光者の移動手段を検討するための実証実験である「観光交通サービス「SENNAN SMART MOBILITY」」を進めています。
 この実証実験に研究室は参画しており、参加を希望した2回生1名、3回生2名の学生が多くを学ばせていただいています。

*1回目のフィールドワーク(2025.08.24)
 第1回目のフィールドワークは、泉南市の観光魅力を実見しました。
なお、フィールドワークには、泉南市プロモーション戦略課・名鉄観光のみなさんにご同行いただき、多くをご教示いただきました。
*2回目のフィールドワーク(2025.09.21)
 第2回目のフィールドワークでは、実際にサイクルステーションで電動自転車をレンタルし、マップなどを参考にして、半日、泉南市を観光してみました。今後、調査を進めながら、観光課題の抽出やモデルルートの作成などにつなげていきたいと考えています。