経済学部松村ゼミでは、本年度初めてフィールドスタディー合宿を実施しました。日頃は六法や法律書を繙きながら教室内で授業を実施していますが、実社会ではどのように法が運用されているのかを知ることは、その後の法律学の学修にとって有効であるといえます。経済学部でも視察ツアーとして裁判傍聴等を実施していますが(詳細は、https://www.hannan-u.ac.jp/faculties/economics/mrrf43000000v44u.htmlをご覧ください)、裁判所によっても地域に応じた差異が若干は存在するといわれることもあります。そうした指摘が事実であるのかという点を自分自身の目と耳で確かめてほしいと思い、今回の合宿を企画しました。
 ただ、法はその社会を反映するものであることから、普段はなじみのない近畿圏以外に赴きいろいろな経験をすることも大切です。そのため自由時間が多めのスケジュールとなりましたが、幸いに参加者が主体的に活動しそこで得られた情報を基に活発な意見交換をするゼミ生の姿を見ることのできた合宿となりました。

栗林源太(松村ゼミ3回生)

 松村ゼミの夏季合宿(フィールドスタディー)に、9月15日〜17日の3日間にわたって参加しました。

 先生から示されていた大まかな計画としては、福岡地方裁判所での裁判傍聴を基本として各自の関心に沿って福岡市内を見学するものでした。法律学を学ぶ以外にも、大阪以外の地域に触れる経験が今後のためになるとの説明でした。そのため私は初日の早朝に福岡入りして、まず福岡ヤフオク!ドームへと向かいました。最寄駅が福岡市営地下鉄の唐人町駅であったため地下鉄に乗車しましたが、その際、大阪市営地下鉄と大きな違いを感じました。「安全扉」が導入されていたことです。ホームからの転落事故が多い昨今、鉄道各社も新幹線のような安全扉を設置して事故防止に努めていることは知識としてありましたが、福岡市営地下鉄の場合には大阪市営地下鉄とは異なって、X線上に広がる2路線のみの為、コスト上の問題もさほど大きなハードルとなっていないため、実現できているのかもしれないと感じました。次に、携帯電話が比較的安定してつながることにも驚きました。大阪市営地下鉄でも一部の区間ではつながりますが、御堂筋線等の大型路線では未だにつながらない区間も少なくありません。しかし、福岡市営地下鉄は安定して接続しており、移動中に観光情報や交通状況を調べることができました。以上の二点は、大阪市営地下鉄でも是非実現してほしいと感じた部分でした。
 唐人町駅からヤフオクドームまでは徒歩で約10分ほどでしたが、道中には僅かながらだが玄界灘が見えたりしたため歩きがいを感じる道でした。ドームの前にはホークスタウンといわれるショッピングモールも存在し、野球観戦前に買い物や食事を楽しむことができる施設が存在し、それ以外にも映画館やライブハウスと様々な施設が入った「複合施設」として機能していました。福岡合宿初日と私の好きな「アイドルマスター」のライブが被っていたためライブを楽しむことはできず、物販のみ参加しました。当日は雨に見舞われたが、500名程のファンが早朝から列を作っていました。
 物販終了後、ヤフオクドームに移動し私の趣味である野球観戦を楽しみました。大阪には京セラドーム大阪が存在していますが、球場ごとにフォルムや内装、施設設備等が大きく異なっており、ヤフオクドームは初めてではないものの、行くたびにその広さや施設の充実さには驚かされます。球場内に居酒屋やバーがあり、子供が遊べるスペースが用意された座席もあるという、アメリカの球場で多く取り入れられている「ボールパーク」の発想に近いものを感じました。
 翌日は昼前に天神へ移動して散策しました。いわゆる繁華街ということになりますが、ここでも大阪との違いに気づかされることになります。天神には、関西にも出店している全国ブランドの店舗が多く入っている複合施設「天神ビブレ」があり、それ以外には複合施設が多く存在しており、競争が激しいように感じました。ただ、大阪と比べるとそれらの施設の規模はさほど大きくなく中規模程度の施設であろうと思います。人口密度や売上等を勘案して施設の規模を設定しているとすると、相当綿密な調査を一定の頻度で行うことが求められるのではないか、と感じました。

 最終日には、福岡地方裁判所での裁判傍聴を行いましたが、その途中にはゼミ生全員で唐人町駅へ移動し、「福岡市立こども病院・感染症センター」「福岡市立特別支援学校」周辺を散策しました。これらの施設がなぜ市の中心部ではなく、少し離れた場所に建設されているのかという先生からの問いかけに対して、ゼミ生がさまざまな意見を出していました。その後、福岡地方裁判所に移動し薬物事件の裁判を傍聴しました。初めての機会ということもあり、目の前にいる被告人の姿を見ても最初のうち実感はあまり湧きませんでした。しかし、公判の中で検察官による立証や被告・弁護側の弁論等を聞いているうちに実感が沸きはじめました。刑事裁判というと異質な世界の出来事と感じていましたが、まさに日常の中にそうした事件のきっかけが存在していることを目の当たりにすると、様々な感情が駆け巡りました。
 雑駁ながら三日間のフィールドスタディーの様子を記しましたが、予定が詰め込まれていなかったために、新しいものに触れながらも自分なりに考える時間が多くあり、非常に有意義な時間を過ごせたのではないか、と感じました。今後もこのような活動が開催されるのなら、参加しようと思いました。

城間美和子(松村ゼミ3回生)

 今回のフィールドスタディーの主な目的の一つに福岡地裁での裁判の傍聴があったため、刑事公判2件(覚せい剤取締法違反事件、脅迫・暴行に関する事件(刑法222条、208条))を傍聴しました。同一の法廷での公判であったためか担当裁判官が同じ方であり、偶然かもしれませんが公判担当の検察官も前の事件と同じ方でした。

 最初に傍聴した覚せい剤取締法違反事件(使用)の公判は、子どもが3人いる50歳前後の女性がたびたび覚せい剤を使用したという事案でした。被告人の供述によれば、数年間一切覚せい剤を使用していなかった時期があったとのことでしたが、この事件はそうした中でたまたま古い友人に会い覚せい剤を譲り受けてしまったその日に使用し、翌日に現行犯逮捕されたという内容でした。被告人の供述内容には説明として無理のあるものが少なくなかったように思いましたが、何より印象に残っているのは覚せい剤を使用したその女性の言葉の組み立て方や話し方などのちぐはぐな言動でした。以前、大阪地裁でも類似の事件を傍聴したことがあり、大阪の被告人と重ね合わせて今回の公判を傍聴していましたが、今回の女性被告人の方がより言語能力に支障をきたしていたように感じました。高校までの間に何度も覚せい剤や大麻を使用した場合の最悪な例について教えられてきましたが、その典型的なものをまさに目の当りにしたように思いました。言いたいことや伝えたいことが発言にならず、ただただ同じ言葉しか出てこないことなどはおそらく薬の影響だと思われます。裁判傍聴ではそういう生々しい部分を感じながら、日頃の机上の学習を深めていく効果があるように思いました。
 次に、裁判傍聴以外でフィールドスタディーに参加して私が感じたことを若干述べたいと思います。
 いくつかあったのですが、大阪と比較したときに公共交通機関の位置づけの違いのようなものを強く感じました。大阪では地下鉄やJR、近鉄などの鉄道車両の交通機関が整っており、路線バスを活用するというよりはどこへ行くにも電車移動を中心に考えることが多いように思います。しかし福岡の場合には100円循環バスなどサービスや路線が充実していることもあって、バスを移動手段としている市民が多いように感じました。たとえば今回のゼミ合宿の際に私が頻繁に利用した西鉄バスを例としてみますと、一日の西鉄バス全路線の走行距離の総キロ数は43万キロとなり、これは地球約11周分に相当するのだそうです。もちろん大阪市内でもバス路線は決して少なくはないですが、福岡の場合には圧倒的に運行しているバスの量が違います。けれども、地下鉄や私鉄といった鉄道に目を向けますと、バスほどの充実はあまり見られないように思います。大阪のように大きな商業施設に隣接する形で鉄道の路線が走っているのではなく、例えば博多キャナルシティなどの福岡を代表する商業施設にも鉄道の駅はありませんでした。最寄りの博多駅からバスでの移動というのが一般的なようです。つまり、大阪で見られる大きな駅の周りに商業施設や住宅街を作っていくという傾向は、福岡の場合には当てはまらないように感じました。どちらが良いということは一概には言えないとは思いますが、少なくともバスという公共交通機関が福岡ではしっかりと根ざしていることを強く感じました。

※この教育研究活動は阪南大学学会の補助を受けています。