法学研究会は昨年11月に設立された大学公認サークルです。法律学に関する学修をすることを目的としたサークルですが、法律系の資格の取得を目指したり、自分自身の視野を広げるためであったりと、メンバーが本サークルに入会する動機はさまざまです。
 あくまでも学生主体で自主的に設立されたためにまだ新しいサークルではありますが、メンバーの多くは昨年11月に実施された法学検定試験(スタンダードコース・ベーシックコース)に取り組み、多くが合格しています。
 今回は法学研究会の活動をさらに活発にさせて内容を充実させるために、有志による合宿を企画しました。学生主体であったため手さぐりではありましたが、メンバーはそれぞれのなかで自分なりの観点からの取り組みをしようと試みたと思っています。
 合宿では裁判傍聴が目的の一つとなっていますが、裁判所内の撮影は禁じられておりますので、写真撮影には大変苦労しましたが、できる範囲で合宿の模様をお伝えします。

木村剛志(経済学部 3回生)

 私は他のメンバーと比べると裁判傍聴に行く機会が少なかったことから、今回の合宿では裁判傍聴に集中することを目指しました。
 東京地方裁判所(以下、東京地裁)は地下鉄(東京メトロ)半蔵門線の桜田門駅が最寄り駅でしたので、そこを降り東京地裁に向かっていきました。途中に赤レンガの建物があり、スマートフォンで調べてみますと旧法務省所在地とのことでした。歴史を感じさせる建物でした。
 そのまま進んでいくと、ものものしい警備員が入口付近で入館者のチェックをしている建物があり、看板を見ると東京地裁と東京高等裁判所(以下、東京高裁)の合同庁舎であることがわかりました。入場チェックも厳格でその時点ですでに緊張してきました。入場後にわかったのですが、その日はオウム真理教関連の刑事事件の裁判が行われていました。そのために手荷物検査などの厳しい入場チェックが実施されていたようです。
 受付ホールには当日に開廷されている東京高裁、東京地裁の民事・刑事の両方の法廷に関する情報を綴った冊子がありましたので、まず東京地裁の刑事裁判の情報を調べて2件ほど傍聴しました。
 刑事裁判を傍聴して感じたのは、まずは法廷の重苦しい雰囲気でした。ただ、意外であったのはテレビドラマや映画で観る裁判とは全然違い、審理等はスピーディーに進んでいっていました。その理由について、被告人が罪状に関して認めており審理にも素直に応じていたことに加えて、担当裁判官の訴訟指揮が的確であったためとしっかりしてた事などではないか、と自分なりに考えています。加えて弁護人が被告人とが事前にきっちり打ち合わせを行っていることもスピーディーな審理の要因ではないかと思っています。
 たった一回の傍聴で判断することは早計であるともいえるので、今後も法律学の学修を深める中で考えていきたいですが、その日の夜にメンバーと勉強会をした際には自分なりに得た結論について反対はなかったことがわずかながら自信となりました。加えて他のメンバーからは起訴かどうかを決定する時点で検察官が慎重に判断しているという刑事手続きの運用実態もスピーディーな手続きの進行と無関係ではないのではないか、という意見が出されました。
 普段の大学生活ではなかなかそうした話をする機会はないように思います。法学研究会というサークルが設立されたことで、法律学に関して肩肘をはらずに勉強する場ができたのではないか、という印象を今回の合宿で持ちました。

公文大(経済学部3回生、本サークル代表)

 私達は合宿の目的の一つである裁判傍聴の為に、東京地裁を訪れました。そこでは他の地方裁判所と同じく民事、刑事の両方の事件に関する裁判を傍聴することができるのですが、今回は商事関係の事件を取り扱う東京地裁民事第8部の法廷が公開されていました。受付で確認できた範囲では、株式会社の株式の買取をめぐって争っている案件のようでした。実際に傍聴してみますと一般に裁判傍聴の対象として選ばれる刑事事件とは大きく異なっており非常に印象深い経験となりました。この体験記で私はこの東京地裁民事8部における民事事件に関する審理(口頭弁論)の傍聴を書きたいと思います。
 まず今回傍聴した民事第8部に係属していた民事事件の法廷は、ラウンドテーブル方式のものでした。ラウンドテーブルには裁判官と書記官が着席しており、傍聴席から見ますと正面に裁判官が見えました。その向かって右には被告の代理人(弁護士3名)、左には原告の代理人(弁護士3名)が着席していました。
 原告、被告の代理人に対して裁判官が提出された証拠に基づいて問いかけていっていたのですが、そのやりとりから事件の内容を読み取ることそのものが大変でした。裁判官が話を整理し、争点を明確化していくことで徐々に事件の全体像が見えてくるようになってきました。今回の事件では株式譲渡に関する契約とそれと同時に行われた別の契約との関係をどのように理解するのかという点で争いとなり、訴訟にまで発展したことをうかがい知ることができました。
 この審理を傍聴しながら、ふと実は複雑に見えているこの訴訟も、結局は何が問題となっているのかといった視点で本質的な部分を探り当てることで争点となっているのがいたってシンプルな契約の解釈という問題であることが見えてきた感じがしました。商事事件ということで難しい会社法に関する問題であると身構えてしまい、思考が自縄自縛のような状態となっていました。しかし、裁判官の役割を見ていきますと、まさに口頭弁論での当事者の主張をシンプルにしながら本質に迫っていくといったものであり、日ごろ大学の民法や会社法の講義の際に先生がおっしゃっていることそのものであることに気づきました。
 この日の口頭弁論自体は提出されている証拠との関係から比較的短いものでしたが、私が今回の民事事件の傍聴から実感したものは小さくなかったように思います。自分としてはこの先も法律学の学修を進めていきたいと思っておりますが、その中では法的な問題を正確に分析しながら出来るだけシンプルに組み立てていく力をつけることが大事であると感じました。その意味では学ぶことの多い合宿となりました。

城間美和子(経済学部3回生)

 今回の法学研究会合宿では、東京地裁での裁判傍聴を行いながら、オリンピック招致を控えた東京の招致地域である臨海部をメインに首都の主要な地域を見て回りました。法は社会を反映する、ということを講義で習った記憶がありますが、そのためにもこれからの東京ではオリンピックを控えて、どのような法的な問題が生ずるのかという点について自分なりに考察を深めたいという気持ちから、東京の街を歩いた印象を書きたいと思います。
 今回の合宿で実感したのは世界的都市である東京といえども、といいますか逆にそうした都市であるからこそ抱え込こまざるをえない交通網の脆弱さと公共交通機関に関していろいろなことを感じました。
 実は合宿の前日から私用で東京にいたため、私は途中から合宿に加わるという方法をとりました。その際、宿泊先の東品川のホテルまで首都高を使って向かいました。東品川という立地はまさに臨海部で今回の合宿の目的である東京オリンピックが開催される際に中心となる臨海部の交通網の現状を観察するという点でも最もふさわしい場所だったように思います。
 しかしこの東品川という集合場所へ向かう際に集合時間がちょうど朝の通勤時間のラッシュと重なったこともあり、首都高の渋滞に見舞われました。東品川のホテルへの予想到着時刻は前日の夜に、自動車ルート検索によって渋滞予測も加味したうえで調査していました。そこでの予定時刻通りに前日の宿泊先(多摩)を出たはずでしたが、都心部へ近づくにつれ首都高の渋滞が深刻化していきました。首都高という名称とは裏腹に一時は全く車が進まないまでに混み合いました。結果的に予想到着時刻を大幅に遅れる結果となりました。高速道路よりも一般道のほうがスムーズに進むのではないかと思えるほどの状況といえました。
 オリンピックを招致するにあたって臨海部に向かう交通網も整備するということが示されていたように思います。そのために東京がバスの運行を24時間体制にしたり、臨海部への交通網を開発するといったことが言われております。これは埋立地である臨海部という比較的広い土地を確保しやすい場所をオリンピック会場にしようとしながらも、そこに至る交通の便の悪さをどのように解消していくのか、という問題に対する解決策の一つではあると思います。ただ、例えば新しい道路を開発するにもそれなりに土地が必要となりますが、東京の人口の過密さや土地の価格を考えたときに必要な土地を確保していくことは不可能ではないかと思えます。これは鉄道を敷設しようとしたときにはさらに大きな問題となります。仮に、用地確保のための財源を確保したとしても、所有権絶対の原則があることから、個々人の財産権を強制的に収用するということが困難であるというのは成田空港の事例を見ても明らかです。
 国家が諸施策を実施するには財源の裏付けが大変重要ですが、それと同様に法制面での整備がしっかりしていないと政策等を実現することはできません。今回の合宿での経験から自分なりに思考を進めた結果、そうした結論に達しました。

田中克樹(経済学部 3回生)

 私は東京都を歩いていくなかでまず感じた事は、地面に落ちている煙草の吸い殻の少なさでした。昨今、路上での喫煙を制限するための条例が多くの地方公共団体で制定されているという情報には接していました。その中で、東京都の一部の地域でもいわゆる禁煙条例があるとのことでしたが、果たして条例を制定しただけで歩きながらの喫煙数が減ったのか、という点に興味を持ちました。
 そうした中で私が着目したのは喫煙所の設置数でした。東京都にはほぼ各駅毎といってもよいほどに喫煙スペースがありました。私自身、喫煙者であるため長時間喫煙を我慢することは厳しいです。しかし今回の合宿期間(4日間)で様々な場所を訪れたりしましたが、一度も喫煙場所には困りませんでした。それに対して大阪府下では喫煙エリアを見つける事は困難といえます。煙草は路上では吸わないという建前通りとはなっていますが、現実には下を向けば煙草の吸い殻が地面に落ちているという状況です。それが頻繁であり日常ともいえます。
 煙草の害に関する議論はいったん脇に置いておくとしまして、この東京都と大阪府との違いについて考えてきますと、東京都では喫煙エリアを敢えて明確にして喫煙することができる環境を作り出すことで、喫煙禁止エリアでの喫煙や煙草のポイ捨てなどの数が減少しているように思います。これは路上喫煙ばかりではなく航空機内での喫煙は厳重に禁止されていますが、そうしたなかでもトイレの中で喫煙をしてしまうという人も残念ながら存在していると耳にしたことがあります。これは法に代表される規制の在り方をどのように考えていくのかという点にも結び付く問題であるように思います。いくら理想が高くても現実離れしすぎた法規制であるとどれだけ厳しくしてもかえって法の不遵守という状況を招いてしまうということです。
 こと煙草の問題に絞って考えますと、そもそも路上喫煙を禁止しようとする理由があるはずですが、禁煙条例を作る場合でもその理由をしっかりと踏まえながらでないと、あまり意味がないように思います。また規制をする以上は、当事者となる喫煙者と非喫煙者との利益の調整も必要となるでしょう。
 煙草だけの問題に限定してもこうした難しい問題を含んでいることになります。さらに街づくりといった点を考えていくとき、もっと複雑な問題を抱え込むことになります。過ごしやすい環境を整えることこそが理想的な街づくりと言えますが、そのためには一つ一つの一見すると細かい利害を調整していくことを積み上げるしかないように思います。その点で法律学の議論そのものに近いように感じました。

※この教育研究活動は阪南大学学会の補助を受けています。