2021.3.24

「デザイン」について理解を深める

産学連携先:神戸ファッション美術館 

 私たちが所属する流通学部では、デザイン理論やデザイン史を学ぶための授業が開講されていないこともあって、デザインを表層的な「見た目」や「装飾」のことだと考えている学生が多い。しかし、かつて、デザイン研究の専門家が定義してきたように、デザインが「問題解決のためのプロセス」であるとすれば(※1)、当然、それは、流通学部が扱う中心的なテーマであるマーケティングにも密接に関わってくる。

 以上のような問題意識から、当ゼミでは、デザインについて理解を深める機会をたびたび設けてきたが、2021年度は、2年生を対象とする「キャリアゼミ」活動の一環として、神戸ファッション美術館における「デンマーク・デザイン」展の見学会を行った。

 この貴重な機会を通じて、ゼミ生は、「日照時間が短いため温もりを感じさせるデザインが多い」「シンプル」「実用的」といった皮相な説明で包括されることの多い北欧デザインの多様な形を体感してもらいたい。同時に、第二次世界大戦後、アルネ・ヤコブセン(アーネ・ヤコプスン)をはじめとするデンマークの家具がとりわけアメリカで商業的成功を収めた歴史的背景を学ぶことで、そこに、ブランディングと不可分に結びついたデザインを見ることができるという気付きを得てもらいたい。

※1:今日のデザイン研究では、「問題解決のためのプロセス」という定義だけでは不十分とする考えが優勢で、脱工業化社会のデザインにおいては問題解決の枠組みを脱した創造性が求められると言われている。
  • ヴェルナー・パントン(ヴェアナ・パントン)によるインテリアデザイン

  • アルネ・ヤコブセン(アーネ・ヤコプスン)による「アント・チェア」

学生活動状況報告

 今回、「デンマーク・デザイン」展を見学し、60年代にヴェアナ・パントンがデザインしたインテリアが印象に残った。宇宙空間をイメージしたような赤とオレンジのデザインである。独特な世界観で、ポップカルチャーから着想を得ているらしく、シンプルな家具が多い中で一つだけとても目立っていた。北欧デザインについては、事前学習で、特にインターネットにおいて「シンプルなデザインである」「花柄や自然をイメージしたものが多い」「木の温かみを生かしている」などと説明されることが多いことが分かったが、「デンマーク・デザイン」展を通して、ヴェアナ・パントンのようなデザインもあることを知り、北欧デザインやデンマークのデザインがどういうものかひとまとめにして説明するのはとても難しいと思った。
流通学部 谷川 瑞季

ゼミ集合写真

参加学生一覧

森本 祐生、新井 梨紗、荒川 一斗、大石 季実、大倉 竜也、大谷 新太、大西 歩花、大西 隆斗、谷川 瑞季、中塚 拓、奈良 優杏、仁井田 永遠、走川 明、御堂 彰乃、森 郁登

連携団体担当者からのコメント

神戸ファッション美術館
学芸員 中村 圭美 様

 「デンマーク・デザイン」展は、デンマーク・デザイン博物館の協力のもと、この分野に特化した日本ではじめての展覧会であった。2017年のデンマーク日本修好150周年事業のひとつとして始まり、国内を巡回し、神戸ファッション美術館においては、2020年9月19日から11月8日まで開催された。「デザイン」は、社会や文化とも深く関わるものである。デンマークの人々は、日常的に使う道具などをデザインし、国家のデザインにも力を注ぎ、幸福度第1位の国をつくり上げてきた。機能的でありながらシンプルで、人びとの暮らしに心地よく寄り添う作品200点近くを本展では紹介した。それらを通して、デンマーク・デザインの魅力だけではなく、人びとを幸せに導き得るというデザインの可能性を学生の皆さんにも感じていただけたのではないかと思う。

教員のコメント

流通学部
安城 寿子 准教授

 2021年度の2年生を対象とするキャリアゼミ活動は、例年に比べ、必要な事前学習(座学)が多く、ゼミ生がどれだけ前向きに取り組むことができるか不安だったが、杞憂に終わった。各自がデンマークを含む北欧デザインの歴史を調べた上で、19世紀後半から現在に至るデンマークの家具、食器、ポスターなどを目の当たりにする機会を設けたことで、より明確な知的好奇心に導かれた見学会を実現することができたように思う。「デンマーク・デザイン」展では、事前学習で触れることのなかったヴェルナー・パントン(ヴェアナ・パントン)のサイケデリックとも言える——木製の家具が多く展示されている中でひときわ目立つ——1960年代のインテリアデザインが再現されていたが、このデザインに関心を寄せ、60年代の社会や文化の状況について質問するゼミ生が複数名いた。それが制作された時代背景とともにデザインを理解しようとする視点が培われたことは、今回のキャリアゼミ活動の大きな成果の一つである。