活動テーマ:歴史的視点から現在のファッションビジネスを考える
産学連携先:神戸ファッション美術館
 

 流通学部ブランド・マーケティングコースの安城ゼミは、「ファッション産業とファッションデザインの歴史をしっかり学んだ上で、現在のことを考える」という目的を掲げ、研究活動を行っています。

 現在のファッションのことを考えるのに歴史の知識なんて必要ないと言われることもありますが、それは大きな勘違いです。例えば、昔は売れていたある商品の売れ行きが伸び悩んだり、かつて全盛を誇った業態が振るわなくなってきた時、その原因を分析するには、業界、消費者、さらにそれを取り巻く社会経済の長期的動向を踏まえた視点が必要になります。さらに、せっかくファッションを学ぶのですから、いま流行っているものだけでなく、過去の素晴らしい——時にはおかしな——デザインの例と一つでも多く出会うことで、より豊かな感性を身に着けることができるはずです。

 さらに付け加えるなら、ことファッションブランドやファッションデザイナーについては、概説本やウェブ上で拡散される情報を通じて、典拠不明の誤った歴史が語られやすいという問題があります。そのため、何でも鵜呑みにするのではなく、常に「本当にそうだったのか」「裏付けとなる資料(史料)はあるのか」を疑う習慣を身に着けることは、情報リテラシー教育の観点からも、欠かせないように思います。

 以上のような問題意識から、2019年度、安城ゼミ(2年生)では、キャリアゼミ活動として、神戸ファッション美術館の「5つの時代衣装展」と「鳥丸軍雪展」の見学会を行い、そこで特に気になったことや興味を引かれたことを出発点として、各グループでテーマを設定し、「歴史的視点に基づき、ある程度長いスパンでファッション産業について考察する」というプレゼンテーション課題に取り組んでもらいました。

 各グループのテーマは以下の通りです。
  • 馬詰怜那・佐竹捺美 「アパレル産業の危機」
  • 姫野光太郎・松平凱斗 「Yohji Yamamoto」
  • 伊藤大志・木村涼太郎・山本翔 「過去と現在の古着の価値」
  • 金尾玲・垂口蒼太・南野嶺 「百貨店の現在と過去」
  • 坂上拓真・寺岡晴哉 「Saint Laurent Parisについて」
  • 菅根野愛・宮武美怜 「シャネルの過去と現在」

学生活動状況報告①

 私は、神戸ファッション美術館の「鳥丸軍雪」展を見るまで、日本のファッションデザイナーにそこまで興味がなく、鳥丸軍雪という名前も知りませんでした。
 鳥丸軍雪は、シンプルでなおかつ独自性のあるスタイルを生み出し、国際的に高い評価を受けていることが分かり、感動しただけでなく、以前よりも日本のファッションデザイナーについて知りたいと思うようになりました。
 この展覧会をきっかけとして、日本人とモードの関係について調べ、「モードのジャポニスム」に関する本も手に取ってみました。その中で、特に興味を持ったのが山本耀司だったので、プレゼンテーションでは、山本耀司の経歴、デザインの特徴、どのようなブランド展開をし、海外でどのように評価されているかを発表しました。欧米では、山本耀司の服は日本の美意識を表現したものとして評価されていることを知り、日本人が海外で勝負していく時には国内向けとは違う戦略が必要になるということについて考えさせられました。
 とても良い刺激を受けることができ、今後も、美術館見学の機会があれば是非参加したいと思いました。
流通学部 松平 凱斗

学生活動状況報告②

 今回、神戸ファッション美術館の「5つの時代衣裳」展を見学し、一部の貴族が華やかなドレスを着ていた時代から、現在のアパレル産業が生まれるまでにどのような歴史があるのかくわしく知りたいと思うようになりました。
 注文服が主流の時代は富裕層のみ一着数百万円のドレスを仕立てていましたが、現在では既製服が主流になり、より安い商品を求め低価格実現のために大量生産した結果、在庫の廃棄問題に直面しています。ここから、廃棄問題や古着についても興味を持つようになり、プレゼンテーションでは、古着の歴史と現状について発表しました。調べてみると、世界的有名ブランドでは在庫の焼却処分を止め、アウトレット等で値下げ販売し、廃棄問題改善に向けた取り組みをしていることが分かりました。古着は現在、年月がたった希少なモノであれば元の価値から数十倍になるモノもありますが、実際はほとんどが処分されています。そこで、日本にあるいくつかのブランドでは店舗にリサイクルボックスの設置、下取りを行い代わりに店舗で利用できるクーポンと引き換えに古着を回収し先進国で需要のなくなったモノを発展途上国に寄付したり、リサイクルしたりしています。
 これまで、古着のお店に行っても、古着について深く考えたりすることはなかったのですが、今回のプレゼンテーションを通して、アパレル業界の今後を考える上で古着が重要な鍵になってくるのではないかと考えました。
流通学部 山本 翔

ゼミ集合写真

参加学生一覧

馬詰 怜那、佐竹 捺美、姫野 光太郎、伊藤 大志、木村 涼太郎、坂上 拓真、菅根 野愛、垂口 蒼太、寺岡 晴哉、松平 凱斗、南野 嶺、宮武 美怜、山本 翔

連携団体担当者からのコメント

神戸ファッション美術館
佐藤 愛 様

 昨年5月末の「キャリアゼミ」のみなさまのご来館、誠にありがとうございました。
 「キャリア」という視点では、東映アニメーターからファッションデザイナーとなり、故ダイアナ妃来日時のブルーのドレスを担当するまでに成功した世界的デザイナー、鳥丸軍雪氏を記憶している方も多いことでしょう。ファッションはアートであると同時にビジネス。ロココの時代には個人の名前が表に出ることはありませんでしたが、20世紀にはその名を冠した「ブランド」となるデザイナーが綺羅星のごとく登場しました。シャネル、ディオール、サンローランなどなど、天才デザイナーたちの仕事ぶりとキャリアは、きっとみなさんのキャリアのヒントにもなると思います。
 3Fライブラリーには、デザイナーたちについての書籍も多数取り揃えています。
 今後も、当館にお越しいただき、多彩なアートとファッションを巡る新しい世界に出会っていただけましたら幸いです。

教員のコメント

 私は今年度から本学流通学部に着任しました。当初は、「歴史」という字面に拒絶反応を示すゼミ生もいるのではないかという不安がありましたが、神戸ファッション美術館で2つの展覧会を見学したことはとてもよい刺激になったようで、各自がそこで興味を持った時代、人物、デザインなどを出発点として、その後のプレゼンテーション課題に意欲的に取り組んでいました。特筆すべきこととして、19世紀から20世紀にかけて現在まで続くモードの仕組みが形作られていった歴史と昨今のアパレル在庫の問題を関連付け、さらにそこから「古着」という独自の切り口でプレゼンテーションを行ったグループがありました。ただ資料を調べてまとめるだけでなく、グループ内でのディスカッションを通じて独自の視点を持つに至った点を高く評価したいと思います。
 反省点としては、グループによって、依拠する資料の精査やスライドを見やすくする工夫にばらつきが見られたため、次年度以降、これらの点について向上を促すゼミ活動を行っていきたいところです。
 最後になりましたが、キャリアゼミ活動にご協力下さいました神戸ファッション美術館様にこの場を借りて心より御礼申し上げます。