ジャーナリズムゼミである曽根ゼミ。2015年は人口減少を見据えながら、産廃の島・豊島、限界集落の和牛育種、それに震災被災地の仮設を訪ね、日本の“いま”を理解しようというものでした。

産廃の島・豊島

 香川県豊島はご存知の産廃の不法投棄に住民が草の根の闘いを繰り広げて来た島です。2010年以来参加している「島の学校」今年も学生が訪れ、全国からの6大学の学生たちと授業や現場見学、集落への聞き取りなどを行ないました。50万トンという膨大な産廃の撤去も2017年3月には完了の予定ですが、3年半も遅れています。事件発覚から四半世紀、公害調停の申請人の半数が亡くなるという過酷な現実を学生たちは肌で感じ取りました。「きれいな島を子孫に伝えたい」という島民のつぶやきがようやく実ろうとしています。原状回復のひとまずの区切りまで後1年、島民へのアンケートも実施しました。

神郷釜村

 中国山地の岡山県新見市神郷釜村は標高600メートルの山村。蔓牛というよく似た和牛を産む純粋系統牛の復活に人生の大半を費やしてきた牛飼いがいます。平田五美さん71歳です。隣も向いも空き家、「産業のない所に人は住めません」という平田さんの目指す蔓牛の復活と産地化、遺伝的にも希少牛が研究者によって証明されています。赤身で香りのよい肉の平田さんの牛、行政などの支援が急務なことなど、学生たちがフェースブックなどで発信しています。

石巻

 「大阪から笑顔届けます」と宮城県石巻市雄勝や仙台市内の仮設住宅でたこ焼きを住民らと焼いて励まして来た活動も震災から丸5年の年でした。先輩たちから受け継いだ活動で、仮設の人たちと随分仲良くなりました。丸5年の雄勝は復興公営住宅が建ち、3家族が残るだけ。年末に引っ越した公営住宅は木の香りがしそうな新築。「阪南の学生さんにも励ましてもらったね」との笑顔でした。「でもね、やっぱりここも人がいなくなるよ」とつぶやく住民。高齢化が追い打ちをかけています。原発事故の福島も訪ねました。
 豊島、釜村、被災地、人口減少が深刻さをみせています。現場を訪れてそこにいる人たちと話をする曽根ゼミの学生たち、先輩たちのように将来メディアに就職する、しないに関わらず、人間的にも大きく成長した1年でした。

参加学生一覧

浅井郁也、石田歩夢、越智一樹、高田あいみ、高田一輝、武下穂乃花、鳥越健太、平松颯、三好里佳、向井一輝、村中和希、矢野稚奈、山本麻由、渡辺雄斗

学生の感想

国際コミュニケーション学部 鳥越 健太

 曽根ゼミは「ジャーナリズムを学ぶ」をコンセプトに、実際に現場に入り現場の人々とかかわることで、コミュニケーション能力や人間力を養うという点で、まさにキャリアゼミだと思います。
 先輩たちから受け継いできた「笑顔とつぶやきのプロジェクト」、今年度は3つの現場に入ってきました。東北の被災地、日本最悪の産廃の不法投棄と闘っている香川県の豊島、それに蔓牛という純粋和牛の育種に励むお年寄りのいる中国山地の限界集落。
 これら3つに共通するのは、いわゆる弱者と呼ばれる人たちが厳しい現状に置かれていること、日本で進行している高齢化と人口減少が深刻だという点です。
 東北の被災地では今回も石巻と仙台の仮設でたこ焼きを焼いてきました。震災から5年、公営復興住宅の建設が進んでいる地域と遅れている地域がまだらです。ささやかなたこ焼きにも喜んでもらえるほど、
 お年寄りの孤立が進んでいるように思いました。豊島も限界集落の新見も人口減少が深刻でした。

教員のコメント

国際コミュニケーション学部 曽根 英二 教授

 地方の現場に立ってみると、いま進んでいる問題が浮かび上がってきます。現地の人たちと話をかわすことで、相手の現状を知ると同時に、気持ちを理解することもできます。
 核家族が当たり前の日本にあって、お年寄りとの会話は貴重な経験。言葉の端々から何を感じ取るか、
 同時に自分はどう考え、どうするのかを問われることになります。知らず知らずの間に、コミュニケーションの力がつくことになります。まっとうに話しができる能力、どう話を聞くか、どんな柔軟性を持っているか。感性豊かな人に成長していきます。