授業の内容は授業中に学習される部分と予習・復習のように授業外で学習される部分があります。コンピュータが学習上、より効果を表すようになってきたため、以前より多くの内容を授業外にコンピュータで学習することが合理的になってきました。コンピュータは人間よりも有利な点がいくつかあります。個別の指導を何百(もしくは何百万)もの学生にたいして同時に行うことができるだけでなく、教員の時間配分を気にすることなく、何回でも必要なだけ同じ内容を繰り返し学習することができます。
 コンピュータが得意なことと、人間の教員が得意なこと見極めて、授業内で教師が行うことと授業外でコンピュータを使って行うことに学習内容を振り分けるのが反転授業の本質的な部分です。(反転授業と呼ばれるのは、従来授業内に行われていたことが授業外で行われているからですが、逆に反転する授業もあります。)

 英語の反転授業では学生は単語、文法、リスニングなどを授業外にコンピュータ上で学習できます。こうすることで授業で必要になる知識を前もって身につけることができるのです。そのため教員は授業内では、現在でも人間としかできないような内容、例えばコミュニケーションが必要な会話や双方向タスクなどに集中することが可能になります。

私の反転授業の例

 私が反転授業で一番活用しているのはMemriseというスマホのアプリです。無料でダウンロードでき、一見するとただのフラッシュカードのアプリのように見えますが、実際はもっと複雑なことができます。まず年度が始まる前に、私は学生が覚えなければいけない単語や重要な文法事項が含まれた例文をアプリに入れます。また練習時にネイティブが発音するのを学生が聞けるように音声も入れます。

 授業開始後は、毎回の授業が始まるまでにアプリのどの部分を学習しておく必要があるか、学生に伝えています。スマホのアプリなので、電車内やコンビニの行列中、街を歩きながらなど、どこでも学習することができます。

 見かけはシンプルなフラッシュカードアプリのようなのですが、実際はそれ以上です。単語を暗記するだけでなく、文を訳したり、文法の確認をしたり、リスニングもできます。このアプリが特に優れていて、学習スピードがあがるのは間隔反復のためです。この間隔反復とは、学習している各項目にアルゴリズムを応用して繰り返し学習することです。まず学生が正しく答えられたかどうかをベースに各項目の難易度計算します。その難易度に基づいて、簡単な項目は復習の頻度を少なく、難しい項目は学生が間違えなくなるまで何回も復習します。正しく答えると、その項目はだんだん復習の間隔が空いていきます。もし1ヶ月以上間が空いても正しく答えられたら、その項目はよく覚えていて、授業でテストする必要はないと自信をもって言うことができます。アプリは正しく答えられるようになるまで、各項目を教えて、テストをしているのです。

 教室で複数の学生を対応している世界一の教員ができることよりも、Memriseはこういった項目を学習するのに適したシステムです。また従来のフラッシュカードよりもはるかに優れています。まるで各学生が何を学習すべきか正確に知っていて、学生の都合の良いときはいつでも手伝ってくれる教員がいるようです。その上、全員の学生と同時に作業することができるのです。

 こうすることで授業中の全時間を一番重要なこと、つまり実際のコミュニケーションの練習にあてることができます。単語の暗記と授業前のリスニングを確実にする以外にも、このアプリを使うことで授業を改善することができます。例えばコミュニケーションや会話のアクティビティの授業で他の人よりも早く終わる学生がいます。これらの一番英語が得意な学生は他の学生が終わるのを待たなければいけなけないのですが、私の授業では早く終わった学生はスマホを出して、アプリの宿題の部分を授業中に行うことができます。音量はミュートでなく周りに聞こえるようしてもらいます。つぎつぎと学生がアクティビティを終わらせるにしたがって教室内はうるさくなっていきます。全員がスマホを出したら、つぎのコミュニケーションのアクティビティに進む時間です。

結果

 学生は反転授業のために、年度末には英語を話す体験をより多く得ることができます。また、アプリが1年間を通じて何回も単語と文法のテストをするので、期末テストをしなくてすみます。このことにも学生は満足しているようです。

身近な経営情報あらかると

 本連載では、われわれ阪南大学経営情報学部の教員が日頃の研究成果をもとに、みなさんの暮らしに役立つちょっとした知識を提供していきたいと考えています。研究分野はさまざまですが、いずれの場合も社会に役立つことを最終目標としています。難しい理論はとりあえず脇に置いて、身近な視点から経営情報学部に興味を持ってもらえれば幸いです。

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