建築協定とは、建築基準法に定められた制度で、例えば〇〇市△△一丁目等の狭い地区において良好な住環境の維持等を目的として、その地区の特色に合わせて建築基準法よりも厳しい基準等をその地区の敷地所有権者等が定めるものである。建築基準法は全国一律の最低限度の基準だから、地域によっては同法における基準だけでは不十分であることもあるので、このような基準が定められる。例えば、建物の用途として店舗、事務所、共同住宅を禁止したり、建築物の高さを制限したり、建物の階数を2階までとしたり、見通しのきかないブロック塀を禁止したり、自動販売機の設置を禁止したり等様々である。大阪府内は全国的にも建築協定地区が多い。
 一度、建築協定が認可されると、それ以後、地区内の敷地の所有者が売買等によって変更されても新所有者も協定の内容を守らなければならない。だから知らずに土地建物を購入すると、買主は不測の損害を被ってしまう。そのため取引の対象となる土地建物が建築協定地区である場合には、土地建物の売買の仲介を行う宅地建物取引業者、つまり不動産屋は重要事項としてその土地建物が建築協定地区であることを説明する法的義務がある。ところが、この説明が不十分であることが往々にしてある。
 本ゼミ生には宅地建物取引士志望、つまり宅建業界を志望する者や建設業その他公務員等建築協定に関わる分野に進む者が多い。そこで将来、建築協定地区に関わった場合に、建築協定に関する適切な知識を持って顧客等に対応できるように実際の建築協定地区を見学し、実際の運営に携わる建築協定運営委員の方から話を聴く機会を設けることにした。訪問先は、大阪府建築協定地区連絡協議会が主催する「まちなみ魅・趣・覧」において最優秀の評価を得た地区である。まずは最も理想的な地区を見学させることを企図した。
 当日は小雨が降る中、同地区運営委員長の案内の下、その説明を熱心に聴き入っていた。
 ゼミ生の印象に特に残ったのは、電線が地中化されていたことのようである。その他にも、調和のとれた街並み、煉瓦による道路の舗装や緑地化等の街並みの美しさ、住みやすさを意識した駐車スペースの確保等が印象に残るとの声があった。
 見学を終えた後は委員長を囲んでの座談会を行った。ここでは活発な意見が交わされ、自動車がすれ違う際の幅の確保等担当教員が以前に訪問した際には気づかなかった鋭い質問も幾つか出された。また宅建業志望のゼミ生が多かったこともあってか、上記のような街並みの維持に関わる苦労について多くの質問が出された。将来の宅建業者としては、建築協定についての理解を深めると同時に、顧客に対する建築協定の重要説明の仕方に工夫の必要があることを感じ取ったようだ。宅建業志望以外にも民間企業、公務員志望等様々なゼミ生がいるが、それぞれの希望進路に応じて建築協定に対する理解を深めて貰えたようである。
 以上の次第でフィールドワークの初期の目的を達成できたようである。ここで彼らが得た知識・理解が5年後、10年後になるかわからないが、いずれ建築協定地区に還元されることを願いつつ、今回のフィールドワークを終えることができた。

(この活動は2023年度阪南大学学会学部・大学院教育研究活動助成事業補助を受けています)