ASEAN(東南アジア諸国連合)の自国通貨決済促進の動きについて5月9日にメディアインタビューを受けました。

今回は、大阪・関西を離れ、タイ・ASEANからです。タイでは、5月14日に4年ぶりの下院選挙が行われ、7月にも発足する新政権の行方が注目されていますが、タイを筆頭にASEAN全域で、自国通貨決済を増加させ、ドル離れを模索する動きが出ている点も注目されます。

世界の基軸通貨はドルですが、新興国全般でドル離れを模索する動きが見受けられます。NNA(共同通信グループ)のタイ拠点(バンコク)から、ASEAN(東南アジア諸国連合)の動きについてインタビューを受けましたので、小職の応答部分のみをご紹介いたします。
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掲載コメント

Q ASEANで、現地通貨同士での決済システム構築を具体化する動きがありますが、この背景には何があるのでしょうか?
率直に申し上げて、ASEAN諸国が今見渡せる時間軸でドル離れができるとは思えません。基軸通貨はドル、ドルがなければ、エネルギー、食料は買えません。
 
他方で、近年のハイペースのドル高で、ASEAN諸国がドルに振り回されているのは事実。
自国通貨が下がって、ドル調達に苦労し、ドル建ての輸入決済には影響が出ていることになります。
 
ドル高は、米国発のインフレが直接的な要因ですが、ドルを使うことで、少なからず「ビジネスと人権」などに抵触すると、制裁対象になることもあります。
 
そのリスクはASEAN諸国ではそこまで高くはないも、国によっては、「ビジネスと人権」に抵触するという指摘がゼロではなくなってきている面はあるのでしょう。上記理由から、ドル離れは現実的ではないものの、少しは進めたいので、まずは行い易い隣国からということになっているように思えます。そこはASEANらしい動きです。
 
どこかの通貨が強く、例えばタイバーツ圏や、シンガポールドル圏ができるという話なら進みやすいのですが、あくまでタイバーツとマレーシアリンギ、タイバーツとインドネシアルピア、タイバーツとフィリピンペソのような話になります。
 
そうなると、強いタイバーツやマレーシアリンギと弱いインドネシアルピアやフィリピンペソの間で、自国通貨決済が進むかというと、障壁は高いかもしれません。
 
シンガポールとマレーシアやインドネシアの一部、タイとラオス間なら、デ・ファクトでその流れはあるので、さらに進みやすい面はあるでしょう。そういう所では、2国間通貨決済が一層進むかもしれません。ベトナムの場合は、管理フロートでドル連動度が高く、資本規制も強いので、2国間決済の障壁はやや高いかもしれません。
 
つまり、全体の利便性は、あくまでドルの利便性が高いと考えます。ドルは基軸通貨で、かつオフショア(米国以外)にも十分な量が供給されています。かつてアジア共通通貨構想が盛り上がりましたが、今はその議論がやや沈静化して、実質ドルがその役割を担っています。その弊害が、近年やや強く出てきており、少なからず対処する姿勢を見せていることになろうかと思います。
 
なお、これは少し話の質が違う気がしますが、この2国間で自国通貨を使う流れに、さらに、フィンテックを使った比較的自由な送金が重なりますので、それがどのように影響するのか、そちらは現時点では見えませんが、ラオスでタイバーツが流通、シンガポール周辺(マレーシア、インドネシアの一部)では、シンガポールドルが流通することを加速させるかもしれません。
 
Q 他の地域でも似たようなシステムはあるのでしょうか?
 自国通貨決済を促進して、ドル離れを進めようとしている比較的大きな新興国では、ブラジルとアルゼンチンが挙げられます。
 
どちらも、通貨は弱く、ドルに振り回されているのを脱する動きですが、経済的に相対的に強いのはブラジルのほうなので、ブラジルレアル決済が進むということになるのでしょう。
そういう意味では、ASEANの経済大国は、ボリュームではインドネシアですが、インドネシアルピアは弱く、なかなか、ぴたっとはまる事例が見当たらない感じはします。
 
Q 仮に現地通貨同士の決済システムが稼働した場合、どのような影響があると思われますか?
 域内貿易が均衡しないと、強い国の通貨が結局強くなり、弱い国は弱くなるので、為替リスクは残存することにはなります。
ただし、ドル不足での貿易スタックは回避できる可能性は高まります。
 
以上になります。

市場統合が進む欧州とは異なり、ASEANでは関税撤廃は進んでいますが、経済発展段階や、為替制度が異なる中で、自国通貨決済がじわりと進むのか、進まない場合は、どのような処方箋で乗り切るのかは大いに注目されます。

これからも、大阪・関西×国際・アジアの視座で、随時、報告して参ります。