10月21日(火)、カナダ・トロントにあるヨーク大学歴史学部教授マルセル・マルテル氏をお迎えし、「北米のフランス語圏—知られざる民族の歩み」と題する阪南大学公開講演会を開催しました。マルテル氏は二十世紀カナダ史を専門とし、とりわけフランス系カナダ及びケベックの歴史的アイデンティティの形成と変容、カナダの言語政策の変遷などの研究で知られています。この度、日本ケベック学会の招きにより、国際ケベック学会の援助を受けて来日されました。東京でも明治大、神田外大等で講演され、本学では「フランス語圏文化b」の授業の一環で、かつ一般にも公開した形での講演会となりました。

 今回の講演は、17世紀にカナダに入植したにもかかわらず、イギリスとの抗争に敗れ、苦難の道を歩んできたフランス系住民の知られざる歩みを専門家の立場から多角的に解明するものでした。とりわけ、本国フランスからも見放され、北米の圧倒的な英語圏のただ中でマイノリティとして生き残り、独自のフランス系文化を花咲かせるに至ったフランス系住民の歩みを、ケベック州とその他の地域の少数派フランコフォンとの関係や、支配者としての英語系住民(アングロフォン)や対アメリカとの関係などに注目し、歴史の推移のなかで変容する入り組んだ複雑な様相を分かりやすく解き明かしていきました。
 講演会には、「フランス語圏文化b」の受講者、学内の教職員とともに多数の一般の方々も参加され、100名足らずの聴講者は皆熱心に耳を傾けていました。質疑応答では活発なやり取りが繰り広げられ、カナダにおけるフランス系住民のたどった道のりと日本での沖縄の人々が置かれた状況を重ね合わせての質問や「国家」や「州」が果たし得る役割の可能性についてなど、特に一般の参加者からの鋭い質問が相次ぎました。最後にマルテル氏が、阪神タイガースのリーグ優勝の当日に来阪し、ファンの喜びようを目の当たりにして、大阪がケベックに劣らずいかに自意識が強く、人情味に溢れた土地柄であることを納得したとのエピソードを紹介すると、会場中はどっと笑いに包まれ、和やかな雰囲気のうちに講演会は終了しました。(文責 真田)