【松ゼミWalker vol.213】 なんば駅前ひろばでの社会実験に向けて(教員 松村嘉久)

なんば駅前ひろば社会実験で協力

 2016年11月11日(金)・12日(土)・13日(日)の三日間,南海なんば駅前のひろばにて,ひろばの空間と機能をフル活用して,賑わいを創出するための社会実験が行われます。なんば駅前ひろばのより有効な活用は,大阪ミナミでまちづくりをされてきた諸先輩方の悲願のひとつです。ひろばとはそもそも,とりあえずそこへ集い憩い,そこへ色々な情報も集まってきて,次のところへ行くきっかけを得るような場所であるのが理想です。
 ところが,なんば駅前ひろばは現在,人が立ち入れる憩いの空間も用意されているのですが,その空間は自動車道路で分断され,客待ちするタクシーが路上で滞留しているのが現状です。今回の社会実験では,駅前ひろばを本来のひろばとしてフル活用した場合,どのようなことができ,どのような状況が生まれるのか,それを確かめるため行われます。
 戎橋筋商店街事務局の山本英夫さんから,この社会実験で,「体験型の観光案内所を開いて,インバウンド客が広くミナミを回遊するような環境づくりの可能性を探りたい。松村ゼミにもぜひご協力いただきたい。」と相談を受け,ゼミに持ち帰り議論したところ,「ぜひ参画すべきである」と意見がまとまりました。

 体験型観光案内所の運営では,株式会社伊藤園が野点体験でおもてなし,着物の着付け体験も準備されています。松村ゼミは,阪南大学松村嘉久研究室として協力団体に名を連ね,大阪観光局やエール学園で日本語を学ぶ留学生と協働して,インバウンド客を主な対象として,観光情報を提供するとともに,ミナミのまち歩きをご案内することになりました。
 社会実験だけに,全て初めての取組や試みばかりで,何をどこまでどう準備すれば良いのか,手探りの状態で,9月末に南海電鉄本社で最初の打ち合わせ会議が行われました。まだ夏季休暇中であったので,松村ゼミからは松村ほか,3回生の大嶋千波,2回生の松井昭憲も参加しました。
 松村ゼミの役割で期待されているのは,ミナミの観光地理知識を習得してインバウンド客に伝える能力,まち歩きツアーをアテンドして案内する能力の二つでした。二つともなかなか学生にはハードルの高いもので,座学に加え,実際にまちを歩いてのフィールドワークが不可欠です。

 そこで10月25日(火)午後に3・4回生,26日(水)午後に2回生,28日(金)午後に1回生中心の有志が集まり,なんば駅前ひろばから広くミナミをフィールドワークして回りました。一度歩いたくらいでミナミの実態は把握できませんが,とにかく実際に歩いて見ることからしか,何も始まりません。
 駅前ひろばから,道具屋筋,裏ナンバ,NGK界隈,堺筋,黒門市場,千日前,阪町,法善寺,道頓堀と,観光スポットやレストランなどを松村が説明しながら歩いて,約1時間のコース。ミナミのまち歩きを案内する際の解説ネタはとても豊富で,美味しいレストラン,有名なエピソードのあるお店なども数多く存在します。
 関西以外から阪南大学に入学したゼミ生はもちろん,関西在住のゼミ生でも,ミナミのネタは知らないことばかりです。社会実験当日は,エール学園の留学生の力を借りて,コミュニケーション力を補い,戎橋筋商店街ほか大人のみなさんの力を借りて,ミナミの観光地理知識を補い,実際に現場で動いていくなかで,まち歩き案内のコツを習得していくことになりそうです。

西成区簡易宿所の経営者や従業員への聞き取り調査

 さて,後期に入って,何かと現場で動くことが多くなり,ゼミ活動は多忙です。例えば,3・4回生を中心として,西成区の簡易宿所の経営者や従業員を対象として,聞き取り調査を行っています。外国人観光客を受入れるようになったきっかけ,どのように経営方法を変えて来たのか,今後の経営方針はどう考えておられるのか,外国人観光客の受入れで困ったことは無かったのか,などなど。
 毎週火曜日のゼミの時間やその前後の空き時間を使い,西成区の現場へ出向き,簡易宿所のなかなども案内してもらい,みんなでインタビューして,録音した音源を手分けして文字におこす。そういう作業が連日続いています。10月25日(火)のフィールドワーク前にも,西成区萩之茶屋2丁目のホテル加賀を有志で訪問し,経営者とフロントスタッフからお話を伺い,堺筋沿いに新しい簡易宿所を建設中のオーナーからもお話を伺いました。西成区あいりん地域は最近,ホテル開業ラッシュで,私の知る限りでも,2軒のホテルが建設中で,3軒のホテルがこれから建設される予定です。
 まちが発展するのか衰退するのか,日本全体の人口が減少傾向にあるなか,鍵となるのは,まちの外からまちのなかへ,どれだけヒトやモノやカネを呼び込めるのか,そしてそれらをまちにどう定着させられるのかです。そうした変化の兆しや契機を聞き取り調査から探りたいと思っています。

いまいけに寿司職人がやってくる!

 26日(水)のフィールドワークでは,道頓堀の大阪松竹座の前で解散してから,時間の許す有志のみで「今池こどもの家」へ向かい,「いまいけに寿司職人がやってくる!」というイベントを見学しました。
 このイベント開催のきっかけは,松村ゼミOBの濱中勝司さんからの相談でした。濱中さんによると,西成区出身のお寿司屋の大将がいて,「自分の人脈や技術を活かして,生まれ育った地域へぜひ恩返ししたい。西成区を離れて長いので,地域の事情をよく知っている人を紹介して欲しい。」とおっしゃっている,とのことでした。テレビで「こども食堂」の報道をご覧になられ,「これなら自分も貢献できる」と思われたそうです。
 濱中さんを介してお会いしたのは,北田辺で『寿司繁』というお店を経営されている山田智洋さんでした。山田さんは西成で生まれ育ち,西成を出て寿司職人の修行へ入り,苦労を重ねながらもお店を持ち,繁盛店へ育て上げた,筋金入りの寿司職人でした。お会いした際の第一印象は,兄貴肌というか親分肌で,律儀そうな方。相手を信頼して「協力する」とおっしゃったら,一騎当千の味方という感じでした。

 西成にも「にしなり☆こども食堂」があるのですが,あいりん地域から少し距離のあるところで活動されていて,山田さんのイメージともやや異なりました。山田さんは,こどもらにお寿司を振舞うだけでなく,お寿司をつくるところも見てもらい,こどもたちにもお寿司をつくってもらいたい,と願っておられました。それなら…と私の頭に浮かんだのは,西成WANで一緒に絵を描いたこどもたちでした。そこで「今池こどもの家」の指導員の多賀井潤一郎さんへ連絡し,山田さんをご紹介したところ,意気投合。トントン拍子で話が進みました。
 この日のイベントは第二回目。「限定15人 食べ放題」の予定でしたが,結果的には私たちも含めて30人以上が参加。山田さんは寿司職人仲間にも声をかけて,握り寿司の盛り合わせを現場でつくり,その後,巻き寿司の巻き方をこどもたちに手ほどき。第一回目に参加したこどももいて,みんな上手に巻いていました。何よりも印象に残ったのは,山田さんが「上手いこと巻けたな,上出来や」と褒めると,こどもたちが例外なく,満面の笑みになることです。
 私たちはイベントを支援しようと思い駆け付けたのですが,山田さんらが完璧に仕切っておられて,お手伝いする隙もなく,こどもたちが喜ぶ姿を見ながら,美味しいお寿司をご馳走になりました。

アフターフィールドワークでアメリカ村へ

 25日(水)と28日(金)のフィールドワークでは,解散後,有志のみで,アメリカ村へアフターフィールドワークに出かけました。西成WANでお世話になったアーティストのCASPERさんらが,アメリカ村でCMK Galleryをリニューアルオープンした,とかなり以前に聞いたので,そのギャラリーを見学しがてら,アメリカ村街路灯アートプロジェクトRed Bull Ignitionなど,アメリカ村の最新アート事情も視察しました。
 CMK Galleryは,中央区西心斎橋2丁目宝泉ビルの2階,アメリカ村の最南端,道頓堀川のすぐ北側にあります。知らない人は少し入りづらいかもしれませんが,誰でもウエルカム,逆に,知っている人は海外からでも訪れるような空間です。ラッキーなことに二日ともCASPERさんがギャラリーにいたので,CASPERさんらが所属する山栄アート工房の事務所や屋上もご案内いただきました。
 ゼミ3・4回生はCASPERさんとは西成WANで顔見知り,西成WANの思い出話やその後の活動展開について語り合いました。1回生はアーティスト独特の個性的な空間づくりに驚いていたようです。