都上賀茂神社で能楽師・梅若玄祥先生が舞うのを観ました。

 2012年4月5(木)午後6時半から,松村ゼミの有志は京都上賀茂神社で能楽師・梅若玄祥先生が舞うのを観ました。上賀茂神社は世界文化遺産(1994年登録),能楽は世界無形遺産(2001年登録),私たちは最高の舞台で,最高の伝統芸能を観るチャンスに恵まれました。
このイベントの正式名称は,第四十二回賀茂別雷神社式年遷宮奉賛「世界遺産で舞い唄う 祈り」。朝日新聞でも紹介記事やイベント広告が出ていたので,ご存知の方も多いかもしれません。なぜ私たちが,そのようなビックイベントに参加できたのか,その経緯も含めて,レポートしたいと思います。
 きっかけは突然でした。松村ゼミの連絡網で4月3日(火),松村先生から連絡が入りました。それは,「松村ゼミのウェブサイト記事を読み,学生たちの芸能への想いを知られた西尾智子先生から,ご自身がプロデュースされるイベントに,学生さんたちをぜひご招待したい,との連絡がありました。4月5日18時半から,舞台は上賀茂神社,出演は梅若玄祥先生,間違いなく歴史に残るイベントです。松村も観に行くので,一緒に行きたい人は意思表示してください。」という内容でした。

 西尾智子先生は,かつて観光芸能論という講義を担当されていた芸能プロデューサーで,松村先生によると,「とにかく,すごいパワーのある方…,圧倒されるで」とのことでした。梅若玄祥先生は,観世流シテ方の能楽師で,松村先生によると,「とにかく,すごいオーラを発する方…,これより上はない…」とのことでした。2007年,西尾智子先生のプロデュースで梅若玄祥先生が阪南大学に来校して舞われ,それ以来,松村先生や国際コミュニケーション学部の松本典昭先生らと親密な交流が続いているそうです。
 急な呼びかけでしたが,松村先生の他,9名の学生が「観たい!!」と飛びつきました。参加したのは,4回生の昌山志保・小林志帆・小路望・兪穎伶・川原美穂,3回生の大宅和佳・谷河里香・谷村恵理,2回生の津村明衣でした。

 上賀茂神社の最寄り駅は京都地下鉄烏丸線の北大路駅,近鉄河内天美駅からは,JR天王寺駅・JR大阪駅経由でJR京都駅へ向かいました。JR京都駅に着いたのは17時過ぎ。駅地下でお寿司とサンドイッチを大量に購入してから地下鉄に乗り,17時半には北大路駅に着きました。北大路駅から上賀茂神社までは,鴨川沿いを北上すること30分弱。時間がなかったので,歩きながらお寿司とサンドイッチをつまみ,上賀茂神社へ向かいました。
 上賀茂神社に到着しようかという18時過ぎ,ぽつぽつと小雨が降り,気温もぐっと下がり始めました。歩きながら松村先生は,「やっぱり降るんかな…西尾先生は嵐を呼ぶ女やからなあ…」とのこと。西尾先生と梅若玄祥先生が組んでイベントをすると,これまで天気の荒れることが多かったそうです。上賀茂神社の入り口に着くと,西尾先生が和装で受付け近くにおられました。松村先生があいさつされた後,「西尾先生はやっぱり嵐を呼ぶ女ですね…」と語りかけると,西尾先生は「私じゃないわよ,六郎(玄祥)先生が呼ぶのよ…,今日も降るわよ,絶対に…」とのことでした。

 受付には7代目ゼミ生の窪堀愛子先輩もいらっしゃいました。窪堀先輩は在学時から卒業後も,西尾先生プロデュースのイベントをお手伝いされているそうです。小雨は相変わらず降ったり止んだりを繰り返し,受付で配布されたレインコートを着ていざ着席。
 イベントは上賀茂神社宮司のお祓いから始まりました。最初の演目は能舞「祈り アヴェマリア」で,ソプラノ歌手・尾崎比佐子さんの独唱のもと,小雨が降るなか,梅若玄祥先生が純白の能面で舞われました。梅若先生の舞はとても静かで穏やかで,心地よいソプラノの歌声とマッチして,ボーっと見とれました。上賀茂神社の境内は,近くに小川が流れているのか,清流の流れる音が聴こえ,舞台を観ていると自分の心が鎮まっていくのを実感しました。続いて,尾崎比佐子さんの独唱が始まる頃,小雨はピタッとやみ,透明感と表情のある歌声が,上賀茂神社の境内に響きました。

 19時少し前,15分間の休憩が挟まれ,その後に最後の演目,能楽「土蜘蛛」が始まりました。休憩の終わりが近づいた頃から,再び小雨が降り始め,梅若先生が舞台に出られると,不思議なことに,雨が本降りなりました。雨のなか土蜘蛛を鑑賞したのですが,能楽というものを初めて観たので,正直なところ,あまりよくわかりませんでした。でも,その雰囲気と迫力には圧倒されました。土蜘蛛の面が不気味で,何かオーラを感じました。
 不思議なことに,土蜘蛛が終わり,梅若先生が舞台を降りられると,雨はピタッとやみました。公演後の帰途,松村先生から伺ったのですが,以前,これも世界遺産の比叡山根本中堂で梅若玄祥先生が舞われた時,梅若先生が舞台に登場すると同時に,霧が出だして根本中堂に流れ込み,とても幽玄な世界になったそうです。雨と霧との違いはありますが,梅若先生は何かを持っておられる方なのでしょう。
 今回のイベントは,豪華メンバーによる舞台で,桜満開とはいきませんでしたが,雰囲気が最高の上賀茂神社での公演,とても貴重なものを観ることができ,とてもよかったと思います。世界文化遺産を舞台として,世界無形遺産を観た経験はとても貴重で,自慢できるものとなりました。西尾智子先生,ありがとうございました。

松村先生よりひと言

 西尾先生,お招きいただき,ありがとうございました。玄祥先生の舞台を観た学生たちは,それぞれ魂を揺さぶられ何か感じたようで,帰途も芸能談義で盛り上がりました。玄祥先生の舞はやはり間違いなく至高。それは当然として,今回特に驚いたのは,ソプラノ歌手・尾崎比佐子さんの澄んだ歌声が,上賀茂神社の静寂と水音のなかで,心に響き染み入ったことです。視角で感じる玄祥先生の舞と,聴覚で感じる尾崎さんの歌声が,渾然一体となり,日常とはかけ離れた空間と時間を体感させていただきました。
 今年に入ってから,大衆演劇,上方伝統芸能ナイト,玄祥先生の能楽と,立て続けに色々な芸能を観る機会に恵まれ,私にとっても貴重な体験となりました。演者と観客の距離感や関係性,芸能と芸術の微妙な違いなど,色々と考える契機になりました。
どれが良くてどれが悪いというのではなく,これはこれ,それはそれの個性があり,ニーズもあり,お互いに尊重し合いつつ,共存共栄するような環境が,日本の芸術と芸能の振興には欠かせないと感じました。色々な芸能は,決して同列に扱うべきものでもなく,かといって,こちらが上でそちらが下という関係性でもなく,色々な違う世界が併存し共存しているのが健全であり,芸能の発展や進化に活力をもたらすのではないでしょうか。
 この構図は国際観光振興にも当てはまります。安いゲストハウスに泊まって滞在そのものを楽しみたい外国人もいれば,豪華絢爛で贅を尽くした部屋で至高のひと時を求める外国人もいる。それぞれ個性がありニーズが違います。