「まち歩き」というよりも,「まち遊び」?!

外国人は少ないし…,私たちが楽しむツアーでええやん!!

 松村ゼミの2011年第5回の外国人向けまち歩きツアーは,2011年11月10日(木)のゼミ終わりに,「大阪ミナミの繁華街を歩き,大阪プロレスを楽しむ」というテーマで行いました。関西には京都・奈良・姫路城など世界遺産がたくさんあり,大阪がそれらに勝とうとすると,間違いなく苦戦します。
 しかしながら,大阪の夜は楽しみがいっぱい。京都や奈良を昼間に観光したら,夜は大阪へ帰り食事して泊まってください…,これが松村ゼミの考える大阪のしたたかな生き残り戦略です。
 さて,今回のまち歩きツアーではそのようなことも意識して,松村ゼミでも初挑戦の試みを,三つほど行いました。第一は,平日の夕方に集合して,夜にかけて「まち歩き」,というよりも「まち遊び」する点。第二は,交通費以外に大阪プロレスの入場料が加わり,かなり高くつくツアーであるという点。第三は,ツアーの前日から,協働するゲストハウスのフロントで,ツアーのチラシを配布・勧誘していただくだけの集客,という点でした。右は,9代目ゼミ長の昌山志保が作成した英語のチラシ。
 なぜ今回,私たちは初挑戦を試みたのか。福島原発事故と超円高の影響で,新今宮界隈に宿泊する外国人は,昨年実績の半分くらい。その状況は,新今宮TICの運営でも実感できました。とにかく,外国人の利用者が少ない…,そもそも外国人がまちを歩いていない…。
 こんな状況のなか,まち歩きツアーを企画実施しても,たぶん昨年並みの外国人の参加は望めない…,もしかすると全く参加希望者がいないかもしれない…,ゼミ生たちも日本観光研究学会全国大会の準備や卒業研究などでとても忙しい…,と松村ゼミの話し合いでは「もうこの秋のツアー開催はやめようか?」との意見も出ました。
 そこで,みんなで相談して発想を変えました。これまでのツアーは,外国人旅行者に楽しんでもらおうと周到に企画し準備してきました。しかしながら今回は,私たち松村ゼミのみんなが楽しむ機会をつくり,そこに外国人を誘おう,たとえ外国人の参加者が全くいなくても,松村先生によると,「それはそれでええやん」と発想しました。決して投げやりになったわけではなく,松村ゼミが楽しむ企画に外国人を気軽に誘うというスタンスで,ツアーが成り立つのかどうか,ある種の実験のような感覚でした。

果たして外国人の参加者は来るのか…

 これまでの外国人向けのツアーならば,ツアーの1週間前からポスター掲示やチラシ配布を行い,ツアーの当日朝にゲストハウスを回り,ツアー参加を呼びかけました。今回のチラシ配布はツアーの前日から,ツアー当日の参加勧誘は,一切行いませんでした。
 加えて,大阪プロレスの入場料は,男性が2,000円で女性が1,000円,1US$が70円代の現在,1泊1,500円から3,300円のゲストハウスに宿泊している外国人旅行者にとっては,決して安くない…。
 さて,ツアー当日は平日の木曜日,新今宮TICを運営していません。そこで,集合はホテル中央セレーネのロビーに17時30分としました。正直なところ,たぶん来ないと思っていた外国人参加者…。
 しかしながら,何と3名もやって来てくれました。ホテル東洋からデンマーク人の姉妹,ホテルみかどからオーストラリア人の男性1名でした。私たちスタッフは松村先生初めゼミ生15名,今回は3回生が中心で,内田裕規・加藤宏実・小林志帆・坂田悠貴・清水翔平・小路望・高橋菜央・張宝・新田麻紀・昌山志保・山崎育美・兪穎伶・劉沖・和田昂之の14名に,2回生は大宅和佳だけでした。
 セレーネのロビーで外国人参加者を囲んでしばし歓談。集合時間から15分ほど経過してから,松村先生がツアープランを簡単に説明して,地下鉄堺筋線で動物園前駅から日本橋駅へと向かいました。

夜の道頓堀を歩いて楽しむ!!

 今回参加した3名の外国人はいずれも初訪日で,幸いなことに,大阪ミナミにはまだ行ったことが無かった。なので,ベタなツアーで充分OKとなり,みんなの緊張がとても和らぎました。
 日本橋駅からは堺筋を歩いて北へ行き,道頓堀川南側のプロムナードを歩きました。松村先生がデンマーク人二人を連れて先頭を歩き,そのまわりを何人かのゼミ生で囲みました。少し遅れて,オレゴン大での語学留学から帰国して間の無い昌山志保ほか数名が,オーストラリア人男性の相手をしながら続きました。完璧なゾーンディフェンス(松村ゼミでは外国人参加者をみんなで囲んで歩くことをこう呼びます)でした。
 太左衛門橋でプロムナードから道頓堀1丁目の繁華街へでると,太左衛門橋から移転した「大たこ」を発見しました。デンマーク姉妹が「大たこ」のたこ焼きに興味津々。「材料は何? なかに何が入っているの?」と質問攻め,松村先生が「小麦粉とスープとタコ,トッピングはソース…」と英語で答えるが,「ええいややこしい,大阪プロレスまで時間もあるし,食べようか?」,となり注文しました。たこ焼きが焼きあがるまで,数分ほど待ってくれとのこと。その間,大たこの店員がとても愛想よく,外国人慣れした感じで,英単語を交えて身振り手振りでコミュニケーション。大阪人のホスピタリティの底力を感じました。

戎橋から法善寺へ!!

 アツアツのたこ焼きを,フーフーして食べながら,ゆっくりと戎橋へ。松村先生は大阪人と東京人の気質の違いなどを歩きながら説明されていました。さて,戎橋に着くと,グリコの電飾看板をバックにみんなで記念撮影。私たち以外にも,戎橋の上は外国人観光客がいっぱいでした。
 「そろそろ法善寺へ向かうから,はぐれんようついて来てや」と松村先生が再び歩き始めました。道頓堀川の南側,かに道楽などの派手な看板が立ち並ぶ道を法善寺方面へ戻りました。
 ちょうど中座くいだおれビルの前あたりで,松村先生は立ち止まられ,「this way please, this alley」と,狭い路地へ入って行かれました。そこは浮世小路という路地で,法善寺へ抜けるお洒落で静かなshortcut(近道)でした。法善寺横丁へ出ると,古びて落ち着いたお店が並び,また路地を通って法善寺へと到着しました。法善寺で少し休憩。兪穎伶が水かけ不動の横で,デンマーク姉妹に一生懸命に英語で説明していました。
 時計を見ると18時過ぎ,大阪プロレスの試合は19時から始まります。ボチボチ移動せな間に合わないと思っていると,松村先生が「では次に大阪プロレスへ行きます。大阪プロレスはあそこにあります。」と指差しました。私(大宅)は大阪プロレスに行ったことがなかったので不安でしたが,法善寺から看板が見える距離にありました。

大阪プロレスを満喫!!

18時半過ぎに大阪プロレスへ着き,みんなから入場料を集めてチケットを買い,しばらく開場を待ちました。チケットの裏には入場整理番号が打たれていて,その番号が読み上げられ順序良く入場。この入場整理番号で,後で抽選会が行われるとのことでした。
 19時になると,まずレフリーがリングにあがり,お客さんたちとのコミュニケーションタイムが始まりました。悪役へのブーイングの仕方,場外乱闘への注意など,プロレスの様々な楽しみ方を説明した後,レフリーがリングから客席へ呼びかけました。
レフリー:「今日初めて大阪プロレスを見に来た人はいる?」 何名かの手が挙がったのを見渡してから…
レフリー:「わかりやす!! 絶対初めての金髪美人がおるやん,where are you from?」と,流暢な英語でツアー参加者たちをいじり始めました。「Denmark」と彼女が答えると,「Welcome to Osaka pro-wrestling, thank you! わざわざデンマークから…みなさん拍手を!!」と会場を盛り上げました。
 レフリー:「こっちにも外国からのベッピンさんが…,今日はえらいグローバルな日やなあ!! Where are you from?」
 参加者:「Denmark!!」
 レフリー:「え,Are you friends?」  参加者:「No, sisters!」
 レフリー:「何や姉妹かいな,何で離れて座ってるの…,両横の人は通訳さん?お友達?」と会場の笑いを誘い,リングと会場との距離が一挙に縮まりました。

エンターテイメントに徹した三試合!!

 レフリーが観客をあっためた後,緊張あり笑いありの,ハラハラドキドキさせられ,時に荷物を持って,歓声をあげながら避難するような,不思議な激闘をたっぷり三試合も楽しみました。
 新今宮のフェスティバルゲートに大阪プロレスがあった頃からファンで,「レスラーの何人かは飲み友達や」と豪語する松村先生は,「よう出来たネタやろう!! 言葉がわからん外国人でも伝わるはずや!!」とのことでした。私(大宅の方,清水はリピーター)は初めて大阪プロレスを見たのですが,応援しまくり,笑いまくりでした。お約束のギャグがありぃの,リング外での乱闘がありぃの,男女混合三人による奇妙なコントのような試合がありぃの,本当に楽しいひと時でした。大阪プロレスグッズの当たる抽選会では,何と小林志帆が全選手のサイン入りの2012年カレンダーを獲得。これは新今宮TICに飾られるのか…!!
 全ての試合が終わると,さっきまでリングで戦っていた選手たちが二階へ移動し,グッズ販売,写真撮影,握手大会のファンサービス。歌舞伎風のメイクをした松山勘十郎選手が一番人気で,彼を囲んでハイポーズ。外国人参加者たちに聞くと,リング上での会話の内容は,全くわからなかったそうですが,どのようなストーリーが展開しているのかはわかり,充分楽しめたとのことでした。やはり,大阪プロレスは,言葉の壁を乗り越えて楽しめるエンターテイメントでした。

一次解散,二次解散!!

 大阪プロレスが終わり外へ出ると20時半過ぎ,そこで一次解散をしました。ところが,外国人参加者たちは,どこかで晩御飯を食べたいとのこと。松村先生の後輩が,通天閣の近くで10月末に,「あなぐま亭」という居酒屋を開店したそうで,ミナミから歩いて通天閣まで帰り,あなぐま亭へ行こうということになりました。
 楽しくおしゃべりしながら歩くと,ミナミから通天閣までは,簡単に歩けてしまう距離にあります。30分ほどであなぐま亭に到着,外国人3名を含めて11名が残り,打ち上げパーティが始まりました。
 美味しい肴と美味しいお酒,時間はあっという間に過ぎ,22時過ぎにあなぐま亭を出て,新今宮へ向かいました。JR新今宮駅東口の太子交差点にて,外国人参加者らと握手を交わして二次解散。外国人らは交差点をわたりホテルへ,私たちは家路へつきました。オーストラリア人男性は,どこかでベストを「最高!!」と教えてもらったようで,このツアーの折々に,「サイコー!!」を連発されていたのが印象に残りました。

松村先生からの一言

 今回のツアーの最大の成果は,私たちが楽しむツアーに外国の方々を誘っても,一緒に楽しんでいただける,ということがわかったことです。ツアー集客でも,ゲストハウススタッフとの連携が充実しているので,ツアー当日の直接勧誘がなくても,参加者を獲得できました。この事実は,着地型ツアーを新今宮発で行うと想起した場合,大きな意味を持ちます。
 さて,今回のツアーで私は,久しぶりに夕方から夜にかけての,道頓堀界隈を歩きました。驚いたのは,震災・円高という最悪の状況のなかの平日にも関わらず,外国人観光客が想定外に多いことでした。地図を片手に迷っている外国人も見かけました。
 大阪ミナミの道頓堀界隈なら,プログラムをしっかりと練りさえすれば,着地型の外国人向けまち歩きツアーが,採算事業ベースで成り立つのではないか,今回のまち歩きでそう実感しました。
 あと,大阪のホスピタリティの底力も感じました。大阪プロレスの最終試合が終わった後,マイクパフォーマンスのなかで,覆面レスラーの「えべっさん」が会場に向かって,「あの人(デンマーク人姉妹)ら,意味わかってはるんやろうか?」と尋ねました。私が通訳しましたが,答えは「No!」。「ようわかってはれへんみたい」との答えに,「ほんますいません!!」との返し。外国からの観客をほったらかしにするのではなく,少しでもわかってもらおうとするサービス精神が,ヒシヒシと伝わりました。もしも,えべっさんの質問が,「今日は楽しんでいただけましたか?」だったならば,彼女の答えは間違いなく「Yes!!」でした。