複雑な想いのなか,2011年のまち歩きが始動!!

私たちにできること,私たちがやるべきこと(レポーター:松村嘉久)

 松村ゼミは新今宮TICを拠点として,2009年・2010年と外国人向けのまち歩きツアーを実施してきました。2011年も当初より,6回から8回のまち歩きツアーを実施できるよう,新しい9代目のゼミ生たちを迎えて,準備を進めてきました。その最中に東日本大震災が発生しました。私はゼミ生たちと,まち歩きツアーについて,予定通り行うのか,中止するのか,話し合いました。私たちのまち歩きツアーのコンセプトは,「ありふれた日常」と「ささやかな非日常」を魅せるです。東日本大震災は,この「ありふれた日常」を破壊し,「ささやかな非日常」を遠ざけました。震災復興はまさに,東日本の被災地が「ありふれた日常」を取り戻すことにあります。
 私も1995年1月17日に発生した阪神・淡路大震災を経験しています。当時私は大阪市立大学で地理学を学ぶ大学院生で,発生して数日後から,震災被害の実態調査に参加しました。被災地を調べながら歩き,被害の実態にふれ,行き場のない怒りと無力感を覚えたことを鮮明に記憶しています。震災発生から2ヶ月余りが経った頃,神戸の長田区で在日外国人向けの「FMユーメン」(現・FMわぃわぃ)が開局するという話を聞きつけ,長田区へ話を聞きに向かいました。長田のまちはまだ悲惨な状況で,復興はほとんど始まっていませんでした。ところが,生き残った桜の花は見事に満開で,その咲きっぷりを見て,人の世の無常や不条理と自然の偉大さを感じて,涙が止まらなかった記憶があります。東日本大震災の被災者の方々も,避難所の一隅に咲く桜を見て,同じ想いを感じられているのではと推察いたします。
 改めて,私たちは,日本に住む皆が「ありふれた日常」を取り戻すことが,復興への第一歩だと考えます。だからこそ,当初から予定していたことは全て実行し,「ありふれた日常」を淡々と過ごしながら,私たちでできる震災復興支援を考え行動していきたいと思います。チームワークの鉄則は,チームの誰かが傷つき動けなくなった時は,元気な奴がチームを引っ張り,耐え忍び,傷ついた仲間を支援して回復を待つ,ところにあります。大事なことは,皆がひとつのチームであることを自覚することです。人間として,日本人として,それだけは忘れずに行動しましょう。ゼミ生たちにもそう指導します。

2011年初のまち歩きツアー Cherry Blossom Viewing Tour(レポーター:山崎育美・小路望)

まち歩きへ出発するまでの不安と準備

 2011年の第1回目の外国人向けまち歩きツアーとして,桜ノ宮・大阪城近辺での花見ツアーを4月10日(日)に行いました。3月12日から4月10日まで,新今宮TICは毎日運営していました。4月に入って手描きのポスターの作成を始め,いつも通り事前に8軒のゲストハウスに貼り出させていただきました。ところが,東日本大震災の影響で新今宮に来る外国人旅行者も激減。まち歩きツアーに参加してくれる外国人は,果しているのか…。
 花見当日の準備としては,私・山崎と小路望と松村先生が新今宮TICへ9時に集合し,チェックアウト前の外国人観光客の勧誘を試みようと,各ゲストハウスをまわりました。セレーネ,みかど,オアシス,東洋,来山と回るも,参加希望者はゼロ。このままではゼミ生たちだけの花見になる,それでもまあいいか…ゼロからの再出発としてスタッフだけでやるか…と松村先生と話していたところ,ホテル中央のマネージャーから,タイ人の仲良しグループが参加されるとの連絡が入りました。新今宮TICにいたスタッフたちは,「ヨッシャー!」という感じでした。

場所取り組が先発

 花見の場所取りをするため,勝元暁美・加藤宏実が松村先生からいただいた軍資金を手に,10時過ぎに造幣局方面へ向かってくれました。その後,場所取り組には,仲田美穂・和田昂之・清水翔平・内田裕規が合流して,桜ノ宮・造幣局方面の状況を流してくれました。やはりこの日は日曜日で桜も満開ということもあり,多くの人出で賑わうなか,場所取り組から,造幣局近くの絶好のスペースを確保したとの連絡が11時過ぎに入りました。
 その頃,新今宮TICにご年配のオーストラリア人女性が,「明日,歌舞伎か文楽を見たいが,どこでやっていますか」とやってこられました。ネットで調べている間,皆で花見ツアーへの参加を勧誘しました。アデレードにお住まいの学校の先生で,見るからに優しそうな方。Best place and best day for cherry blossom viewingという勧めに,参加を快諾していただきました。ツアー当日に現場で誘える着地型ツアーの強みを実感しました。

打ち合わせは入念に

 まち歩きツアーのスタッフは,新今宮TICに12時集合しました。私たち9代目ゼミ生にとっては初めてのまち歩きツアー,12時過ぎから松村先生を中心に,新今宮TIC内で入念な打ち合わせを行いました。今回の花見ツアーの下見に行ったのは,小林志帆・小路望・高橋菜央・加藤宏実の4名のみ。毎日運営と震災対応で忙しくて,全員揃っての下見はできませんでした。だから,旅程と現地での各自の行動をしっかりと打ち合わせておかないと,バラバラになりかねません。
 参加スタッフを全てホワイトボードに書き出し,先頭と最後尾を決め,個々人が何をするのか役割分担をしっかりと確認しました。まち歩きの外国人参加希望者は,13時にホテルセレーネのロビーに集合することになっていました。13時が近づいた頃,セレーネのマネージャーが「もう参加者がぼちぼちと来てはりますよ!」,と声をかけてくださいました。もしかすると,タイ人ファミリーがもうひと組,参加するかもしれないと聞いていましたが,「他にも参加者がいるの?」と準備していた名札を持って,セレーネロビーに向かいました。
(以上,山崎育美のレポート)

外国人参加者は何と20名!!

 ツアーに参加してくれた外国人は何と20名,震災の影響で外国人が激減している状態では奇跡の数です。ゲストハウスのスタッフの方々が,熱心に参加を呼びかけてくださったおかげです。ありがとうございました。参加者は,タイ人の仲良し女性グループ7名,同じくタイ人のファミリー7名,ニュージーランド人女性1名・男性1名,台湾人女性1名,フランス人男性1名,オーストラリア人女性1名,韓国人女性1名でした。
 一方,私たちスタッフは松村先生,OBの濱中勝司さんと丸市将平さん,4年生が6名,3年生が12名の合計21名,このうち6名は先乗り準備組みなので,総勢35名での大移動となりました。最初の挨拶は松村先生からの突然の指名で,キキが,ほぼその場で考えながら英語でやりました。さすが経験者です。台湾人の参加者には,趙日権・兪穎伶の留学生が付き,残りのメンバーはそれぞれ散らばり,積極的に参加者に話しかけるようにしました。

花見を楽しむ日本人を見て楽しむ外国人たち

 予定より少し早めの13時10分頃に,セレーネを出発してJR新今宮駅へ。そこから環状線の先頭車両に乗り,13時45分には桜ノ宮駅に着きました。桜ノ宮駅に降りると,たくさんの満開の桜が駅のホームから見え,参加者たちはAmazing!!と早速写真を撮り始めました。桜ノ宮駅から大川東岸,桜満開の遊歩道をゆっくりと歩きました。目的地は造幣局近く,大川西岸に先発組が確保してくれた花見会場です。
 歩き始めるとすぐに数名の参加者がトイレに行き,写真撮影に夢中になり遅れ気味の参加者もいて,先頭の松村先生・小林・高橋はペースを落としてくれましたが差は広がるばかり…。
 歩く途中に参加者たちが目にしたものは,色々な料理を用意して花見を楽しむ日本人たちの姿,桜満開のグランドで真剣に野球を楽しむ人たち,大阪市立大学ボート部の練習風景など,どれも興味津々で足をとめて見ていました。なかでもひときわ本格的なバーベキューを楽しむグループがいました。巨大なマグロの頭が…。参加者たちが近づくと,偶然にもそのグループはキキのアルバイト先の方々で,大歓迎していただきました。

だんじり囃子のチカラ!!

 造幣局横の桜宮橋に近づく頃,賑やかな鐘と太鼓の音が遠くから聞こえてきました。真っ先に反応されたのが先頭の松村先生,「だんじり囃子や!! どこや!!」。松村先生によると,「大阪人の遺伝子には,このお囃子が組み込まれとるから,勝手に身体が動くんや!!」とのこと。音色をたよりに探すと,桜宮橋の東詰に,太鼓・小太鼓・鐘二つの鳴り物を横に置き,花見を楽しむ集団がおられました。ツアー参加者一同でその集団を囲み,松村先生から「色んな国から外国人が花見に来てはんねんけど,本気のだんじり囃子,聞かしたってもらえませんか」といきなりのお願い。
 そこにおられた方々は「酒飲んでんのに…ほんまかなわんなあ…」と言いながらも,鳴り物と踊り手が配置につかれスイッチオン。うねるようなだんじり囃子に参加者たちは魅せられ,たっぷり10分以上は聞かせていただきました。楽器のケースには「てんご」の文字があり,松村先生が「天神橋筋五丁目の方ですか」と尋ねると,「ちゃうちゃう,大阪弁のてんごですわ,鶴見区から来てんねん」とのこと。てんごって何??。松村先生によると,小学生の頃によく学校の先生から「てんごすな!!」と怒られたそうです。標準語で言うならば,「いたずら」とか「やんちゃ」とか「悪ふざけ」という意味だそうです…知らなかった…。

もっと聴いていたい…ここに残っていいですか?

 さて,このだんじり囃子集団「てんご」の演奏に魅せられ,ニュージーランドからの女性参加者が,もっと聴きたい,太鼓もたたかして欲しい,とまち歩きツアーを離れての自由行動を願い出ました。松村先生は「彼女はラッキーや,ええ出会いとちゃうか」と快諾,彼女はスタッフたちと握手を交わして,その場にとどまり,私たちはその場を離れ花見会場へ向かいました。
 桜宮橋の上を歩いていると,小林が「もう一人のニュージーランド人もおらへん!?」と騒ぎ出しました。橋の下ではまた「てんご」のだんじり囃子が鳴り始めていました。よく見ると,そのニュージーランド人男性がまだそこに…てんごの魅力,恐るべしです。山崎育美が急いで迎えに行きましたが,男性はタッチの差では反対方向へ,私たちを探して移動…。結果,はぐれてしまいました。松村ゼミのまち歩きツアーで初めての行方不明者の発生でしたが,松村先生は全く気にしていない様子。山崎と高橋を橋の上に残し,「5分間ほどここで待って彼が帰ってきたら合流して。帰ってけえへんかったら,あきらめよう。勝手で楽しんではるはずや。」との指示。

ゆっくりと座って花見!!

 花見会場には15時頃に着きました。桜もたくさん咲いており見晴らしもよく,絶好の場所でした。そこでビールやジュースを片手に40分程,満開の桜の下で会話を楽しみ休憩しました。タイからの元気な女性チームは,お弁当を持参。もうひと組のタイからのファミリーは,昨夜からの長旅での訪日初日で,とてもお疲れのご様子でした。先に帰りますかと尋ねたところ,そうしますとのこと。そこで,丸市さんと川原美穂が,最寄りのJR桜ノ宮駅まで送って行きました。私たちは大阪城へ向かうことになりました。その前に桜の下で記念撮影。数名を後片付けに残し,他のメンバーは大阪城へ。
 大阪城への道のりは,列が大きく離れることもなく順調に進み,16時半過ぎに大阪城に到着。松村先生から新今宮へ帰る交通手段の説明があり,皆で記念撮影をして,その場で解散しました。ところが,個々別々に参加者とスタッフとの記念撮影が始まり,解散したあとも,皆さんなかなかその場を離れられませんでした。
(以上,小路望のレポート)

まち歩きを終えて松村先生からひと言

 まち歩き当日の夜,原稿がたまっていたので私はセレーネに宿泊しました。そのエレベーターで,途中ではぐれたニュージーランド人男性と再会しました。彼も5分ほど私たちを探したけれども,すぐにあきらめて,ひとりで花見を楽しんで,無事に帰ってきたそうです。翌朝,タイ人のファミリーやオージーのおばさんらと,ホテルのロビーで会いました。皆さんとても楽しまれたご様子で,感謝の言葉をいただきました。
 9代目のゼミ生にとっては初めての街歩きツアーでしたが,2年生の時にスタッフとして参加している者が多く,初めての割には上出来でした。ゼミでもう確認しましたが,次回への反省点は,前後をよく見ながら,全体を考えながら歩くこと,移動する前に参加者を必ず確認することです。セレーネのマネージャーによると,私たちがまち歩きに出発した後,遅れて4,5名の外国人がセレーネのロビーに来られたそうです。次回,人数に余裕があれば,新今宮TICも運営しながらまち歩きツアーを行いましょう。そうすれば,遅刻してきた人にも対応できます。

フォトアルバム

立派なマグロの頭でした!! 驚き!!

花見を終えて