【連載講座】日本の2大テーマパークのマーケティング戦略

その4 グローバルマーケティングについて

 今回(その4)のテーマは、グローバルマーケティングです。今、世界はグローバルの時代と言われています。私たちの身の回りや生活を見ても、朝にはアメリカ産の小麦でできたパンとオーストラリア産のチーズを食べて、お父さんはフランスのブランドのプジョーの自動車に乗って出勤しているかもしれません。また、皆さんが着ている洋服はスペインのブランドのザラ(ZARA)であったり、持っているスマートフォンはアップル社製(アメリカのブランド)のiPhoneだったりしませんか?
 このように私たちの生活の中には、数多くの外国産の製品や海外のブランド製品が溢れています。このことを海外の企業の立場から見れば、日本は先進国の中でもGDP(国内総生産)世界第3位のポジションにあって、諸外国に比較すれば所得格差が少なく、人口約1億2千万人の多くが比較的裕福な国で、非常に有望な市場であると考えられます。ちなみに、GDPの世界1位はアメリカ合衆国(人口約3億1千万人)、第2位は中国(人口約14億人)となります。そして、その有望な市場であり、購買力を持った魅力的な消費者が数多くいる日本に対して、数多くの海外企業が自社製品を売り込みにきているのです。
 海外の企業にとって日本は非常に魅力的な市場であることから、多くの日本人に自社製品を買ってもらいたいと考えているのですが、ここで考えなければならない重要なことがあります。それは、国が異なれば文化や生活習慣が異なるということです。当たり前のことですが、これが非常に重要なことなのです。

例えば、日本では自動車は右ハンドルで左側通行が普通ですが、多くの国々は左ハンドルで右側通行となっています。そのため海外の自動車メーカーは、日本へ自動車を輸出する際にハンドルを左から右へ付け変えるかどうかの判断に迫られました。この時、ヨーロッパの自動車メーカーは日本仕様としてハンドルを左から右に付け変えることを決めました。しかし、アメリカの自動車メーカーは自分たちのルール(左ハンドル)を変えることなく日本に自動車を輸出しました。その結果、ヨーロッパの自動車は売れたのですが、アメリカの自動車はあまり売れませんでした。

 このような例はその他にもあります。1989年に日本へ進出したトイザらスは、当初アメリカ流ビジネスのルールを日本の企業に押し付けてきました。しかし、おもちゃ業界から猛反発を食らってしまったのです。このため日本に進出し、足場を固めたかったトイザらスは日本流ビジネスのルールに従うことにしました。トイザらスのように“郷に入れば、郷に従え”の方式で日本のビジネスルールを学び、従おうとする企業がある一方で、フランス最大のスーパーマーケットのカルフールのように日本の消費者の好みをあまり考えずに日本に出店して失敗した例もあります。カルフールはフランス特産のワインやパンの豊富な品揃えからフランスの香りのするスーパーとして2000年に華々しく日本に進出しましたが、その後思うように業績が伸びず、イオングループへの店舗売却等を経て2010年に日本市場から完全撤退しました。また、トイザらスやカルフールの成功・失敗の事例がある一方で、アップル社のiPhoneやハーレー・ダビッドソン社の大型バイク、コカ・コーラ社のコカ・コーラのように、世界中で同じコンセプトの製品・同じ品質の製品を販売して成功している企業もあります。
 こうした各企業の成功・失敗の事例から2つのことがわかります。1つは、企業が自国市場で成功したからといって、必ず海外市場でも成功するとは限らないということです。それは、国が異なれば文化、生活習慣、様々なルール、生活している消費者の嗜好等が異なるからです。そして、もう1つは様々な条件が異なる海外市場に進出する際に、進出先の国の異なる文化やルール、消費者の嗜好に自社製品のコンセプトや機能を合わせるかどうか、そして合わせるとしたらどの程度合わせるか、ということです。先に上げたiPhoneやハーレー・ダビッドソン、コカ・コーラは、国や文化、生活習慣や嗜好が異なっていても世界中で同じコンセプトの製品・同じ品質の製品を販売していましたが、こうしたことを“標準化戦略”といいます。また、ヨーロッパの自動車メーカーやトイザらスのように進出した国によって製品コンセプトや仕様を変更することを“適応化戦略”といいます。
 最後に、このコラムの主題であるTDRとUSJに目を向ければ、両方ともアメリカから進出してきたテーマパークですが、果たして標準化戦略と適応化戦略のどちらを取っているのでしょうか?次回からは、いよいよテーマパークの内容について考えていきたいと思います。お楽しみに…。