流通学部 流通学科 片渕卓志

世界最貧国であったバングラデシュに焦点を当てた数回にわたる講義も中盤に入り、先週は「MISSION バングラデシュ ストリートチルドレンの救済活動」(出演:堀尾正明、サヘル・ローズ、土井香苗氏出演、2010.4.4 NHK放送)を視聴し、「ストリートチルドレンをなくす」という社会問題を解決する活動を行っているバングラデシュのNPOエクマットラの事例を考察しました。
そして、今回の授業では現地と大学の教室をつないで共同代表である渡辺大樹さんに特別講義をしていただきました。

ヨットに熱中する大学生であった21年前、渡辺さんはヨット部の一員としてタイのプーケットへ出かけます。選手の中には自国からクルーザーで来る人もあるほどの大金持ちがいるなかで、渡辺さんも豪華な料理やバスでの移動という待遇に感激していましたが、ある時バスの車窓から地平線までつづくスラム街を目にします。そして、バスの中から明らかにスラム出身の小さな子どもと目があいました。それは衝撃的な出来事でした。
そこで、渡辺さんはなぜ自分はこのような恵まれた環境にあり、この子はそれとは真逆の環境にあるのか、これは自分が努力をしたから得られた境遇であるのか、反対にこの子は努力をすれば、私の生きてきたような豊かな生活を得ることができるのか、という問いにぶつかります。そこで悲しみ、怒り、悔しさなどを複雑な感情と渡辺さんは葛藤しました。それは日本に戻ってきても続き、頭から離れなかったといいます。

この、「生まれながらの不公平」という世界の貧困の問題に興味を持ち、大学卒業後、アジア最貧国のバングラデシュに出かけることにしました。それが、現在まで21年の間、バングラデシュのストリートチルドレンの救済活動を続けている渡辺大樹さんの最初の出発点でした。
 具体的に彼が何をバングラデシュで行ったのかについては、昨年度の講演記事に詳しく載せてありますが、簡単にまとめますと、以下のようになります。

  1. 路上で遊んでいる子供たちに「何かをやっている」と思わせて集め、歌や踊り、遊びを提供する、いわゆる「青空教室」の開催
  2. 学習意欲が強くストリートチルドレンから脱して生活できる見込みがある、「青空教室」に通う子どもについて、親に、学校に通わせる援助をしたいと説得し、まずは社会性を身に着け、かつ子どもたちを犯罪者たちから守るためのエクマットラの「シェルター」での生活の提供する
  3. 小学校の年代のシェルターの子どもたちに、地域の学校へ通わせられるまでの識字教育、職業訓練教育の提供(「アカデミー」の建設)
  4. すでに10歳を超えたストリートチルドレンについては、学校の授業についていくことはむずかしく、また適性なども考慮して、路上での商売(水やゆで卵、茶店など)の方法を教え、成功するとテナントを借りての飲食店経営を目指すという「ストリートMBA」という活動、そして路上生活から脱してアパートを借りて生活する
  5. バングラデシュの人たちがストリートチルドレンの問題を自分の問題と考え、解決しようと考える人を増やすための映像制作活動
おおよそ以上のような活動からなりたっています。
これまでの授業では、ノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌス博士のグラミン銀行やBRACについてとりあげてきました。授業では、ユヌス博士が、どのような壁にぶつかり、それをのりこえていったのかを、『自伝』を取り上げながら解説してきました。実は渡辺さんたちのエクマットラが取り組んでいることも、「貧困」をなくすという点では同じです。

以下、当日の授業でのスライドを掲載させていただきます。ご覧ください。