2014.4.24

「奈良バスなび」の制作会議に学生が参加

画期的なバス停ナビゲーション
奈良バスなび

 2013年12月20日に奈良交通株式会社は「奈良バスなび」アプリの配信を開始しました。バス停の位置がスマートフォンの地図にバルーンで示され、ワンタッチで時刻表を検索することができる画期的なナビゲーションサービスです。奈良交通創業70周年の記念事業として企画され、配信開始に到りました。iPhoneとAndroidに対応し、出先でも検索が可能です。バス停の時刻と言えば、これまではパソコンでバス会社のホームページを検索し、何度かのクリックを経て、ようやく閲覧できていたのが従来の有り方でしたが、その手間を一気に省くサービスです。配信の第1ステージは奈良市内フリー乗車券の圏内から情報を配信し始めました。検索はバス停情報だけでなく、路線の近くにある観光情報も含まれます。
 配信に先立つ12月12日に奈良交通本社で最終的な会議が行われ、本学国際観光学部の森田菜聖さんが奈良市住民の立場で参加して意見を述べました。当日行われた平城宮跡の取材にも参加し、すっかりスタッフの一員となりました。以下には森田さんの報告を掲載します。(来村)
※この学生教育研究活動は阪南大学学会より補助を受けています。

奈良バスなびの会議に参加しました
国際観光学部4回生 森田菜聖

 私が奈良市内の住民であったことをご存知であった来村多加史先生から「森田さん、こんどの会議に出てみませんか」と勧められたのは12月初めのことでした。その夏から奈良交通が総務省地域情報化アドバイザーの高木治夫氏の協力を得て開発を進めてきた「奈良バスなび」というナビゲーションアプリをいよいよ12月20日に配信開始するに先立ち、その最終的な調整会議がJR奈良駅の近くにある奈良交通の本社で行われるという話でした。奈良交通の系列店舗で仕事をさせていただいており、また本社ビルは小さい頃から見続けてきた馴染みのある建物ですので、即座に「参加させていただきます」とお応えました。
 12月12日10時より本社ビルの一室で会議は始まりました。といっても、挨拶と簡単な説明のあと、すぐさま会議室を出るスケジュールでした。会議に先立ち、ナビゲーションシステムに入力する情報の取材方法を来村先生が指導されるということです。昼からの会議で集めた写真を使いながら、情報の入力方法を確認する段取りです。取材場所は平城京左京三条二坊宮跡庭園と平城宮跡でした。8人が2台の車に分乗し、庭園に向かいます。
 宮跡庭園は大宮通り(国道369号線)の南に接しています。この道は何百回と通ったことのある道ですが、ここに奈良時代の庭園遺跡があり、敷地内がこのように整備されているとは、思いもよりませんでした。ここで先生が入力する写真の撮り方を説明されました。「まずは説明板を写しましょう」との指示。ナビゲーションには解説欄がありますが、長々と説明の文章を書くよりは、説明板を画像として見せれば済むとのことでした。ただし、その際には「掲載する画面の縦横比が1対2になることを想定して下さい」との細かい指示もありました。見せるページのイメージを考えて取材することが大事だということです。また、「撮影した時の立ち位置も覚えておくように」との指示。ナビゲーションでは地図の上にバルーンと立てて見学対象物の位置を表示します。そのモノが小さければ、モノがある位置にバルーンを立て、風景などの場合は、撮影した場所にバルーンを立てます。示された場所に行けば、写真と同じ風景を楽しめるということです。バルーンを立てる位置は重要な意味をもつのです。けっして適当に立ててはいけません。

 ところで、宮跡庭園は整備中でした。庭園の中央を流れる曲水の溝を修復しているということです。修復は平成28年までかかるということですので、しばらくは工事中のような風景しか眺められません。ここで先生からまた一言。「調査中であるとか、修復中であるとかの情報は、しっかりと説明の中に盛り込んで下さい」とのことです。リアルタイムの情報を伝えられるのが、このナビゲーションの利点です。逆に、その利点をフルに活用し、訪れる人々を失望させないようにすることが肝心なのです。来てみて「工事中で立ち入り禁止」では、訪れる人を失望させます。「印刷物ではそれができません。ICTならではの利点とお考えください」と先生はまとめられました。

 宮跡庭園から歩道橋を渡り、国道の北側に移りました。そこにはイトーヨーカドーの大きな店舗があります。かつてはそごう百貨店でしたが、10年ばかりで閉店し、2003年から現店舗となっています。百貨店の建設に伴い発見されたのが、全国的にも有名な長屋王跡です。729年に藤原氏の陰謀で自害した長屋王の邸宅がここにあったのです。さきほど訪れた宮跡庭園が長屋王邸宅の一角であるという説もあります。広大な敷地を誇る邸宅の跡は百貨店の建設で破壊されましたが、敷地に2ヶ所の説明板があり、かろうじて遺跡であったことがわかります。逆に説明板がなければ、邸宅があったことすら人々の記憶から消えてゆくでしょう。かといって、説明板を目当てにここを訪れる人はほとんどいないでしょう。やはり遺跡そのものを保存することが最良の道でしょうが、「せめて説明板や石碑を立てて後世に記憶を残すことが大事です」と、先生は説明されました。私もイトーヨーカドーはよく利用しますが、説明板の存在を初めて知り、ここが歴史的に重要な場所であったことを知りました。残すことの大切さを実感しました。
 国道を渡る際、先生は歩道橋の写真を丹念に撮っておられました。聞けば、ナビゲーションには大切な情報であるということです。平城宮跡では最初にトイレの撮影をしました。これも大事だということです。いずれもナビゲーションの中に設定された「バリアフリー情報」にアップする写真だそうです。歩道橋は車椅子のためのスロープの出入り口や傾斜、トイレは特に多機能トイレの便座や手すりを撮影して、画像で知らせます。車椅子の方や目の不自由な方が自分で道を選択して目的地まで行けるようにサポートするのが、このナビゲーションの大きな役目です。トイレは室内の広さや手すりの形状と位置なども文字情報として伝えます。訪れる前から必要な情報を入手できるようにシステムは構築されているのですが、あとは取材してアップする人員が必要です。学生が活躍できるところだと感じました。

 昼からは本社ビルの会議室に戻り、システムへの入力方法を来村先生が説明されました。入力は専用のWebサイトでおこないます。入力画面が表示されると、地図の枠が出てきます。地図を最大限に拡大し、撮影場所にバルーンを立てます。すでに現地で説明済みですので、バルーンの立て方は再確認となります。「例えば、天皇陵の敷地内へは立ち入ることができませんので、古墳の中央にバルーンを立てても意味がありません。大型古墳の場合はいろんな場所から姿を眺めることができますので、その場所に立てるのがいいのです」と説明を加えられました。納得できる説明です。文字入力の欄には英語で打ち込まなければならない所が多くあります。サービスは日本語と英語で提供しています。奈良を訪れる外国人がスマートフォンのアプリを頼りに個人で観光ができるようにと、二か国語併記としています。英語の能力が試されますが、近ごろさかんに提唱されているインバウンドには欠かせぬ配慮です。

 入力の研修会が終了したのち、近畿地方整備局・奈良県・奈良県ビジターズビューロー・春日大社などから十数名の方がお見えになり、総勢20名による会議が開かれました。高木治夫さんが説明役となり、奈良オープンクラウドについての意見交換が行われました。オープンクラウドとは、情報の蓄積であるクラウドを誰もが利用できるシステムのことで、総務省が全国的に進めようとしている未来の課題です。奈良バスなびが奈良のオープンクラウドを立ち上げる実験的な場になればと提案し、各方面の意見を聴く会議であったのです。国家的プロジェクトの最先端会議に参加する機会を与えていただいたことに、あらためて感謝しました。さすがに会議では現実的な問題点が次々にあがりました。「誰もが入力できるのか」「入力する者に制限を加えない場合のリスクはどう解消するのか」「情報の正確さはどう担保するのか」「写真などに人間が写り込んでしまった場合のプライバシー問題をどう解決するのか」「そもそも恒久的・日常的に情報を提供する人材を確保できるのか」等々、厳しい意見が出され、そのつど高木さんと来村先生が回答してゆきます。「入力はパスワード保持者のみです」「情報の管理者は必要です」「情報は個人の積極的な参加であげるのが理想です」「そのためには人の輪を作らねばなりません」「それがオープンクラウドの真の意義です」などの回答に、取り組みの方針がうかがえました。数々のハードルをクリアしなければならないことは、聞いている私にもわかりますが、進めようとしている方向は間違っていないことも確信しました。奈良バスなびを土台として奈良オープンクラウドが実現することを祈るとともに、学生としてお手伝いできることを考えてゆきます。奈良バスなびのQRコードを掲載します。阪南大学が情報の大半を挙げていますので、ぜひ皆さんもナビゲーションをお試し下さい。