2016.12.9

ニュージーランド便り 第13回 民主主義先進国ニュージーランドの地方自治と選挙

ニュージーランド便り 第13回 民主主義先進国ニュージーランドの地方自治と選挙

 師走を迎え、今年も年の瀬が近づいてきました。今週ニュージーランドでは、国民の支持が高いジョン・キー首相の突然の辞任発表というニュースに衝撃が走りました。詳しい事情はわかりませんが、本人は家庭の事情を理由の第一にあげていて、この国らしい感じがします。ニュージーランドは政治的にとても安定した国で、民主主義の優等生といってよいでしょう。それは、世界の政治的安定度に関する調査である世界銀行のWorldwide Governance IndicatorsのPolitical Stabilityの項目で第3位(2015年)、イギリスのエコノミスト・インテリジェンス・ユニットのDemocracy Indexで世界第4位(2015年)という数字にも表れています。
 今年を振り返ると、日本もニュージーランドも地震で揺れた年でしたが、政治の分野でも世界が大きく揺れた1年でした。EU離脱の賛否を問うイギリスの国民投票やアメリカ大統領選挙の結果は世界に大きな衝撃を与え、民主主義についてあらためて考えるきっかけになりました。日本では、5月に大阪都構想をめぐる住民投票がおこなわれ、夏には参議院選挙と東京都知事選挙がありました。東京都知事選では初めて女性都知事が誕生し、その強烈な発信力から大きな注目を集めています。最近では不祥事も含め、何かと地方自治のあり方が注目される機会が多くなっています。ニュージーランドも今年は3年に一度の統一地方選挙の年で、10月に投票がおこなわれました。そこで、今回は日本ではあまり知られていないニュージーランドの地方自治と選挙についてとりあげます。
 ニュージーランドの地方自治制度は、日本と同じ2層制になっています。日本の都道府県にあたる広域自治体(regional council)は全国で11あり、地域防災や資源管理、公共交通機関などの業務を担当しています。また日本の市町村に相当する地域自治体(territorial authority)は、基礎自治体として人口5万人以上の12のcity councilとそれよりも小さい54のdistrict councilおよびAuckland Councilがあり、上下水道やゴミ収集、都市計画、公園や図書館などを担当します。日本では地方自治体が担当する、警察、消防、教育、保健福祉は国の管轄になります。日本とニュージーランドの地方自治を比較すると、①人口比で議員の数が少ない、②歳入のほとんどを自主財源で賄っており、国からの交付金はごくわずかである、③市長が議長を兼ね、行政の執行は議会が任命する「首席行政官」(Chief Executive Officer)に委ねられる、の3点に大きな違いがあります。
 財政の面では、事業収入を除くと、地方自治体の歳入のほとんどは資産税が占めており、国からの補助金はごくわずかで、日本のような住民税の仕組みはありません。したがって、公共部門全体に占める地方自治体の歳出の割合は1割以下で、国よりも歳出規模の大きい日本の地方自治体と対照的です。また歳入規模が小さいので、当然のことながら「小さくて効率的な行政」を目指すことになります。議員の数も、人口約35万人のクライストチャーチの議員定数は議長(市長)を含め17名と同じ人口規模の大阪府高槻市や吹田市の約半分です。
  • 地方選挙のポスター

  • クライストチャーチの市庁舎

 日本では市町村長や知事が行政機関の長として直接選挙で選ばれます。それに対してニュージーランドでは、地方自治体の最高意思決定機関は議会ですが、直接選挙で選ばれた首長が議会の議長を兼ね、それとは別に執行機関である行政府のトップとして「首席行政官」(Chief Executive Officer)を議会が任命して行政の執行を委ねます。つまり、councilは地方自治体の意思決定機関として、①政策の決定、②予算の策定、③行政執行のモニタリングを行い、行政機関としての役所のマネジメントは「首席行政官」が行うという形で行政執行機関と議決機関の明確な役割分担が行われています。「首席行政官」は公募によって選ばれ、行政のプロとして人事権を持ち首長の数倍の報酬で雇われ結果を出すことが求められます。これは、公共部門に民間の手法を取り入れて行政の効率化を図るニュー・パブリック・ガバメントの考え方からきているようですが、議員の口利きを防ぐ仕組みにもなっています。
 このような特徴を持つニュージーランドの地方自治ですが、自治体の予算規模や権限が小さいこともあってか、有権者の関心はそれほど高くありません。今回の投票率は41.8%と前回を若干上回ったものの、低い数字に留まっています。現在の郵便による投票方法をあらためることを含め、8割近い国政選挙の投票率を大きく下回る地方選挙の投票率をどう高めるかが課題といえます。