2014.7.31

【阪南経済Now7月号】国際収支から読み解く日本経済の真相

【阪南経済Now7月号】国際収支から読み解く日本経済の真相

 皆さんようこそ!経済学部「国際経済学」担当の梶山です。当ウェブサイトをご覧いただきありがとうございます。さて、本日は最近の日本経済の特色を国際収支の観点から見たお話です。
 ある国が一定期間に外国との間で行うあらゆる経済取引を体系的に分類し、その結果をデータとして記録したものが「国際収支表」です。一国の対外経済活動の全体像を知る上でとても便利な統計です。実は、この国際収支に関する基本統計の表記方法が今年から大きく改訂されました。少し技術的な話になりますが、従来の「経常収支」、「資本収支」、「外貨準備増減」という3つの大項目の内、「資本収支」と「外貨準備増減」の部分が統合・再編され、「金融収支」と「資本移転等収支」に組み替えられました。「経常収支」については大きな変更はありませんが、中項目の「所得収支」が「第1次所得収支」、「経常移転収支」が「第2次所得収支」に名称変更されました。
 最近の日本の国際収支の動向を注意深く観察すると、いくつかの兆候が見えてきます。まず、「経常収支」の内、モノ(商品)とサービスの国際取引の結果を示す「貿易・サービス収支」が2011年以降3年連続赤字で、しかも赤字額が年々拡大し、2013年には12兆円超を記録しています。さらにその内訳を詳しく見ると、商品貿易の結果である「貿易収支」の赤字が2011年から2013年の2年間で年平均4兆円〜5兆円拡大していているのに対し、「サービス収支」の赤字は、2012年から2013年にかけて約6千億円減少しています。この「サービス収支」は、(1)「輸送」(2)「旅行」(3)「その他サービス」の3つの部分で構成されます。2013年には「委託加工サービス」などの(3)「その他サービス」の赤字が拡大する一方で、(1)「輸送」と(2)「旅行」の赤字が縮小しています。
 あらためて「経常収支」の中身を点検すると、昨年来の円安にもかかわらす、「貿易収支」の赤字が大幅に拡大しています。これは生産の海外移転などで輸出数量が伸び悩む一方、円安で輸入原材料価格が膨らみ輸入額が増加したためです。特に昨年、一昨年と輸入額が二桁の大きな伸びを示しているのが石油・LNG等の「鉱物性燃料」です。全輸入額に占める「鉱物性燃料」のシェアは、2012年が34.1%、2013年は33.8%で比率はほぼ横ばいですが、輸入全体が伸びたため金額では24兆円から27兆円に約3兆円増加しています。とりわけ火力発電用のLNG(液化天然ガス)は2010年から2013年までの3年間に輸入金額が約2倍に増加しており、その輸入額は「原油及び粗油」の約半分の7兆円に達しています。2013年の輸入総額は81兆円ですが、「鉱物性燃料」に次いで多いのが「電気機器」の約10兆円です。その内の「半導体等電子部品」と「通信機」をあわせると輸入額は約5兆円で「電気機器」のほぼ半分を占めています。特にスマートフォンのアジアからの輸入が急増している「通信機」では2兆2千億円の貿易赤字を出しています。
 貿易収支の動向を地域別に見ると、2010年には約10兆円の黒字であった対アジア貿易で、2013年には黒字額が2兆円弱にまで減少しています。わずか3年間で8兆円以上も減少した背景として、現地生産の増加により、アジアからの部品・完成品の輸入が大幅に増加し、いわゆる「産業空洞化」と日本製品の輸出競争力低下が同時進行していることが推測できます。
 他方「サービス収支」に目をやると、近年赤字幅に縮小傾向が見られます。その主な要因は、「知的財産等使用料」収支の黒字拡大と「旅行」収支の赤字縮小です。「旅行」収支に関しては、円安の影響で昨年は出国者数が減少したのに対し、昨年・一昨年と2年連続で外国人旅行者が大幅に増加したことが大きく働いています。その結果、2000年には475万人にすぎなかった「訪日外国人旅行者数」が昨年には1036万人と2倍以上に増加しています。この背景としては、中国・ASEANへの観光ビザ発給要件の緩和、LCCの就航拡大と増便、国際空港の整備、円安などの要因が追い風になったと考えられます。
 以上のようなことから見えてくる日本経済の姿は、「貿易黒字国日本」という、もはや過去の古いイメージとは大きく様相を変えつつあります。
 最後にこれまでの話をまとめ、そこから見えてくる新しい日本経済像について述べます。
 1.今や日本は工業製品の輸出によって稼ぐ国から、「知的財産権等使用料」や対外投資からの「投資収益」で黒字を稼ぐ国へと変貌しつつあります。
 2.日本の貿易赤字拡大の大きな原因は、石油とLNGの輸入額が増加したしたためですが、その背後に不安定な中東情勢と国内の複雑なエネルギー事情があるため、当分の間改善の見込みは薄いと考えるべきです。
 3.アベノミクスによる円安は、トヨタをはじめとする輸出企業の利益増には貢献しているものの、全体としての輸出数量は伸び悩んでおり、当初期待されたほどの円安効果は現れていません。
 4.貿易赤字拡大の背景には生産の海外移転やアジア企業の競争力向上があり、「貿易収支」の赤字は構造的なものになりつつあります。
 5.「サービス収支」のうち「旅行」収支は、2020年東京オリンピックという追い風もあり、今後も「訪日外国人旅行者」の大幅増により、中長期的に一層の改善が期待できます。
 さて、ここまでおつき合いいただきありがとうございます。今回は「国際収支統計」の大幅な改訂が行われたタイミングでもあり、国際収支に関するデータをもとに、そこから見えてくる今の日本の姿を描く作業を進めてきました。最初に述べたように「国際収支表」は国際経済の全体像を理解するための格好の材料です。一国全体のマクロのデータから始めて、その奥にあるセミマクロ、そしてミクロの世界へと入っていくことにより、日本経済がより立体的に浮かび上がってきたのではないでしょうか?マクロの数字も元をたどれば個々の経済主体である個人や企業の経済活動の積み重ねです。経済学の世界では、「ミクロとマクロ」、「短期と長期」、「名目と実質」など対称的な概念がしばしば登場します。「鳥の目と虫の目」をバランス良く使いこなすことが一見複雑に見える経済現象を解き明かす鍵となるでしょう。Think globally, act locally!