2017.3.31

ニュージーランド便り 最終回 ~サヨナラ ニュージーランド~

ニュージーランド便り 最終回 〜サヨナラ ニュージーランド〜

 2016年度も年度末になり、私のニュージーランドでの生活もいよいよ終わりの時を迎えました。あっという間の1年でしたが、その間、多くのすばらしい人々との出会いと経験に恵まれ、とても有意義な時間を過ごすことができました。このような貴重な機会を与えていただいたすべての関係者の方々に心から感謝したいと思います。特に、研究上の受入機関になってくれたリンカーン大学AERUのPaul Dalziel教授、所長のCaroline Saunders教授をはじめとする皆さんには、快適な研究環境を提供していただき、研究面だけでなく、住居の斡旋をはじめ生活上でも大変お世話になりました。スタッフ全員がとてもフレンドリーで明るく、彼らと一緒に楽しい時間と空間を共有できたことは最高の幸運でした。
  • AERUの建物

  • AERUの仲間達と

 あらためてこの1年間を研究と生活の両面でふり返ると、研究面では、テーマである「ニュージーランドの対外経済政策」の研究を進める中で、一国の経済と経済政策を分析するためには、その国の経済社会の発展過程への理解と、事実とデータに基づく正確な現状把握が不可欠であることを再認識しました。そして、この国のもつユニークさが研究を一層興味深いものにしてくれました。私にとっては、ニュージーランドのユニークさの発見が研究上の最初の収穫でした。その詳細については、さらに分析をすすめ、論文等で明らかにする予定ですが、現時点では、次の3点がニュージーランドの経済特性を構成する重要な要素であると考えています。
 第一は、経済的に「小国」であるという点です。やや専門的になりますが、国際経済学では「小国」とは、「経済規模が相対的に小さく、そのため一国の生産や消費などの経済活動が商品の国際価格に影響を及ぼさない国」を意味します。一般的には、人口500万人に満たないニュージーランドは「小国」ですが、例外として、乳製品に関しては、世界一の輸出量をほこる「大国」という立場になります。乳製品輸出大国であるということが、ニュージーランドの貿易政策の基本スタンスを決定する上で、最も重要な要素になっています。
 第二は、「歴史の浅い国」であるという点です。この国の成り立ちをみると、約1000年前に、ポリネシアからカヌーで渡ってきた先住民が住んでいた土地に、19世紀以降イギリスからの開拓移民が住みつき、多少のいざこざはあったものの、1840年のワイタンギ条約により平和裏にイギリスの植民地になっています。この国が、政治的にも社会的にも安定している大きな理由の一つは、国づくりの過程で不幸な争いの歴史がなかったためだと考えられます。先住民(マオリ)と移民の共存の歴史がこの国を理解する重要なカギになります。「歴史の浅い国」の利点は、伝統による束縛が少なく、自由度が大きいことです。自らをKiwiと呼ぶニュージーランド人が他者や異文化に寛大な理由が見えてきました。身近な例をあげると、服装が非常に自由で、わずらわしいドレスコードはほとんどなく、スーツを着て仕事をしているのは、銀行員か不動産の営業職くらいです。
 第三は、「地理的に孤立した国」であるという点です。ニュージーランドは、最も近いオーストラリア大陸から2000キロも離れていて、周辺には太平洋の島嶼国しかなく、地理的な意味では世界で最も孤立した国です。このことは逆に、他国からの干渉を受けにくいという利点があります。そして、南太平洋という立地が、英国文化の影響を色濃く受けながらも、徐々にアジア太平洋諸国の一員としての自覚を高め、公平で開かれた社会を築く土台になっています。
 この3つの特徴は、一般的にはマイナスの要素と考えられます。しかし、この国にとってはむしろそれが大きくプラスに作用しています。私たちはこの国に多くの先導的な事例を見ることが出来ます。世界から注目される独自の非核政策や大胆な行政改革のようなユニークな試みや、世界初の女性参政権・最低賃金制・8時間労働制などの大改革ができるのは、「歴史が浅く、他の国から離れていて影響を受けにくい小規模国家」だからなのです。しがらみの少ない社会で、子供はのびのびと育ち、大人は自由に「自分らしい生き方」を選ぶことができます。そして、国土に比べて人口が少ないので自然が豊かで、環境と調和した生活ができます。
  • サムナービーチ

  • 緑あふれる自然環境

 私がニュージーランドで生活して感じたこの国の印象を一言で表すと、「イギリスから悪いところを除いて若くした国」ということになります。帰国が迫ってきた3月20日、国連が「世界幸福度ランキング2017」を発表しました。それによると、ニュージーランドは、「人生選択の自由度」、「寛容さ」、「腐敗度」などの項目で評価が高く、全体で第8位という結果でした。これは生活実感として大いに納得できる数字です。自由度の高さは、世界銀行発表の「起業のしやすさランキング」第1位という数字が示しています。また、「寛容さ」という意味では、女性の活躍がめざましく、実際に私が所属した研究所の所長も、娘が通う学校の校長先生も、クライストチャーチの市長もすべて女性でした。また日本ではまず考えられないことですが、大型バスの運転手も10人に1人以上の割合で女性です。そして、政治家や官僚の汚職や腐敗についてはほとんど耳にすることがありません。
 私と私の家族が日々暮らす中で感じた「何とも言えない心地よさ」は、イギリスのよき市民社会がもつ「礼儀正しさ」の伝統の上に、この国特有の「緩さ」が加わったことによるものであるということがわかったのも大きな収穫でした。おかげで今回、自分が生まれ育った母国以外の国で生活するという得がたい経験をすることが出来ました。この1年間で一通り経験して慣れてきた頃に帰国することになり、寂しい気持ちもありますが、今はこれまで内側から見てきたニュージーランドという国をあらためて外側から眺めるとどのように見えるのかに興味があります。私たちを快く受け入れてくれたこの国の人々に感謝しつつ、世界でも有数の豊かで安心して暮らせる社会の良さがこれからも長く続くことを願っています。