2016.1.13

【阪南経済Now1月号】若者「使い捨て」企業を許さない-ブラック企業・ブラックバイトに対する学生の声-

【阪南経済Now1月号】若者「使い捨て」企業を許さない−ブラック企業・ブラックバイトに対する学生の声−

① 「若者雇用促進法」の制定
 2015年10月から「青少年の雇用の促進等に関する法律」(若者雇用促進法)が順次施行されることとなった。この法律は、雇用政策分野では若者を対象とした初めての法律といえる。
 戦後の日本は、「中高年の雇用問題こそ深刻である」という認識のもと、1990年代以降の若年失業率の上昇、高校新卒者の内定率の低下、フリーターやニート問題の深刻化という事態に直面しても、「若者自立・挑戦プラン」や「若者自立塾」「若者雇用戦略」など、問題の原因を「自立できない若者にある」とし、「質の低下した若者」の自立を支援する対策しか講じてこなかったといっても過言ではない。こうした状況の中で、学生たちはキャリア教育や資格取得に追い立てられ、大学では専門分野を学ぶというよりは、就職のために勉強するという意識を持つ学生が増えた。

② 「ブラック企業」・「ブラックバイト」
 今日注目を集めている「ブラック企業」や「ブラックバイト」をめぐる問題は、若者に責任を押し付ける風潮のなかで、是正されることなく深刻化したといえる。
 2012年にブラック企業大賞が創設され、大手の名の通った企業であっても「ブラック企業」の場合があるという認識が広まった。また学生たちは、アルバイト先や就職先が「ブラック」か「ホワイト」かに関心を寄せるようになった。
 ちなみに、ブラック企業は、ブラック企業大賞企画委員会の定義によれば、「労働法やその他の法令に抵触し、またはその可能性があるグレーゾーンな条件での労働を、意図的・恣意的に従業員に敷いている企業」や、「パワーハラスメントなどの暴力的強制を常套手段として従業員に強いる体質を持つ企業や法人」である。

③ ブラックバイトの実態
 2015年11月9日に厚生労働省が公表した「大学生等に対するアルバイトに関する意識等調査結果について」は、学生アルバイトの多くが労働条件上のトラブルを経験していることを明らかにした。
 準備や片付けの時間の賃金や、残業分の賃金、時間外労働や休日労働、深夜労働の割増賃金が支払われなかったり、実際に働いた時間管理がなされていなかったり、労働時間が6時間を超えても休憩時間がなかったといった労働基準関係法令違反のおそれのあるトラブルや、採用時に合意した以上のシフトを入れられたり、一方的に急なシフト変更を命じられたといったシフトに関するトラブル、給与明細書がもらえないというケースまでもが報告されている。
 また、試験の準備期間や試験期間にも休ませてもらえない、シフトを多く入れられ授業に出られない、アルバイトのしすぎで体調を崩した、睡眠不足で授業に間に合うように起きられなかったというような、学生であることが尊重されず、学生生活に支障をきたしているものも多い。
 こうしたアルバイト学生に「選んだ学生が悪い」「辞めないほうが悪い」「自分の意見を主張せよ」と自己責任論を振り回すのは簡単だ。もちろん学生の側が、「辞めること」の正当性・合法性を理解することも必要である。ただ、見かねた周囲のものが辞めるように助言しても、簡単に辞められないのがブラックバイトだという認識をもたなければならない。
 学生の経済的困窮という理由で辞められない場合もあるが、損害賠償請求をちらつかせたり、「責任感を強要」したりする雇用主がいる。こうした「辞められない環境」をつくりだす雇う側の責任が問われるべきであろう。

④ ブラック企業・ブラックバイトに対する学生の声
 以上のような話を、2015年11月中旬に1回生を対象とした授業でミニ講義でした後、「ブラックバイトやブラック企業について知っていること、求められる対策について述べよ」という課題を出したところ、200名を超える学生からレポートが提出された。
 「高校生の時にブラックバイトを経験した」「今働いているところは、ブラックです」「友人がブラックバイトで困っている」等々、厚生労働省の公表した調査結果さながらの内容であった。いくつか紹介しよう。
 「たまに補講が入ったりして、シフトを変えて欲しいと言っても、元々入っていたから出て欲しいと言われたり、バイトだから責任感がないと言われたりすることもあります。こういうことを言われると嫌な気持にもなるし、バイトを優先させた方がいいのかなとも思います。だからゼミや補講など大学生活を優先させるようにさせて欲しいです。」
 「私の友達も、人手不足だから授業を休んできて欲しいなどの要求や、言葉による暴力を受ける子たちも少なくありません。友達に自分で今すぐにでも辞めればと言っているのですが、簡単には辞められないらしく、とても身近に問題が起こっているんだと驚きました。」
 「ブラック企業に勤めている友人がいます。1日に15時間労働は当たり前で、休日でも出勤させられています。私が会社へ相談するようにすすめました。後日上司に相談してみると、責任感の押し付けや解雇の話までされたようです。」
 「休日に大学での予定があって入らなかったら、その週は平日もシフトを入れてくれなかった。」
 「今働いているバイト先では、土日祝は昼の1時から夜の9時まで計8時間の労働時間だが、休憩は10分すらもらえない。10時間を超えた時に初めて1時間だけもらえる。」
 「友人が高校生の時、22時以降も労働させられ、24時を過ぎても働かされていた。」
 「高校生の時にアルバイトをしていた和菓子工場では、アルバイトと正社員の仕事量・内容がほとんど変わらなかった。18時までの契約だったのに、生産個数が足りないときはノルマをクリアするまで帰られず、超過した時間の残業代は出なかった」

⑤ 求められる対策
 大学では休日に授業をしたり、火曜日に月曜日の授業をしたりすることがあるが、そうした授業への学生の出席率は悪い。補講の場合もそうだろう。学生は決して授業をないがしろにしているわけではない。学生たちはバイト先の違法性を認識しているが、どうにもできずに苦悩している。会社に相談しても、それが裏目に出るかもしれないと恐れている。「何とかして欲しいと」という叫びが聞こえてくる。
 ブラックバイトを経験した学生は、ブラック企業に就職し、過酷な働き方を強要されても、こんなものだろうと受け入れる恐れがある。しかし長くは続かない。毎年、新規学卒者の離職状況が発表されるが、2012年3月の大学卒業者のうち、3年以内に離職したものは32.3%である。業種別にみれば、宿泊業・飲食サービス業は53.2%、生活関連サービス業・娯楽業は48.2%、教育・学習支援業は47.6%、小売業38.5%である。また規模の小さい企業ほど離職率が高い。
 冒頭に紹介した「若者雇用促進法」では、2016年3月1日から、ハローワークは労働関係法令違反のあった事業所などからの新卒者の求人申し込みを受理しないと定めている。また2015年10月からは優良な中小企業事業主の認定制度が創設された。若者の採用な人材育成に積極的に取り組み、新卒者の3年以内の離職率が20%以下といった認定基準をすべて満たす中小企業を厚生労働大臣が認定するというものである。
 労働関係法令違反企業を許さないという姿勢を鮮明にするとともに、中小の優良企業を周知させるという「若者雇用促進法」が、「辞められない環境」を改善し、「離職をしなくてもよい環境」づくりに結びつくことを期待したい。