2014.1.15

平山・大村研究室   INGNIでファッションビジネスと物流の関係を考察

実学シリーズ2013
平山・大村研究室 INGNIでファッションビジネスと物流の関係を考察

実学教育を重視する阪南大学の『キャリアゼミ』。その中で「ファッションビジネスの裏側を学ぼう」を合い言葉に、ファッションビジネスに挑んでいるのが、流通学部 平山弘(ひらやまひろし)研究室と大村邦年(おおむらくにとし)研究室の合同ゼミだ。
今回はアパレルメーカーの物流センターで、SPA(製造小売業)という業態の強みをインサイト・フィールド・リサーチする。

株式会社イングの物流センターをリサーチ

2013年12月12日(木)、平山・大村研究室の2年次生約40名が次々に神戸に集まった。気温が一段と冷え込んだこの日、学生たちが訪問したのは、ポートアイランドにある株式会社イング本社。1982年に製造卸売業としてスタートしたイングは、他社に先駆けて自社で企画・製造から販売までを行うSPA(製造小売業)に業態を変換。全国に「INGNI(イング)」ブランドのショップを展開し、今や全国170店舗以上、売り上げ250億を超えるファッションブランドとして不動の地位を確立した。このイングを支えているのが、本社に併設された物流センターなのだ。

取材時に「物流センターで働くことに興味があるんです」と語っていたのが、ゼミ生の富田 雅也さんだ。 「アパレルって販売のイメージが強いですよね。でも学部で学ぶうち、商品が店舗に届くまでの流通経路を考えるようになり、物流の重要性に気づきました。だから今日が楽しみで! リサーチを通じて得た発見を大学に持ち帰り、考察を深めたいと考えています」。 実は富田さんは、平山・大村ゼミで学びたいがゆえに阪南大学を受験したという経歴の持ち主。 「昔からファッションに興味があり、アパレル業界への就職につながる勉強ができる大学を探していました。そこで知ったのがこのゼミ。阪南大学に合格しても、ゼミに入るまではヒヤヒヤでしたよ」と顔をほころばせた。 学内屈指の人気ゼミである平山・大村ゼミは、プレゼミでの成績がA以上、ファッションビジネスの成績がB以上であることがゼミに入る最低条件。富田さんは難関をくぐり抜けた精鋭のひとりでもあるのだ。

「物流」はメーカーの「心臓」

今回は学部長でもある平山教授が大学を離れることができなかったため、大村教授先導のもと学生はイング本社の中へ。広々とした本社エントランスは、ガラス張りの天井から光が差し込む吹き抜けの構造。心躍らせた学生たちを迎えてくれたのが、営業本部商品管理部物流グループの藤見文俊さん。早速、本社併設の物流センターの見学がスタートした。
まず学生たちが案内されたのが、1階バックヤードにある入荷場だ。日本の主な貿易港のひとつである神戸港に近い立地を活かし、海外で製造されたINGNI商品はまずここに運び入れられる。学生たちは、所狭しと積み上がった段ボール箱を目を丸くして見回した。「1日に10〜15台ほどのトラックやコンテナが行き交います」と藤見さん。入荷量は多い日で1日5万枚。在庫を除くそのほとんどが、即日店舗に配送される。イングでは、企画した商品が実際に店頭に並ぶまでを、たった2週間で実現する。脅威のスピードを可能にしているのが、この物流センターなのだ。
ベルトコンベアーで運ばれる段ボールを追って、学生たちは物流センターの中心へ。そこには大小のベルトコンベアーがまるで人体に血液を送る血管のように張り巡らされ、めまぐるしく商品を運んでいた。まず入荷された段ボールが社員のもとに到着。社員は段ボール内の商品を取り出し、バーコードを読み込ませたうえで次のコンベアーへ。後は自動的に各店への発送ボックスへと投入され、その日中に店舗への発送が完了する。 実は物流センター部門で働く社員はたった4名。コンピュータ管理のオートメーションだからこそ、この人数での管理が可能となっている。藤見さんの指導のもとピッキング作業を体験させてもらった学生は、システム化された商品管理に驚きを隠せない様子だった。

続いて学生は、カスタマーセンター長の岡 孝文さんの元へ。 「商品が届かなければ店は立ち行きません。その意味でこの物流センターはINGNIブランドの心臓だと言えるでしょう。新商品の即日発送だけでなく、在庫を管理し、追加注文にも素早く対応する。このスピードも自社で物流センターを持っているイングの強みです」と、物流センターを持つSPAメーカーの誇りをのぞかせた岡センター長。現在イング本部で活躍する人材には、物流部門で経験を積んだ者も多いことを学生たちに伝えた上で、「こうしてアパレルの裏側に興味を持つ学生さんが大勢いるのは頼もしいですね」と阪南大学の取り組みを評価してくださった。

岡センター長の話に目を輝かせたのが、企画職をめざしているという井上 沙紀さんだ。 「販売職からだけでなく、こうした物流部門で経験を積んだ上でキャリアアップする道もあるんですね。INGNIは幅広いアイテムを扱っているので、さまざまな商品企画に挑戦できそうです。子どもも好きなので、子供服を取り扱うINGNI Firstにも興味があります」と、アパレル就職をめざすうえで今回のリサーチが発見を与えてくれたことを語ってくれた。

目に見えるものをシンプルに

2002年より本格的にSPAにシフトしたイング。今でこそ、ユニクロをはじめ大小多くのアパレルメーカーがSPA業態を取り入れているが、大村教授によれば、イングのように物流センターを自社で運営している企業は意外に少ないという。なぜイングは、コストをかけてまで自社での物流システム構築にこだわっているのだろう? その理由を、イング創業者である青井 正人会長と20年来の交流がある大村教授はこう語った。 「青井会長はイング創業当初から、『目の前に在庫があるのが大切』だと自社での物流にこだわっていました。物流を外部に委託していては、書類上の数字でしか商品の動きを感じられません。しかし本社で商品を管理していれば、何が売れ、何が売れないのかが一目瞭然。売れる商品を見抜くセンスは、商品と直に向き合わなければ養えない。だからイングでは、物流センターを自社で、正社員の手で、運営しています。この経験が将来、企画や生産管理、バイヤーとして活躍するときに役立つと考えているからです」 イングが今なおSPAメーカーとして成長し続ける背景には「目に見えるものをシンプルに」という、青井会長の経営哲学が生きているからなのだろう。
実は阪南大学流通学部では、青井会長による講義が行われた。その講義とは「ファッションビジネス実践」。毎回、ビジネスの第一線で活躍するトップ経営者や実務執行者を招き、現場のリアルな話を学生たちに伝えてもらうという画期的な講座だ。流通学部の学生全員に門戸が開かれているだけあり、約150名の学生が受講を希望。天王寺MIOや心斎橋OPAのトップや、ナノ・ユニバースのクリエイティブディレクターなど、そうそうたるメンバーが名を連ねる贅沢な内容となっている。

この講義を受講しているゼミ生の明知 美紗貴さんは、株式会社ナノ・ユニバースの執行役クリエイティブディレクター姉川氏による講義を通じ、バイヤー職への憧れが再燃したという。 「ゼミを通じ、アパレルにもさまざまな職種や活躍の場があると知りました。就職は東京でと考えています。日本のアパレルの中心地でキャリアを磨けたらと思うんです」と夢を語ってくれた。
このように、アパレル業界には販売やバイヤー、プレスといった職種だけでなく、さまざまな活躍の場があることを学生たちに体験を通じて実感してもらうことも、このインサイト・フィールド・リサーチの狙いのひとつだ。その成果は、就職面でも実績を上げている。就職内定したゼミ生の約4割がユナイテッドアローズやビームスなどに採用が決定。昨年は大学初のイング内定者が生まれた。 こうした成果を受け、同ゼミの人気はますます高まっており、来年度のゼミ生は50名を超える予定だという。 アパレル業界のトップと交流する機会に恵まれる平山・大村ゼミ。同ゼミが、ファッションビジネスを賑わせる人材を生み出す登竜門として知られる日は、すぐそこまで迫っている。

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