2020.6.24

流通学部 仲上哲教授が京都大学より博士(経済学)の学位を授与されました

 流通学部仲上哲教授は、京都大学に提出した学位論文『格差拡大と日本の流通』(文理閣、2019年2月刊)の審査および試験に合格し、2020年3月23日付で同大学より博士(経済学)の学位を授与されました。
 同学位論文は、格差の拡大および低所得者層の増加に直面した2000年代後半以降の日本の社会および経済状況に、流通と小売商業がいかなる対応を図っているかを分析しています。その背景には、小売商業の競争活動が変容し、流通とりわけ小売商業の活動基盤そのものの損壊が進んでいることがあります。格差拡大という競争環境の変化が、小売商業の競争活動をどのように変え、流通と小売商業が担う新しい役割は何かを解明することが同論文の目的です。
 同論文の特徴的な点は、個別の小売企業や業態のビジネスモデルの分析といったミクロな観点に留まらず、それらを消費過程との連続性を意識しつつ、流通の社会的役割・機能といったマクロの視角からの考察を深めていることにあります。
 序章では、現代の小売商業の分析を試みるための視角として、(1)小売起点のサプライチェーンの進展(諸資本の活動領域の変化)、(2)低所得者層の増加への対応(競争手段の変化)、(3)流通・小売商業による公益の提供(流通・小売商業の新たな役割)の3つを設定し、各章で分析と考察を進めています。
 第1章「格差拡大社会における流通の役割」では、2000年代にかけて変化・形成された日本の流通の特徴をデフレ支援型と規定し、その活動内容の検討を通して、流通の新たな役割を見出しています。第2章「小売商業主導のサプライチェーン」においては、格差社会における小売商業の活動領域の変化を、生産者と商業の分業関係の揺らぎとして捉え、それを顕著にする環境要因と条件を明らかにし、小売商業が主導するサプライチェーンの分析を通じて、それが情報力格差に基づく新しい独占の形態であり、情報システムによる統合が進むことで、大企業の資本関係により拘束されるといった点を指摘しています。
 第3章から第5章では、現代における小売商業の競争手段の変化を、3つの視角から論じています。第3章「プライベートブランド商品の多層的配置」では、デフレ不況期以降に大手小売企業が主導したPB商品戦略を分析し、小売起点の情報を基に値ごろ感に応じた商品構成と、消費者ニーズの変化に即応する商品開発が行われていること、PB商品の多層化は中小メーカーや中小小売商業を排除し寡占化を促している点を明らかにしています。第4章「消費縮小状況における流通チャネルと流通機能」では、所得減少によって生じた消費制限への小売商業の対応が、消費にどのような影響を及ぼすのかを、流通機能の変化に沿って分析し、小商圏対応型店舗の展開、ネット販売、オムニチャネル構築といった現実を検討することで、一連の取り組みが買物を簡便なものとする内容へ流通機能を変化させていることを明らかにするとともに、これらが総消費量の拡大をもたらすには至らないことを併せて指摘しています。第5章「ライスタイル対応小売業」では、ライフスタイルセンター、ライフスタイルストア、高級・高質スーパー、ライフスタイルブランドなどをライフスタイル対応小売業と規定し、それらが不況期において強調される意義を検討し、近年のライフスタイル概念は、かつてのように社会階層の観点からではなく、個人特性の観点から規定されるようになっており、業態や商品などにおいてライフスタイルが強調されるのは、集客効果を高め、低価格競争を回避し、消費者への価値訴求を実現するための手段に過ぎないこと、ライフスタイルを強調せざるを得ない理由が社会経済的な状況にあることを指摘しています。
 第6章「流通の社会インフラ化」では、公益を提供するための物質的基礎であるインフラとして流通が機能している現実を踏まえ、なぜ流通の社会インフラ化が進展したのか、その課題を分析し、コンビニや移動販売といった流通の社会インフラ化の事例の検討を通じて、流通において広がっている公益は、あくまで資本の社会性という広義の公益性でもって本来の公共性を代替させるものであり、社会インフラ構築・維持のための原資を組織内部に求めざるを得ず、その構築自体が不安定なものとなるという課題を明らかにしています。
 第7章「総合小売業の公益性」では、総合スーパーを代表とする総合小売業において進行する「脱総合」という事態を、総合スーパーの発展と変化を環境との関連で分析し、総合小売業の論理に基づいて、それがあくまでも、広義の公益性に基づく新たな総合小売業への転換に過ぎないことを明らかにしています。
 近年、流通や商業の公益性を指摘する議論が増えつつあります。しかしその多くは企業の倫理性に基づき、商業も公益を果たす義務があると指摘するもの、あるいは地域社会において商業がどのような社会的機能を果たしているのかを紹介する報道的な指摘に留まっています。同論文はこれらの指摘とは異なり、流通や商業が果たす本来の公益と、資本がその活動の結果として提供する公益とに分類するとともに、それらの差異について理論的に考察することで、「新たな流通や小売商業の役割」にかんする知見を探求しています。たとえば、第7章において、総合小売業の「脱総合」化を新たな総合として提示しつつ、「脱総合」という事態が公益と関連付けられ、流通機能(商業資本の役割)の観点からその性格を分析することで、総合型小売業という業態の新たな展望を示すなど、小売商業の未来にかかわる結論を提起しています。
 以上の第1章から第7章までの各章の議論を踏まえて、終章「現代流通における競争と独占」では、現代の小売商業の活動の特徴を、パワーシフトの進展、競争の場の変容にともなう競争手段の変化、公益の分担の3つに整理して、それらを独占概念との関係から論じることで、その性格や社会的意義を明らかにしています。