【松ゼミWalker vol.216】 COLOR EXHIBITIONと西成WANを終えて(教員 松村嘉久)

第二弾巨大壁画 『アセラズ クサラズ アキラメズ』の儚い宿命

 2016年の秋から12月末にかけて,松村ゼミでは予想外のアクシデントが連続しましたが,とても忙しく充実した日々を乗り切れました。
 西成WAN第二弾の巨大壁画『アセラズ クサラズ アキラメズ』を仕上げたのが,2015年9月末。ところが,その後,2016年に入って,あいりん総合センター(以下,センター)を新しく建替えることが決まり,それにともない,第二弾『アセラズ クサラズ アキラメズ』の壁画が,早ければ2017年春にも壊されることも決まりました。センターを新しく建替えるためには,一度解体しなければならないのですが,その間もセンターの機能を停止する訳にはいけません。そこで,センター内の「あいりん労働福祉センター」と呼ばれる部分が,第二弾を描いた南海本線高架下へ,一時的に仮移転されることになったのです。
 西成WAN第三弾は当初,第二弾で描いた壁の南側を候補地として,2016年秋に実行しようとしていました。ところが,その候補地にも,センター内の「愛隣労働公共職業安定所」が仮移転されることが決まり,当初2016年10月に実施予定で準備を進めていた第三弾も延期が決定。つまり,第二弾で描いた壁画が壊され,第三弾は延期を余儀なくされる,というとてもツライ状況でした。

 第二弾の巨大壁画が結果として無くなるのはとても残念ですが,そもそもストリートのアートなので,それもいつかは来るだろう「宿命」。西成WANと関わったアーティストやスタッフも,ある意味で「覚悟」はしていました。地域のみなさんが話し合い,センターの建替え・仮移転・新築・機能強化が合意されたことは,とても前向きで重要な決断です。第二弾の『アセラズ クサラズ アキラメズ』に込められたメッセージのひとつは,「自分たちのまちは自分たちでつくる」。センターをめぐる話し合いの積み重ねと決断は,まさにその実践でした。だから,西成WANと関わってきた仲間たちも,残念ではありますが,前を見すえて歩み続けよう,第二弾が壊されるからこそ,第三弾を描いて次へつなげよう,とみんな気合が入りました。
 ところが,第三弾の候補地選びが思いのほか難航。第二弾が高さ7m長さ70mという巨大な壁面だったので,それに匹敵するくらいのインパクトが欲しい…。また,「描いてもいい」という許可が得られる場所でなければならない…。アーティストらとあいりん地区内を歩き回って探した結果,第三弾は,南海電鉄萩ノ茶屋駅の南側,南海本線高架東側の歩道沿いに並ぶ白鉄板がいいのでは…,という結論に達しました。
 第三弾候補の白鉄板の高さは3m,長さは130m。規模そのものは第二弾より小さいものの,横に長い壁なので,いくつかのブロックに分け,多くのアーティストが参加して,色々なスタイルを見せられたら,面白くなるだろう,と思いました。南海電鉄と西成区役所の協働で,白鉄板に描いてもいいという内諾を早くにいただき,2016年12月に入って,正式な許可もいただきました。地域の町内会に関しては,西成区役所職員に仲立ちしていただき,ご挨拶に伺い,全面的にご支援いただけることになりました。地元からのご理解とご支援が,私たちにとって最も心強い味方です。

COLOR EXHIBITIONとの連携

 第三弾の実践に向けて残る課題は,アーティストと活動資金の確保でした。
 アーティストに関しては,とてもラッキーなことがありました。西成WANの協賛企業でもあるCalmaartらの主催で,大阪港の海岸通ギャラリーCASOにて,COLOR EXHIBITIONという大規模なグラフィティイベントを,2016年12月20日(火)から25日(日)まで行うため,国内外から実力のあるグラフィティアーティストが,12月に入ると大阪に集結する,との情報が入りました。アーティストたちはギャラリーCASOの巨大壁面に作品を描きに来阪する訳ですが,その合間を縫って,西成WANにも無償でご協力いただけるようお願いしたところ,みなさん快く引き受けてくださりました。
 その代りではないのですが,COLOR EXHIBITIONの成功に向けて,西成WANも協力しよう,ということになり,西成WANや阪南大学国際観光学部松村嘉久研究室がCOLOR EXHIBITIONの協賛に名を連ね,応援することになりました。西成WANのスタッフも,COLOR EXHIBITIONのスタッフも,とても忙しいスケジュールのなか,一石二鳥,一挙両得を狙い,みんなで協力して乗り切ろう,と結束しました。余談ですが,COLOR EXHIBITIONでアーティストが描いた壁面の寿命は,わずか5日間。イベントが終わり次第,白ペンキで塗り潰されると伺い,ストリートアートの儚さというか,潔さを痛感しました。
 さて,西成WANの活動資金はこれまで,協賛企業や協賛団体からの寄付や支援で負担して来たのですが,持続可能な形で運営するためには,誰かが無理して負担するのではなく,別の方法も考えなければいけない,と議論を重ねてきました。そこで今回は,実験的にクラウドファンディンを試してみよう,ということになり,CAMPFIREというクラウドファンディング会社を利用して,2016年12月8日から翌年1月7日までの一ヶ月間,西成WAN第三弾の協賛者を募りました。

 結果として,69名の協賛者から47万円の活動資金が集まりました。第三弾は第二弾よりも描きやすい場所だったので,これだけの活動資金があれば何とかなります。改めて,ご協賛いただいた方々に感謝いたします。
 西成WANの趣旨を理解して,「応援してあげよう」と思った方々からの資金提供なので,私たちだけでなく協賛者みんなの思いものせて,西成WAN第三弾を実践できることになりました。
 なお,このクラウドファンディングを契機に,壁面ドナー登録制度も立ち上げました。西成WANの趣旨をご理解いただき,ぜひ私のところの壁にもアートを描いて欲しい,という方がいれば,その壁面を西成WANの活動のため提供するという意味で,ドナー登録していただく制度です。ドナー登録後は,アーティストらの予定があうタイミングで,順次,アートを描いていきます。
 2017年1月末現在,あいりん地区内ですでに4件のドナー登録があり,いくつか問い合わせもいただいています。今後,季節が暖かくなってきたら,ボチボチと,無理せず淡々と,アートを描いて行こうと思っています。

西成WAN第三弾がようやく完成!

 西成WAN第三弾に参加していただいたアーティストは,CASPER,DELS4,DEMSKY(スペイン),HIZE(スペイン),JOE,KICHI,LOVEATTACK,MIZYURO,SUIKO(広島),QP(東京),VERYONE,ZENONEの12名。全員,ギャラリーCASOでのCOLOR EXHIBITIONとの掛け持ちで,大阪港と西成を往復する日々でした。
 私が驚いたのは,アーティストたちの集中力です。リラックスされている時はそうでもないのですが,ひとたび描き始めたら,話しかけたりできるような雰囲気は吹っ飛び,鬼気迫る凄まじい集中力で仕上げていきます。西成WANの作業は路上でみんなが見ている前で行うため,ギャラリーから話しかけられることも多いのですが,例えばJOEさんが描き始めると,ギャラリーは遠巻きで息をひそめ,その一挙一動をじっと見つめるような感じでした。
 かと思うと,MIZYUROさんなどは,下校途中に見守る小学生たちから,「下書きせえへんの」とか,「いったい何の絵なん」,「いつ出来上がんの」などの質問攻めにあいながら,和気藹々と作業を進めていました。

 描くのが早いアーティストはわずか半日で,じっくりと描くアーティストでも2日間ほどで,高さ3m,幅10mから20mほどの作品を仕上げました。第二弾は高所作業車を出すなど,何かと人手のいる作業が続きましたが,第三弾は脚立だけあれば充分,学生スタッフも見守るだけでした。完成した作品は,各々のアーティストでスタイルが全く異なり,雰囲気も全く異なるため,見て回っても飽きないと思います。
 完成披露会は2016年12月23日(金・祝)に行いました。今池こどもの家やこどもの里から,第一弾・第二弾と協力してくれたこどもたちが駆け付け,アーティストらと一緒に,西成WANのロゴを作品に描き仕上げてもらいました。もう慣れたものです。
 横関稔西成区長や町内会の方々も来られて,アーティストらをねぎらうコメントをいただきました。また,遠方からわざわざ完成披露会を見に来たという人もかなりいて,小雨の降るなか,総勢100名を超える盛大な披露会となりました。

 披露会にはこどもたちから大人気のRed BullのDJカーも来て,第三弾のアートが立ち並ぶ一角で,SHINGO★西成さんが西成WANの応援歌『ここから いまから』を歌ってくれました。もうすぐCDに収録されるというこの応援歌,松村と2年生のゼミ生たちは,阪南大学のあべのハルカスサテライトで12月初旬に行った打ち合わせにて,「まだ完成してないねんけど,聴いてもらえますか」と,SHINGO★西成さんから生歌で聴かせていただきました。いわば役得,その場にいた者すべてが,その時間を共有できたことをラッキーと思ったことでしょう。
 さて,西成WAN第三弾で完成した12作品の写真は,あえてここには掲載しません。ストリートのアートなので,ぜひ,みなさん,現場へ見に行ってください。現場は,南海萩ノ茶屋駅で降りて,南海本線高架の東側(生駒山側)へ出て,高架沿いを南へ歩いて数分のところです。第二弾の『アセラズ クサラズ アキラメズ』は,萩ノ茶屋駅で降りて,南海本線高架の西側へ出て,高架沿いを北へ歩いて数分のところ。第一弾は,第二弾のすぐ北側で並んでいます。せっかく来るなら,三ヶ所とも見て回ることをお勧めします。
 なお,この記事では,西成WANのオフィシャルカメラマンが撮影した写真も,何枚かご提供いただき使用しています。ご協力,感謝いたします。