【松ゼミWalker vol.101】「西成特区構想」と「天王寺あべの」のまちづくりのなかで(レポート:松村嘉久)

 最近,私は二つのまちづくりと関わっています。ひとつは,これまで松村ゼミが継続して関わり続けてきた「大阪国際ゲストハウス地域」づくりです。橋下徹大阪市長が打ち上げた「西成特区構想」のなかでも,「海外からのバックパッカー向けの観光振興」という政策課題が掲げられています。これはまさに私たちがやってきた社会的実践の延長線上にあります。もうひとつは,まだ研究会を立ち上げたばかりですが,天王寺・あべの地域のまちづくりです。
 101回目の松ゼミWalkerは,ゼミで取り組む将来の課題を整理する意味でも,この二つのまちづくりについて報告したいと思います。

西成特区構想で何ができるのか?!

 ことの発端は2012年4月20日(金),この日私は,橋下徹市長を囲んでの市民懇談会に出席して意見交換する機会に恵まれました。その様子は,西成区役所のウェブサイト記事「市長と市民の方との懇談会を開きました」(http://www.city.osaka.lg.jp/nishinari/page/0000168527.html)で,議事録が公開されているので参照してください。
その後,大阪市特別顧問の鈴木亘先生(学習院大学経済学部教授)のもとに,「西成特区構想有識者座談会」なるものが組織されることになり,そのレギュラーメンバーとして加わることになりました。
 以来,この会議は,第1回6月11日(月),第2回7月3日(火),第3回7月9日(月)と行われてきました。その議事録や議案などは,西成区役所のウェブサイト(http://www.city.osaka.lg.jp/nishinari/category/2033-2-0-0-0.html)で紹介されています。
 私はこのうちの第3回にて,「国際観光振興・賑わい創出を中心としたあいりん地区の活性化について」という題で,歴代のゼミ生らとあたためてきた私見を述べました。
 今後,この有識者座談会では,社会保障制度,日雇い労働者・野宿生活者支援,教育の問題などについて議論を重ね,9月をめどに座談会としての意見をまとめ,西成特区構想で進むべき中長期の指針を示すことになっています。

天王寺あべのまちづくり研究会が目指すもの!!

 私は西成区だけでなく,天王寺区・阿倍野区・浪速区・生野区にも,強い愛着があります。母方の実家が阿倍野区で,小さい頃からこの界隈で遊び,慣れ親しみました。大阪市立大学に15年間も通い,阪南大学で職を得て10年が過ぎましたが,その間もずっと,「天王寺あべの」界隈の変容を見守り続けてきました。
 あべのハルカスの高層建築がどんどん高くなっていくのを,新今宮TICから眺めながら,ふと,「天王寺あべの」のまちづくりはどうなっているんだろう,と2011年秋くらいから考えるようになりました。西成区あいりん地域でまちづくりと関わるなかで,色々な人たちとまちづくりを語り合う場の重要性を学びました。ところが,天王寺あべの地域にはそのような場が見当たりません。加えて,その頃大阪市が進めていた観光振興策から,天王寺あべの地域はなぜか抜け落ちていて,私は強い危機感を覚えました。
 そこで,2011年末から2012年春にかけて,これまで観光の現場で活動するなかで培った人脈をたどり,各方面に声をかけて趣旨を説明して回り,天王寺あべののまちづくりを考える場を作りにかかりました。民間は競争することも大事ですが,イベント開催などでは協調して盛り上げるのも大切で,公共空間をどう活用するのかという問題では,民間から意見や知恵を出し合い,合意形成することが何よりも欠かせません。

 このような想いから組織づくりしている2012年の春先,大阪府市統合本部が「グランドデザイン・大阪」の素案を検討しているという情報が入りました。そのなかでは,「なんば・天王寺・あべのエリア」が焦点のひとつになっていて,新世界・通天閣や日本橋も含めて,このエリア内の回遊性・周遊性を高めるため,天王寺となんばをLRT(Light Rail Transitの略,平たく言えば路面電車)でつなぐ構想が描かれていました。
 その構想を見て,私はこれまでの経験から,これが実現すれば面白いと直感しました。しかしながら,例えば,路面電車の駅舎を天王寺につくるとなると,既存の鉄道駅やあべのハルカスやQ’s MALLとはどうつなぐのか…,そのLRTは誰が運営するのか,そもそも現存する阪堺電車上町線はどうなるのか…色々と極めて現実的な問題が噴出します。ところが,天王寺あべの地域ではこれを議論する場すらない…,これはのんびりしていられない,と少し焦りました。

 そこで府市統合本部での議論を熟知する橋爪紳也先生(大阪府立大学教授)にも,色々とご相談して顧問に就任していただき,2012年6月28日(木),ようやく第1回「天王寺あべのまちづくり研究会」が開催できました。この日の研究会には,南海,近畿,阪堺,JR西日本,天王寺動植物公園,Q’s MALL,大阪商工会議所などから参加者が集まり,今後議論していくべき課題や基本的なスタンスなどを話し合いました。加えて,私がこの研究会の会長として,けん引していくことも決まりました。責任重大です。
 まちづくりで欠かせないのは,まずしっかりと現実を見つめること,と同時に,将来に向かって大きな夢を語ることも大切です。大きな夢を語るなかで,現実の課題をあぶり出し,どのようにすればそれを解決して前進できるのか,みんなで知恵や工夫を出し合うのがまちづくりの現場です。今後,「天王寺あべのまちづくり研究会」は,グランドデザイン・大阪の「なんば・天王寺・あべのエリア」の成り行きも見据え,大きな夢を語りつつ,前向きな話し合いを積み重ねて行きたいと思っています。

第3回西成特区構想有識者座談会を傍聴して(レポーター:1回生 谷口真帆)

 この座談会では松村先生が,国際観光復興や夜市のことをお話しされるとのこと。一般市民に公開されている座談会なので,誰か傍聴に来ないか,松村先生は私たち学生も誘われました。結局参加できた学生は私ひとりでしたが,しっかりと見学してきました。
 座談会の会場には,大阪市職員や市議会議員など関係者の方々,一般市民の傍聴者,マスコミ関係者など50名くらいが集まっていました。阪南大学総務課広報担当の谷垣大輔さんも来られていて,二人で一般傍聴席に座り見学しました。

 松村先生からは,国際観光振興についての具体的な提案が続きました。特に私の印象に残ったのは,台北の夜市と同じような屋台街を,日本で初めて大阪の西成で新しくつくり,賑わいを創出しよう,という提案でした。この他に,新世界・西成からの新たな情報発信のため,西成ジャズや大衆演劇を活用して,エンターテイメントフェスティバルを開催しよう,という提案もありましたが,これはすでに松村ゼミで始動しているものでした。
 途中で座長の鈴木亘先生からは,「今日の話題は,西成特区構想のなかで,唯一の明るく,壮大で夢のあるお話」とのコメントもありました。松村先生が考えておられる観光まちづくり案は,まだ日本でやったことのない大胆なものも多く,「西成特区」でしかできないことをやって,その成功を全国へ広めようと語られていました。大阪西成の観光が大きく変わるかもしれないこのプロジェクト,聴いているだけでワクワクしましたし,ぜひこの観光まちづくりに私も携わりたいと思いました。この日の経験は,観光まちづくりを学ぶ私にとって,かけがえのないものとなりました。