段先生の国際協力講座
−開発途上国の抱える問題について考えよう−

本プログラムのねらいと工夫

 本プログラムは、開発途上国と先進国における政治・経済・環境・社会等の様々な問題を「開発と環境」・「参加型学習」をキーワードにして、参加者の考える力、問題対処能力を育成することを大きなコンセプトとしている。現在、日本を始め多くの国々と国連、その関連機関、世界銀行等が国際援助を行っている。開発途上国で行われている巨大開発プロジェクトがその国の人たちにとって、どのような影響を及ぼすのか、疑似体験してもらうのが目標である。プログラム上工夫した点についてであるが、【実習1】受講生自身に自分の世界観を気づかせるために世界地図を描かせた。受講生が描く世界地図は多くが単調な図形だったり、いびつなものであったり、日本国土の把握もままならないものが散見された。【ミニ講義】国際協力について理解を助けるために、ブレトンウッズ体制を構成する世界銀行、国際通貨基金(IMF)、世界貿易機関(WTO)と国連、アメリカ合衆国、グローバル化、非政府組織(NGO)について、多数のスライドを使ってわかりやすく概説した。【実習2】先進工業国と開発途上国・後発開発途上国の国数・総人口・一人あたりGNI、出生時平均余命、5歳未満児死亡率、成人層識字率などのデータから南北格差を読み取らせた。その後、実施代表者が過去20年間に開発途上国の現地で撮影した膨大な写真データから選んだ約130枚の写真を使い、受講生にそこから何が読み取れるか、その背後に何があるかを考えさせた。受講生は初めてみる開発途上国の写真を、真剣なまなざしで考察していた。【実習3】いくつかの実在する世界銀行の開発プロジェクトをモデルに、それらをプロジェクト・サイクルに沿って、開発計画の立案・実施を体験できるようなロールプレイングをおこなった。具体的には、参加者を先進国、国際機関、開発途上国首都、開発途上国プロジェクト・サイトの4つのグループに分けて、そこで国債、銀行債、借款、疑似通貨やモノを流通させて、国際貿易や国際援助の仕組みを理解させつつ、世界銀行のプロジェクト・サイクルを参考に、実際のダム・プロジェクトを疑似体験させた。さらに、現地プロジェクト・サイトを、A3大のジオラマを制作して、そこで暮らす人々の生活を、植林やその伐採、住宅の建設、フェアトレードなどを通じて体験させた。またレア・メタルの採掘やダム建設と貯水の進行などによって、環境破壊が行われることや、開発者とその影響を受ける人々の対立や葛藤を、疑似体験できるようにした。このロールプレイングでは、実施代表者と参加者の対話を通じて、双方向ワークショップを行うよう努めた。また、各グループ間で自然と議論や意見交換ができるように、シナリオを工夫して相互の交流を促した。実際に、各グループ間においてダムの利便性と問題について、具体的なやりとりが自然と発生していた。ワークショップでは、適宜、実施代表者が科研費調査で撮影した画像やその過程で入手した貴重な映像データを用いて、現地で生じる移住問題などの開発問題をわかりやすく理解できるようにした。ロールプレイングの最後、ジオラマ模型のダムが設置されたのち注水された。終了後、実施代表者は、実際のダム・プロジェクトの便益や問題点、国際援助の抱えるメリットやデメリット、問題等について説明した後、ダム水没地域で抵抗するインドの人々のニュース映像や海外でダムが解体撤去される映像等を紹介した。なお、当日は日本学術振興会から研究成果の社会還元・普及事業推進委員会委員が出席された。

当日のスケジュール

10:00 受付
10:20〜10:40 開講式・プログラム全体の趣旨説明、科研費の説明・諸注意
10:40〜11:00 【実習1】世界地図を描いてみよう。いろいろな世界地図
11:00〜11:20 【ミニ講義】「国際開発援助とは何か?」
11:20〜11:30 休憩
11:30〜12:30 【実習2】「写真・データから開発と環境問題を読み解く」
12:30〜13:30 昼食・休憩
13:30〜15:00 【実習3】「国際援助を疑似体験する」(前半)
15:00〜15:10 休憩
15:10〜16:30 【実習4】「国際援助を疑似体験する」(後半)、解説とまとめ
16:30〜17:00 アンケート実施、修了式「国際協力講座受講証明カード」授与
17:00 終了、解散

今後の発展性、課題

 今回の講座は、前々回の講座(H21採択事業 HT21154)および前回の講座(H23採択事業 HT23157)での経験や成果・課題を踏まえ、目標と内容、スケジュールの見直し、教材の改良に加えて、新たなプログラムと教材開発を行った。具体的には、実施代表者が科研費で調査した実在する開発途上国のダム・サイトを、衛星写真や現場で撮影した写真等を参考にしてジオラマ模型を作成した。制作には準備期間を含めて約2ヵ月かかった。諸外国を含めて、国際開発援助の問題について実際にジオラマを使って、ワークショップ形式で学習する機会を設けたのは、この講座がおそらく世界最初であろう。今後、この取り組みをさらに改良して、教育教材として普及できるようにしたい。