【連載講座】日本の2大テーマパークのマーケティング戦略

その2 アメリカ文化のあれこれ

 コラム その1ではTDRもUSJもアメリカから来たテーマパークであると言いました。それらのテーマパークの中にあるミッキーマウスやユニバーサル映画は、アメリカを代表するキャラムターであり文化であると考えられます。今回はそうしたアメリカ文化について考えてみたいと思います。
 皆さんは“アメリカ合州国”と聞いて何を始めに思い浮かべますか?やはり、あの広大な国土ですよね。何と936万㎢(日本の約25倍!)あります。その広大な国土に約3億1千万人(日本の約2.5倍!)の人が暮らしています。そして何よりも驚きなのは、2010年の人口統計によると、ヨーロッパ系・北アフリカ系・中東系・中央アジア系・ラテン系の白人が72.4%、サハラ以南のアフリカ系の黒人が12.6%、東アジア・東南アジア・南アジア系のアジア系の人たちが4.8%、アメリカンインディアン系の人たちが0.9%、その他の人たちが9.3%であり、世界でも有数の多民族国家であると言えます。
 そうした多民族国家も歴史的に見れば、先住民族であるアメリカンインディアン人がいるところに、17世紀になってイギリス人、18世紀にフランス人、スウェーデン人、ドイツ人、アイルランド人、スコットランド人、19世紀にイタリア人、20世紀にロシア人やユダヤ人といった人たちが、一攫千金の夢を見てアメリカ大陸に移住してきて出来上がった国です。ですから、言語についても今でこそ英語が事実上の国語になっていますが、昔はバラバラだったのですね。
 このように其々の夢を叶えるために祖国を離れ、新天地(アメリカ大陸)に移住してきた人達とその子孫だからこそ、アメリカ人は開拓者精神に溢れた人が多いと言えます。しかし、その一方で多くの人達が再び祖国に戻ることもなく、言語も文化も異なる人達が集まった国・アメリカであることから、自分たちは何人なのかと自問した時に、「“アメリカ人”なのか“◯◯◯(祖国)人”なのか」というように自らのアイデンティティが不安定であったとも言えます。
 そして、開拓者精神と不安定なアイデンティティを持つアメリカ人は、“What is America”を求める中で次第にヒーローを求めるようになります。特に一攫千金の成功を求めて移住してきた人達が多いだけに、実在の成功者をヒーローとして崇拝するようになります。例えば、第16代大統領のエイブラハム・リンカーンは貧しい生い立ちから大統領にまで上り詰めた人物として人気があります。また、ディズニーランドを作ったウォルト・ディズニーも一族はアイルランドからの移民であり、貧しい生い立ちから成功した人物の一人として人気があるのです。
 実在の成功者をヒーローとして崇拝する一方で、架空(映画)の世界でもスーパーマン、バッドマンや最近ではハリー・ポター等のヒーローを登場させます。アメリカ人はヒーローが大好きで、ハリウッド映画では好んでヒーローが登場する映画を作ります。ここで皆さん、今上げた3名のヒーローですが、共通しているところがあることはご存知ですか?実は、3名とも“孤児”です。スーパーマンは、生まれた星(クリプトン星)が崩壊する時に父親であるジョー・エルが息子カル・エルを救うためにカプセルに乗せ“地球”へ放出するのです。そして、両親を失い、辿り着いた地球で成長したカル・エルがスーパーマンとして活躍するという物語です。ハリー・ポッターも、ヴォルデモート卿に両親を殺され、その後叔父・叔母に育てられながらも冷遇され、従兄弟にいじめられている姿が第1作目の映画「ハリー・ポッターと賢者の石」で登場していたので覚えている人も多いことでしょう。そして、そのような境遇で育ったハリー・ポッターが自らの境遇を乗り越え、成長し、活躍する姿が全7巻の書籍、8全本の映画で描かれています。
 これらのように、実在のヒーローであっても、架空のヒーローであっても、貧しかったり、孤児であったりという自らが与えられた境遇の中で、自力で世界を切り開く姿に共感し、人のために役立つ生き方を選択する姿に賞賛を送るのだと考えられます。
  • カル・エルが乗り込んだカプセル

  • 叔父・叔母と従兄弟

 最後に、このコラムのテーマであるアメリカ発のテーマパークで考えれば、ディズニーランドはウォルト・ディズニーという実在のヒーローが創造した場所で、ユニバーサル・スタジオは架空のアメリカン・ヒーロー達が活躍する世界を三次元で体験することができる場所なのです。そういった意味に於いても、2つのテーマパークはアメリカ文化を代表するものであるということができます。
 このコラムでは、これら2社の世界戦略と日本でのマーケティング戦略について皆さんと一緒に考えていきたいと思います。