2017.6.20

【連載講座】日本の2大テーマパークのマーケティング戦略 その5

【連載講座】日本の2大テーマパークのマーケティング戦略 その5

その5 ディズニーランドの世界戦略と世界戦略の中の東京ディズニー・リゾート

 今回(その5)は、いよいよディズニーランドについてです。皆さんはディズニーランドが世界で幾つあるか知っていますか?実は、日本を含めて5カ国に6カ所あります。アメリカ、日本、フランス、中国(香港、上海)と4つの文化圏に進出しているのですね。そして、ディズニー初の海外進出が日本だったのです。
1 カリフォルニア ディズニー・リゾート(アメリカ・ロサンゼルス)
1955 ディズニーランド・パーク
2001 ディズニー・カリフォルニアアドベンチャー・パーク 
2 フロリダ ウォルト・ディズニー・ワールド・リゾート(アメリカ・フロリダ)
1971 マジックキングダム
3 東京ディズニー・リゾート(日本・東京)
1983 東京ディズニーランド
2001 東京ディズニーシー
4 ディズニーランド・リゾート・パリ(フランンス・パリ)
1992 ディズニーランド・パーク
2002 ウォルト・ディズニー・スタジオ・パーク
5 香港ディズニーランド・リゾート(中国・香港)
2005 香港ディズニーランド・パーク
6 上海ディズニー・リゾート(中国・上海)
2016 上海ディズニーランド
 ディズニーランドが一番初めに開園したのが、1955年にロサンゼルス郊外のアナハイムという所で、2001年にディズニー・カリフォルニアアドベンチャー・パークを開園してカリフォルニア ディズニー・リゾートと名称を変えました。これを聞いて?と思いませんか。東京ディズニーランドもディズニーシーを開園して“ディズニー・リゾート”と名称を変更しましたよね。世界6カ所のパークは全て“リゾート”という名称が入っています。これは、かつてディズニーランドが単体で開園した時は、多くのお客さんが日帰りで遊びに来ていたものを、ディズニーランド以外のパークとラグジュアリー・ホテルを併設することによって、宿泊を伴った“ゆっくりと”遊べるリゾートにするという戦略に基づいています。ですから、香港と上海はまだディズイーランドしかありませんが、リゾートの名称を使っていることから、将来的にディズニーランド以外のパークを開演するものと思われます。

 さらに、6カ所のリゾートには必ずディズニーランドがあります。このディズニーランドのパーク内アトラクションやそれらのレイアウトですが、6カ所とも非常に良く似ています。パークの入口を入ると長く伸びたストリートがあり、そこを抜けると目の前にお城が出現し、このお城を中心に円形に各アトラクションが配置されています。特に、東京ディズニーランドで言えば、約40のアトラクションのうち29のアトラクション(構成比72.5%)は、本国アメリカのアトラクションと同じです。そして、何よりもディズニーランドは“夢と魔法の国(ランド)”ですから、ランド内から外の景色が見えないことも含めて“日常”が徹底的に排除されています。その一方で、ディズニーランドの後に開園したパークは、それぞれの国の文化や習慣、消費者の嗜好を反映したものになっているのです。つまり、グローバルマーケティングの“標準化戦略”と“適応化戦略”で言えば、ディズニーランドは海外進出をするにあたって、ディズニーランドというパークで標準化戦略を採用しながら、第二のパークで適応化戦略を採用するという、ハイブリッド型のマーケティングを行っていると言えます。

 次に、東京ディズニー・リゾートに移りましょう。東京ディズニー・リゾートを経営しているのは、株式会社オリエンタルランドという日本の企業です。ですから、代表取締役社長も上西京一郎という日本人です。そのオリエンタルランド社はアメリカにあるディズニー本社とライセンス契約をして、東京ディズニー・リゾートを運営しているのです。他の5カ所のリゾート全てはアメリカにあるディズニー本社が経営していますが、日本だけ違います。なぜでしょうか?ヒントは、ディズニー本社にとって日本が初めての海外進出であったということです。きっとディズニー本社のスタッフにとって、日本でこれほどヒットするかどうか心配だったのだと思います。確かに、アメリカではウォルト・ディズニーはヒーローですし、彼が描いたミッキーマウスは超有名キャラクターだったのですが、日本人が受け入れてくれるかどうか、わかりません。当然、様々な調査はしていたと考えられますが、1つのテーマパークを作るのに莫大な資金を投資する必要があることから、リスクを恐れて慎重になったものと考えられます。

 東京ディズニーランドは、このようにリスクをできるだけ回避しながら、そして標準化戦略と適応化戦略を組み合わせたハイブリッド型マーケティングで日本に進出してきましたが、スタッフによる運営はきわめて日本的な“お・も・て・な・し”の精神が溢れています。例えば、パーク内で清掃を担当する“カストーディアル”の名称で呼ばれるキャスト(スタッフ)がいます。彼らの役割はパーク内の清掃をすることとマニュアルでは定められています。しかし、東京ディズニーランドの理念である“ゲスト(お客様)に幸福を届ける”を実践するために、彼らは自らのマニュアルを超えた活躍を見せてくれます。その一つが、雨の日に見せてくれるパフォーマンスです。雨の日のパークは、ディズニーを楽しみにしていたゲストにとってテンション激減ですよね。屋外の移動は大変ですし、アトラクションに乗るために長蛇の列に並んでいても楽しくはありませんよね。

 そんなゲストに少しでも喜んでもらおうと、カストーディアル達が清掃道具を使って地面に絵を描くことを始めました。このパフォーマンスは、雨の日だけの特別なモノとしてゲストの人気を集めるようになります。最近では春には散った花びらで、冬には積もった雪でミッキーマウスを描くなど、そのバラエティが広がっているようです。そして、このパフォーマンスは海を越えてアメリカのディズニーランドでも行われるようになったそうです。
 このようにディズニー・リゾートは、グローバルな観点から見るとパーク自体のハードの部分では標準化戦略と適応化戦略を組み合わせたハイブリッド型マーケティングを採用しながら、パークを運営するソフトの部分では日本特有のおもてなしの精神を取り入れた適応化戦略を取っていると言えますね。つまり、ディズニー本社にとってウォルト・ディズニーの思い・理念を守りながら、進出した国の良いところを取り入れ、合わせるという非常に柔軟なマーケティングを行っているということがわかりました。次回は、ユニバーサル・スタジオについて考えたいと思います。