NHK静岡放送から「越境EC」についての報道取材を受けました

 こんにちは。経営情報学部の伊田昌弘(国際ビジネス論、eビジネス論担当)です。

 去る5月16日、NHK静岡放送から「越境EC」についての報道取材を受け、5月18日の報道番組「たっぷり静岡」(18:10〜19:00)の中で放送されました。
 NHK静岡放送では、現在話題を集めている「インバウンド」の次の課題と目される「越境EC」について、その課題や企業の試行錯誤について取材を進めているということで、関連して3つの質問を受けました。
 

「インバウンド」・・・もともとは「外から内に入る」という意味。最近では「訪日外国人観光による経済効果」を意味している。

「越境EC」・・・ネットによる電子商取引(EC)のうち、自国内向けではなく、海外向けにWEBサイトを構築し、積極的に海外消費者へ販売する形態=クロスボーダー取引のこと。


 以下、取材内容の概略を紹介します。

①いわゆる「越境EC(日本の事業者が国外の消費者へ販売)」において、越境ECサイト数、もしくはショップ数・の推計(少なくとも・・社)など、企業の参入規模を示すものはないでしょうか。

 残念ながら、私の知る限り公式には存在しません。

 そこで、私が推計をしてみると・・・。

 国内大手のECサイトの場合、1店舗あたりの平均売上(=流通総額/店舗数)は約4,500万円程度となっています。これを基礎に単純に業者数を推計すると、たとえば、日本からの中国向け越境ECが経産省の推計結果(2015)では、約6,000億円ですから、1〜1.5万店となります。

 しかし、実際の進出形態は、天猫国際(Tモールグローバル)のような現地のプラットホームを使う場合が多く、こうしたサイトでは、花王やユニクロのような日本を代表する巨大企業による進出で規模も大きくなりますから、中小の業者の参入度合いは国内ECの場合よりも小さく、実際は1万店舗以内ではないかと考えられます。

②取材を進めると、中小企業を中心に、越境EC事業から撤退を余儀なくされるケースが少なからずあるという話を聞くことがありました。参入した企業のうち、撤退したものは・・割など、越境ECの成功率が現状では決して高くないことを示すデータをご存じないでしょうか。

 撤退に関するデータは、①よりもさらに難しいので、公式なものは存在しないと思います。
 かつて、中小企業白書(2011)で、我が国の起業に関する体系的な全数調査が行われたことがあります。それによると起業後10年以内に7割、20年以内の5割が生存率となっています。
 ICTの世界は、他の業界よりも格段とスピードが速いというのが定説ですから、他の業界と同じく満を持して参入しても、生存率は1〜3年以内に7割、5年以内の5割ではないでしょうか。そして、生き残った5割でも確実な利益を上げて成長していく、いわゆる「成功した」といわれる状態にまで達するのは、数%にも満たない、厳しい現実ではないかと考えられます。しかし、急速に巨大化し国際化する「ガゼル企業」=「ボーン・グローバル」もまた、「フェイスブック」「アリババ」「アマゾン」「ライン」などのようにICT業界から突出して出現するという事実もあります。

「ガゼル企業」・・・創業後、すぐに高い成長力を示す少数の企業で、特に雇用創出力能力が注目される企業のこと。アフリカのサバンナで抜群の運動性能を示す動物=ガゼルにちなんでアメリカの経済学者バーチによって命名された。

「ボーン・グローバル」・・・創業後、すぐに複数の国と取引を行う企業のこと。従来、国内ビジネスから出発して数10年という時間をかけて徐々に国際化すると考えられていた企業の国際化プロセスとは違うタイプの企業として、最近注目されている。

③大きな市場といわれる中国で、4月8日施行の税制改正が行われました。 詳しい内容については、勉強させて頂いておりますが、多くの事業者はマイナスイメージを抱いているような取材実感を持っております。改正後も対中の越境ECにおいて成果を得るためには、どのような点が重要だとお考えでしょうか。

 中国研究の友人から2月末にはこの情報を得ていました。中国の越境ECの税制改正は、越境ECへの「取り締まり」というよりは、「新しいビジネス形態への対応」という側面の方が強いと感じております。以下にポイントを解説します。(1元=16円)

【個人輸入の場合】
・1人の年間購入金額の上限は2万元(現状通り)であり、1度の購入金額上限は2000元までに引き上げる(現状は1000元)。また、購入金額の上限以下の購入商品に関し関税率は0%にする。ただし、上限金額を超える場合は、一般貿易と同じ税率を適用する。

【中国業者輸入の場合】
・輸入に関する増値税を30%減額し、全てに適用(増値税17%×70%=11.9%)
・消費税がかかる場合(商品によっては消費税がかかるケースがある)、30%減額で適用する(消費税30%の商品の場合、30%×70%=21%)
・行郵税を廃止し、現状の個人輸入関税50元までの免税措置を廃止。

 以上が、税制改正の大まかなポイントといわれている点です。

 一見してわかりにくいのですが、中国消費者個人が「個人輸入」という形態で越境ECを行う場合、1度の購入金額上限2000元への引き上げと上限以下での関税率ゼロですから、明らかに有利になります。

 ただし、個人消費者による「個人輸入」ではなく、中国業者による場合は、一般貨物として関税、増値税、消費税がかかりますから、日本の業者が中国の業者と取引していた場合の「マイナスイメージ」だと思われます。

 私見ですが、インターネットが急速に普及し、その過程で「個人輸入の場合の免税特権」を利用した業者によるビジネスが発生し、従来からのビジネスをしていた伝統的な業者(企業)の方は税金を払っていたわけですから、普通の状態になったといえます。
 しかし、アパレル、家電などは250元以上、化粧品では100元以上で実質減税となっています。

 結論をいうと、今後個人輸入のへシフトが起こり、日本の業者は中国消費者との直接取引への対応が問われることになる。また、業者間取引であっても一概に不利とは言えない、というのが私の見解です。

(参考)今や中国の電子商取引B2C市場は50兆円という世界一の規模に達しており、内4〜8%程度(2〜4兆円)が越境ECという巨額な取引になっている。