【eビジネス論】「非常識」が「常識」になっていく時代−スピードをどう考えるか。石村賢一氏(「Eストアー」社長)による特別講義より。

 こんにちは。経営情報学部の伊田昌弘(国際ビジネス論、eビジネス論担当)です。

 2017年5月26日(金)、経営情報学部「eビジネス論」(受講生250名)の講義では、特別講師として、東京から「Eストア—」(東京証券取引所 上場企業) 代表取締役社長:石村賢一(いしむら けんいち)氏をお招きし、特別講義が開講されました。石村氏による本学での特別講義は2016年に次ぐ2回目であり、今年もホットで新しいトピックについて語ってくださいました。

【講義内容】 「非常識」が「常識」になって行く時代

 今年の石村氏の講義は、大きく3つの部分(アジェンダ)から構成されていました。以下私(伊田)の講義メモ紹介です。若干、私の私見も交えながら石村社長の講義をまとめていきます。

① 失っていく仕事(人間の仕事を代替していく機械たち=ITARI)

 コンピュータやIT、そしてロボットやAI(人工知能)は「ヒトの仕事を手伝う、助ける」という観点からその多くが開発されてきました。しかし、これから起こることはその逆で、ヒトの仕事を奪って行くという側面を持っているということに私たちは大いに注意が必要となります。
 過去、自動改札ができて切符切りの仕事がなくなったのと同様、近い将来に、スーパーでのレジ打ちなども必要がなくなるかもしれません。これらは、ヒトの手を借りずともよくなるわけです。しかし重要なことは、「失っていく仕事」が単純な労働ばかりとは限らないことです。複雑な「弁護士」や「会計士」のような仕事でさえも、データベースやAIによって、次第に代替されていく可能性があるのです。つまり、大変な時代がやってくるという、認識が必要です。
 IT、IoT、Robot、AI をつなげて、ITARIと呼んでいます。これが人間の仕事を代替して行く機械たちです。

② 「非常識」が「(新)常識」に!

 私たちは、これまで先人の知恵として代々受け継がれてきた「常識と非常識」に関することわざや格言を多く持っています。しかし、これから起きることは、その逆が大いに起こり得るのです。これまで「非常識」として一般に流布されてきたことの多くが、今、見直されて来る時代が到来するのです。

例1:「好きなことで喰っていけるほど世の中そんなに甘くない」
⇒(新常識)「好きなことで喰っていけるようにならないと喰いつけない」

 これまでの常識は、生きて行くためには苦労はつきものだというものでした。ですから「若い時の苦労は買ってでもしろ」とか言われてきました。それが成功の秘訣と考えられたからです。
 しかし、ロボットやAI(人工知能)を始めとするe時代は、ヒトの嫌がる苦労する仕事をどんどん減らして行きます。苦労しないと良い仕事に就けないとは必ずしも言えなくなるのです。それどころか、良い仕事ばかりが残るとさえ考えられます。問題は、好きな仕事で喰っていけるようにならないと喰いつけない、という未来、逆に言うと「厳しい」時代が来るともいえます。

例2:「仕事の段取り(首尾)は八分で決まる」⇒(新常識)「段取りは二分やったら、とっとと行動あるのみ」

 昔から仕事の段取りに十分時間をかけることが「成功の秘訣」と考え、良いとされてきました。家を建てる時の大工さんは準備に余念がありません。有名な料理人もそうです。スープの下ごしらえに何十時間もかけます。
 昔、徳川家康が関ヶ原の戦いで勝利したのも、事前に用意周到な準備を十分に行ない、戦いの前日までにはどの武将が西軍を裏切って徳川方に味方するのか、じっくりと時間をかけて工作が終了していたからこその結果です。このことは、勝利がその場で決まるのではなく、事前の段取りでほぼ八割方が決まってしまうことを物語っています。
 しかし、これからの時代は必ずしもそうとは言えなくなります。何故ならスピードが速くなり、刻々と状況が変化して行くからです。情報のスピードが速くなると決断も早くないと、勝機を逸してしまうことが往々にして起こります。こうした時代には、二分で事柄を判断し、興味があったらとっとと行動することが特に大切になってきます。ダメな時には、早くわかりますし、上手くいく時には早く成功します。

例3:「『満たす』とは積むこと・足すこと」⇒(新常識)「『満たす』とは引き算の末にある」

 これまで「満たす」(満足)とは、長年に渡って積んできた実績の末に得るものと考えられてきました。いわば「足し算」の結果です。しかし、これからはそうとばかりは言えなくなります。最初にゴールの満足状態を考え、現実とのやり取りの中で発生する「引き算」の結果が実際の満足となります。満足を上げるためには、引き算(リスク)を小さくするか、最初の満足想定(ゴール目標)を大きくするかしかありません。いずれも過去の「足し算」とは考えられないのです。「満たす」とは「引き算」の末に至るものなのです。

例4:「アレもコレも欲しいなんて無理に決まっている」⇒(新常識)「アレも手に入るヒトはコレも手に入る」

 これまでの時代は、多くの人に満足を得るチャンスがあり、それぞれが自分で納得する結果を得られました。つまり、社会的な満足の総和(いわば「富」)を分割していた訳です。どれかにひとつに的(まと)を絞り、それを真面目に追求することの大切さを教えてきたわけです。しかし、これからは2極化が起こってきます。ちょっとした差が、結果で大きく変わってしまうのです。「Winner-take-all」といわれる、勝者総取りのルールに社会が変わって行きます。ここでは、アレもコレも手に入るヒトとそうではないヒトとに分断されます。

例5:「苦あれば楽あり」⇒(新常識)「楽しいことが成功に導く」

 昔から「人間万事塞翁が馬」と言われるように、私たちはこれまで「苦楽」は交互にやってくるものと、ごく普通に考えてきました。しかし、本当にそうでしょうか?これからは、楽しいことの連続で成功することが可能となっていくことがあります。
 人類が4000年をかけて進化させてきた、実に多くの変化がある「囲碁」というゲームは、大きな転換点を迎えています。過去の記録(棋譜)をすべて学習してしまったAIは、一瞬に何の間違いも起こさず、今や、人間のチャンピョンに勝ってしまいます。AIを上手に利用した者は、「苦と楽」のこれまでの交互現象を学習し、どうすれば「苦」なしに「楽」あり、で行けるかを追求することで、最終的には「楽」ばかりで「成功」を得ることが可能になるかもしれません。

 以上、5つの例からもわかるように時代の常識は変化してきているのです。こうした背景には「e時代」の進化があります。情報化社会の進展があります。

③ すべてがオンザEになる。−Eを目的にするのではなく、EでやるA(アナログ)を考えよう!

 ところで、eビジネスをやりたいという、若い人の声をよく聞きます。そしてその多くはIT・デジタルを用いたソフト・システムの開発の話し(ビジネスアイディア)です。しかし、これらは、もうどの分野もやり尽くされていて「お腹いっぱい」なのです。
 昔のデジタル以前(1994年)の情報流通量を100と考えると、今の流通量は63,900と推計されています(※総務省情報流通センサスより)。短期間にもの凄い情報量が増えたことになります。しかし、ヒトが実際に使う情報の消費量は109とあまり変わっていないのです(※総務省調査など)。1日は24時間という制限があり、ヒトの生活というものは、あまり変わらないのです。
 そこで、乾いたデジタルから温かいアナログ(人々の実感)に注目すること、Eを目的にするのではなく、EでやるA(アナログ)を考えることをお勧めしたいと思います。

 石村社長の提言は「DOGからCATへ」というものです。

 「DOG(デジタル・オンライン・グローバル):世界をひとつに考え、オンラインで結ぶ、グローバル標準の構築」を目指すのではなく、「CAT(カンファタブル・アナログ・タッチ)という快適でアナログで触れる」という新しいビジネス=社会を目指そうというものです。その際、明確な目的や未来の設計図を持つ必要はなく、むしろボヤっとした目的・設計図を持つべきです。
ここに2人のヒトがいたとします。一人は「飛行機のパイロットになる」ことを目標とし、そのために明確で細かいスケジュールを具体的に作成し、資格要件を満たすために着々と準備し努力をすることでしょう。しかし、ちょっとした誤算や狂いが生じると目標は達成できなくなり、「ボクは不幸だ」と思うようになります。しかし、「好きな飛行機の仕事に関わりたい」というボヤっとした目標を持つヒトは、パイロットだけではなく、管制塔や整備などの地上勤務員はもちろん、飛行機の写真家やデザイナー、旅行会社、レストランなど、いろいろな可能性を持つことになります。何が幸せにたどり着けるのか、柔軟な態度で人生(未来)に臨めることになります。
是非、好きなものを見つける旅に出かけて欲しいと願っています。

Eストア—の紹介

設立:1999年 東京証券取引所上場企業
本社:〒105-0003 東京都港区西新橋 1-10-2 住友生命西新橋ビル
札幌市、大阪市にも拠点を展開。豪州やベトナムなど海外にも展開。

「価格・COM(カカクコム)」「ヤフー」「主婦の友」「Google」などと業務提携。
これまでに、データ・メソッド・ノウハウで、ECの立ち上げから運営まで(EC通販、集客、コンサルなど)総合支援を行い、EC専門20年、5万社の実績を持つ。

受講生の感想

3回生男子

今回の講義の中で好きな事でお金を稼ぐ時代のことを聞き、確かにそのような時代が来ていると思うことを何度か経験したことがあります。楽しい講義でした。1回とはいわず何回も講義を聴きたいと思いました。

2回生男子

これからのこと、今までのことをわかりやすく説明してくださったので、よく理解できました。これまでの常識が非常識になり、非常識が常識になる点は、とても共感できました。

3回生女子

とてもタメになる授業でした。「ぼやっとした目標をもつ」という言葉は今まさに就職活動を始める自分にとって励みになりました。

2回生男子

お話を聞いて、1番印象に残ったことは準備も必要だが、まず行動するということです。今の時代はスピードが早く、すぐに状況が変わっていくので、ゆっくりしていると遅れてしまうからです。行動すると失敗も早く見つけられるので、自分の行動も見直したいと思いました。

4回生女子

「好きな事で喰ってくことなど世の中そんなに甘くない」。似たようなことを口酸っぱく言われたことがあります。けれど今日のお話しで昔の常識が非常識になっていくと聞き、とても印象に残りました。ありがとうございました。

2回生男子

数年前に「好きな事で生きて行く」というYouTubeの広告を見て驚いたことがあります。今日の講義を聞いて、どうのように考えて仕事を決めていくのか、どのような時代になって行くのか、学ぶことができました。