2012.8.23

【阪南経済Now8月号】介護と就業の両立のために望まれる制度とは?

【阪南経済Now8月号】介護と就業の両立のために望まれる制度とは?

働きながら家族の介護を行うとき、どういう休業形態が望まれているのか?

 我が国では急速な高齢化が進行しています。当然、介護問題に直面する家族が増えていくことでしょう。もし、あなたの家族に介護が必要となったとき、あなたはそれまでの生活スタイルを維持しつつ、満足のいく介護を行うことができますか?今回の経済学Nowでは、介護と就業の両立のために望まれる制度とはどういうものかに着目し、データ分析した結果をご紹介したいと思います。

介護をする労働者の現状は?

 介護を必要とする家族と同居する労働者のうち、介護を始めた当時の勤務先で仕事を続けることができた人は75.2%です。そして、別の勤務先に転職した人は16.9%当時の勤務先を退職して無職になった人は7.9%で、継続就業できない介護者が多く存在していることがわかります。

 我が国には、家族の介護のために一定期間、仕事を休める制度があって、介護休業制度と呼ばれています。しかし、2006年に実施された『仕事と介護に関する調査』によると、介護開始時期に雇用されていた610名のうち介護休業を取得した人は1.5%にあたる9名で、介護休業制度を利用して介護をしている人はあまり多くないのが現状です。介護休業は、介護のために仕事を休めるというメリットがありますが、比較的長期間のお休みなので、なかなか利用しにくいのかもしれません。

 それでは、家族に介護が必要となったとき、まったく仕事を休まずに介護を行うことができるのでしょうか?答えはNoです。同調査によると、介護休業以外に取ったことがある休業形態として年休の利用が38.6%年休以外の休暇制度の利用が11.9%欠勤が26.8%となっており、介護のために1日単位の休暇を取っている人が多いことがわかります。

介護と就業の両立のために望まれる休業形態をデータ分析!

 そこで、家族の介護のために仕事を休む労働者はどういう人なのか、介護と就業の両立のためにどのような休業形態が望まれているのかを明らかにするためにデータ分析を行ってみました。また、我が国では2009年6月24日に育児・介護休業法が改正され、2010年6月30日から「介護休暇」が新設されました。介護が必要な家族1人につき年5日、2人以上であれば年10日、「介護休暇」を取得できます。一定期間休む介護休業と違って、1日単位で取れる休みというわけです。分析では、この新設された「介護休暇」が有効に機能するのかについての検証も試みてみました。

 主な結果をご紹介すると、欠勤して介護を行っているのは、介護をほぼ1人で担当している人、配偶者(パートナー)が正社員で介護をあまり手伝ってもらえない人、収入が低くてお金を払って介護を依頼することができない人、正社員でないので年休が認められておらず、年休を利用できない人です。このように欠勤して介護する人というのは、1日単位の休みで介護を行いたいと考えている人ということになります。一方で、介護が必要な家族が病院に入院している場合には、長期的な介護休業や年休を取る人が多いという結果も出ました。

 家族の介護環境はさまざまで、それぞれの異なる介護環境に対応するためには長期にわたって取得できる介護休業のみならず1日単位の休暇も求められていることが分析により明らかとなりました。つまり、新設された「介護休暇」は介護のための1日単位の休暇が労働者の権利として認められた点、急な申し出にも対応できる点、取得対象者の幅が広い点において有効な制度といえるでしょう。

最後に一言!

 私は、主として育児や介護、医療といった領域をターゲットとして研究しています。例えば育児でいうと、育児と仕事が両立できるようにつくられた制度や政策がうまく機能しているのか、労働者が求めているものとマッチしているのかといったことについてデータ分析し、制度や政策のどこが良くて、どこが良くないのかを見つけ出し、改善策などを提案する。これが研究者としての仕事です。今回ご紹介した内容は、2012年6月に発行された『日本労働研究雑誌』第623号に掲載されていますので、もしよかったら、ご覧になってください。

参考文献
池田心豪(2008)「介護休業制度の利用状況とその課題—「仕事と介護に関する調査」から」『男も女も』2008年春・夏号No.111、pp.50-55。