【阪南経済Now6月号その1】マクロ経済学と物価問題

 こんにちは,経済学部で「マクロ経済学」を担当している西洋です。

 マクロ経済学は,一国経済全体の調子を考察する学問です。例えば,一国経済の豊かさを測る代表的な指標である国内総生産,どれだけの人が経済全体で失業しているのかを表す失業率,為替レート(ある国で使われているお金と,ほかの国で使われているお金の交換比率)などが,どう決まるのかを理論やデータによって説明しようとするものです。これは極めて現実志向的な学問であり,新聞やニュースを理解することにも役立ちます。

 今回は,マクロ経済学が考察対象とする重要なトピックスの一つとして,われわれ市民の生活とも密接にかかわる物価の問題について,簡単に解説をしたいと思います。

代表的な物価指数

 まず,経済全体で財やサービスが,おおよそどれくらいの価格で,取引されているかを知るには物価指数を見ることが重要です。

 物価指数とは,ひろく定義すれば,家計,企業,政府,海外の間で取引される財(人間の欲求を満足させる形あるもの)やサービス(人間の欲求を満足させる形ないもの)が,経済全体でおおよそどれくらいの価格で取引されているかを表すものです。物価指数は,測定する財やサービスの種類によって,もう少し狭く定義することも出来ます。代表的なものには,(1)消費者物価指数,(2)企業物価指数,(3)GDPデフレーター等があります。

 消費者物価指数は,全国の世帯が購入する家計に係る財及びサービスの価格等を総合した物価の変動を時系列的に測定するものです。少しテクニカルにいうと,ラスパイレス方式に従って作成されており,家計の消費構造を一定のものに固定し,これに要する費用が物価の変動によって,どう変化するかを指数値で示したもので,毎月作成しています。

 企業物価指数とは,企業間で売買する物品の価格水準を数値化した物価指数を指し,国内企業間,輸出向け,輸入向けの財にかかわる指数があります。
 GDPデフレーターとは,一国経済の豊かさを測る国内総生産(GDP)に計上されるすべての財・サービスを対象にした物価指数です。企業物価指数や消費者物価指数よりも包括的な物価指標といえます。
 なお,物価指数と価格は似通った概念ですが,物価は,さまざまな財・サービスの価格の平均を指し,価格は購入される財・サービス1単位に支払われる貨幣量をあらわします。つまり,物価指数とは複数の財・サービス価格の全般的な動向を測るものです。

 そして,一般物価の変化率の持続的な上昇をインフレーションといい,逆に一般物価の変化率の持続的な下落をデフレーションといいます。上の3つの指標でみると,企業物価指数は,その変化率が1980年代初頭からマイナスであり,GDPデフレーターは1990年代初頭からマイナスを示す様子が見られました。そこに,1990年代の後半から消費者物価指数の変化率までもマイナスの変化を示し始めました。日本のデフレーション問題は,いわゆる失われた10年と呼ばれる間に生じた,消費者物価指数の持続的な低下をもって語られ始めます。